act.18
「あ、土方さん。おかえりなせェ。」
「……お前に言われっと気持ち悪ィ。」
「あり?紅刃は一緒じゃねぇんですか?」
「あ?アイツ帰ってきてねーのか?」
act.18
弱ェっ!!弱過ぎるぜっ!!
なんだこれ。
なんで十字に張り付けられてんだあたし。
あたしは救世主じゃねーよ。
一般ピーポーだってーの。
気が付いたらこんな状態な鷹居紅羽です、こんにちは。
ママ(マドマーゼル西郷)の元に愚痴を吐きに行くつもりだったんだけど途中で誰かに拉致られた。
「(……あの風貌は、高杉晋助?)?」
前に一度見せられた指名手配犯の写真に入っていた過激派攘夷浪士。先の真選組内乱にも関わっていたとかいないとか。
「(……なんで、こうもツイてないかな。)」
ふう、と溜め息を吐く。
ま、こんな縄、あたしの力をして千切れないことはないけど、暫く様子見かな。何か情報でも手に入れてから帰ろう。
まだ気を失ってますよーな感じであたしは気配を殺した。
暫くして下っぱ浪士であろう会話が耳に届く。
「なぁ、さっき晋助様が取っ捕まえてきた奴、警察庁長官秘書鷹居黒刃の親族らしいぜ。」
あ。あたしだ、あたし。
「マジかよ。で、そんな奴どうしようってんだ?」
「なんか、人質にして幕府に政権明け渡すよう脅すって話だ。」
マジでか。ヤバいな。
「へぇ、でもよ、幕府の重鎮って天人だろ?人間一人の為に動くか?」
それもそうだな。
「なんかさ、それが目的みたいだぜ。その鷹居黒刃の親族がさ、真選組副長補佐の鷹居紅刃なんだってよ。」
「へぇ!!あの実績はまだねぇがやたらと市民に人気があるっつー。」
マジか。あたし人気者なんだ。
やった。
「ああ。それでアイツ殺して国民に反感交わせて、正当な反幕運動起こすらしいぜ。」
反幕運転に正当もクソもあるか。不正だよ、全部。
「はー、流石晋助様だな。俺達じゃ敵わねぇ。」
「だな。」
……アホな浪士もいたもんだな。完璧に気絶してるって思ってやがる。
つーか、いつまでも此処にいたらヤバくね?殺されんじゃん。
殺られる前に殺れ。これ鉄則。
……丁度腹の虫の居所も悪いし(原因、兄者)、逃げる序でに一暴れしてこうじゃないか!!
あたしは手首と足首の縄を引き千切って、こっそりと歩き出した。
*****
「居たかっ?!」
「いや、僕の家にも妙ちゃんの家にも立ち寄ってないようだ……。」
「っち、何処行きやがったんだ…。」
時刻は午後10:30過ぎ。
近藤とキャバクラにでも行っていれば別だが、紅羽が未だ屯所に帰ってこない。
もう20近いから平気だろうと思っていた土方だが、その旨を近藤に報告したところ、
“えっ!!?紅刃君が帰ってきてないっ!?ちょ、トシ、マズイよっ!!あんないたいけな未成年がこんな夜中まで帰ってきてないっておかしいっ!!探してきなさいっ!!これ、局長命令っ!!”
とかなんとか言い出して現在に至る。
紅羽の行きそうな場所、と言うことで取り敢えず柳生家を訪ねた。九兵衛にはその時、事の次第を説明し、協力してもらっている。
「(…屯所に帰ってれば近藤さんから連絡も来る筈。)」
携帯を確認するも、着信はない。
「(幾ら何でも遅すぎだろう…!)」
舌を打って携帯を仕舞った。
「どうするんだ?!他に紅羽が行きそうな場所に心当たりはないのか?!」
「行きそうなトコは全部回った。あとアイツが行くようなトコなんか…………あ。」
言いかけて、土方の頭に先日のある人物が浮かぶ。
“あんら、紅羽じゃな〜い。久しぶりねぇ〜”
「どうした?」
言い終わらないうちに固まった土方を不審に思い、九兵衛は声を掛けた。
「何だ、心当たりがあるのか?」
「いや、アレはない。つーか、場所知らねーし。無いよ無い。」
「心当たりがあるんだなっ!?何処だっ?!!何処なんだっ?!!」
「いや、違う。絶対違う。違ってて欲しい…。」
「っ!!貴様ハッキリしろっ!!!」
曖昧な返事をする土方に、痺れを切らした九兵衛は、腰の柄に手を添え、抜刀せん、とした時だった。
「何をしているんですか?御二方。こんな夜中に。」
紅羽がいなくなった原因とも言える声がした。
「黒刃殿っ!!」
「テメェも何やってんだよ。」
振り返ると、紅羽の兄、黒刃が小首を傾げて立っている。
「私は、すなっくすまいるに阿呆な上司を迎えに行くところですが?貴殿方は………あ、ああああ逢い引きです…、か?」
自分の事を伝えた後、黒刃は顔面蒼白にして震えだした。
「ンなわけねーだろっ!!」
「馬鹿なっ!何故僕がこんな奴とっ!!」
「あ、そうですか。良かった良かった。で、何してるんですか?闇取引?」
全力で否定する二人に安心し、黒刃は物騒な事を口走った。
「アンタ、ホントに警察庁長官秘書か……?」
可笑しな質問に土方は肩を落とし、応える。
「鷹居が帰ってこねーんだ。」
「おや、それは変ですね。紅羽には用事がない限り18:30迄に巣に帰るように仕込んであるのに。」
「巣って、お前……」
「方々探したが見つからない。黒刃殿、何処か心当たりはないか?」
九兵衛が聞くと、黒刃は顎に手を当て、思考を巡らす。
「……そうですねぇ…、あ、かまっ娘倶楽部には行きましたか?」
「かまっ娘倶楽部?」
「……ああ、やっぱそう言うトコか…」
「まだみたいですね。電話してみますよ。ちょっと待って下さい。」
土方が、ガックリと肩を落とすのを見、黒刃は携帯を取り出して、番号を押し始めた。
「オイ、とっつぁんはいいのか?」
ふと、黒刃が此処にいる理由を思い出した土方が疑問をぶつける。
「いいんですよ。迎えに行っても特別給金とか出ないんで。それよりは妹のが心配で……あ、もしもし?マドマーゼルさんですか?私です、黒刃です。御無沙汰しております。」
にこっ、と微笑んで答える黒刃を誰もが妹思いの良い兄と思うだろう。
が、黒刃の言葉には
“目先の玉の輿に乗せねばならない妹が傷物にでもされたら大変なので、その身の安全のが心配です”
という意味が隠れているとは知る由もない…。
*****
「(…………出口何処?)」
暗がりを滅茶苦茶に歩いて、あたしは思った。
今のところ浪士に出会してはいないのだが、それより周りが真っ暗で出口が見当たらない。
詰まる所、あたしは迷子になっているのだ。
「(つーか、この建物?自体何処にあんだよ。窓ねーし電気ついてねーし、高杉一派はそんなに金無いのか。)」
でもまぁ、じっとしてるよりは動いてた方がマシなので、うろうろし続けることにする。
「(…土方さん、心配…してねーな。マヨネーズの安否の方があの人には大事だよ。近藤さん心配してんだろーなー。)」
あの人なんかみんなのお父さん的存在になりたがってるみたいだから。
ウザイだけなんだけど。(酷)
ぼんやり考えながら歩いてると、肩が何かにぶつかった。
「…おっと、気を付けてくれ。」
「あ、すんません。」
軽く会釈を返して、あたしは再び歩き出す。
「………」
「………」
「………」
「……」
「く、曲者ォォォォォォォォォォォォ!!人質が逃げ出したぞォォォォォォォっ!!!」
やべ、上手いことスルーできなかったよ。
あたしは追い付かれないよう全力で、やっぱり滅茶苦茶に走り出した。
くそぅ、非番だから着流しなんだよ。走り辛いったらねぇっ!!
後からはわぁぁぁぁぁ、と浪士達が追い掛けてくる。
って、いつの間にあんな増殖したんだよっ!!さっき1人だったのに足音から200はいますよっ?!!
つーか…
「出口何処ォォォォォォォォォォォォォォォっ!!?」
*****
「……そうですか、はい。…ええ、……あ、はい、お願いします。はい…はい…御迷惑御掛けします。はい、失礼致します。」
ピッ
「どうだったのだ?」
黒刃が携帯から耳を離すと、九兵衛が眉尻を下げ心配そうに尋ねる。
「…今日は行っていないようです。」
「そうか……。」
「じゃあ何処に行ったんだ、鷹居は。」
「……九兵衛くんや妙さんの所、真選組の屯所にはまだ?」
「ああ。」
「屯所にもまだ帰ってきてねぇみてぇだ。」
九兵衛に続いて土方も携帯の履歴を確認し、答えれば、黒刃は伏し目がちに溜め息をつく。
「……油断していました。自分の官職を理解していながら私は…。」
「まさか、誘拐っ?!」
「馬鹿言えっ!!アイツは仮にも真選組の一員だぞっ!?自分の身ぐれぇ……」
尻窄みに土方は言い、俯いた。
「…あの娘、紅羽は感情的になると極端に周りが見えなくなるんです…。解っていながら私は…。」
続いて黒刃も目を伏せ、悔しげに歯を縛る。
「……っ、だったら早く紅羽を助けなくてはっ!!落ち込んではいられないぞっ!!」
気まずい空気を打破したのは九兵衛。
「大事になれば真選組の信頼も危うくなるだろうっ!?」
「……だな。これ以上評判下げる訳にはいかねぇ。そうなる前に何とか探し出さねぇと。」
その言葉に、渋い顔のまま土方は頭を上げた。
「俺は日本橋の方を…」
「待って下さい。」
「何だ、黒刃。」
踵を返し、駆け出そうとする土方の言葉を遮り、黒刃は懐からタブレットケース程度の“何か”を取り出した。
「何だそれ。」
「発信器です。」
「発信器ぃっ?!!」
「そんなものどうするんだ?」
「紅羽に付けてあるんですよ。あの娘昔からすぐ迷子になるので、常に首から提げてある母上の形見を弄って付けたんです。」
「「………」」
にっこり微笑み黒刃は言った。さっきの憂いた表情は何処へやら。
「…つーか、端からそれ使えェェェェェェっ!!!!」
*****
「はっ……はっ……」
ちっくしょ、しぶとい奴らだ。
がむしゃらに走ってんのに一向に撒けない。
地の利は向こうにあるとは言え、いくら何でもしつこ過ぎるだろーがっ!!
「……っ!!おおおおおおっ!!」
スピードを最大限まで上げて、あたしは走り、一本道を突き当たりで曲がるが、
「……あっ!!」
咄嗟にブレーキを掛けた。
「い、行き止まり…っ。」
何このベタな展開っ!!
「はぁ、はぁ、…ふはははははっ!!お、追い詰め、た、ぞ。こ、仔鼠、め、!!」
おい、息切れてんぞ。
「い、いか、生かして、と、らえ、ろっ!!ひ、とじ、ち、だっ!!」
後方の集団で一番格が上らしい人物が刀の切っ先を高々と上げて言った。
つーか、息切れてるって。
威圧もなんもねーよ。
しかし命令らしいそれは集団に伝わり、奴等は一斉に抜刀し、あたしに斬りかかってきた。
……やれやれ、あたしの目的は高杉晋助か河上万斉なんだけど。
「……しゃーねーな。」
***
紅羽は懐から愛刀を出し逆手に構えた。
「「「わぁぁぁぁぁっ!!!」」」
纏まって向かってくる浪士達の太刀が届く寸前で得物を大きく振る。
ドォンッ!!!!!
「ぐっ!!」
「うがぁっ!!!」
衝撃波と得物が入った浪士が吹き飛ぶのを利用して紅羽は周囲を薙払い、クレーターをつくる。
「なっ!!貴様、何者だっ!?」
その威力に驚き刀の切っ先を掲げた男は後退った。
「何者だァ?分かってて拉致ったんだろーが。…真選組副長補佐、鷹居紅刃たァ、オレの事だっ!!」
顔に着いた返り血を拭い、紅羽は不敵に微笑むと、浪士達の背筋に悪寒が走る。
「ひ、怯むなっ!!相手は一匹っ!!捕らえろォォォォォォォっ!!」
男は、震える足を踏ん張り、もう一度刀を掲げる。
「上等っ!!掛かってきやがれ、屑共がァァァァァァァっ!!!」
紅羽は目を見開いて叫ぶと、単身、眼前の集団に突っ込んで行った。
*****
「ねぇ、黒刃殿っ!!ホントに俺達4人だけで良いのっ?!仲間のピンチとあらば、真選組総出だって構わないよっ?!」
「煩いですよ、ゴリラっ!!何処の攘夷浪士か分かりませんが、ある程度はあの娘一人で問題ありませんっ!!」
「今、ゴリラっつった?!今、ゴリラっつったよねっ!?」
パトカーを飛ばす黒刃。
同乗するは、近藤、土方、沖田の3人。
黒刃が紅羽に取り付けた発信器から彼女の居場所を割り出し、向かっている最中だ。
場所は水上。端的に言えば船上であることは間違いない。
「しかし黒刃さん。ホントに攘夷浪士がいるんですかィ?只の貿易船で紅羽が間違って乗り込んだだけかもしれやせんぜ?」
「いえ、沖田くん。あの辺りで最近不審船が目撃されています。ですから恐らくは何処ぞの集団の隠れ家でしょう。」
スピードを出しつつ黒刃は答えた。
「それに、貿易船だった時の為にこの人数で来ているんですよ。」
「「「貿易船に紛れ込んだ可能性もあんのかよっ!!?」」」
「あの娘アホですから。」
「……。そういや黒刃。とっつぁんはいいのか?」
土方がふと、黒刃が今していなければならない事を思い出して、疑問をぶつける。
「知りません、あんなの。」
「いいのかそれでェェェェェェっ!!!」
キキッ!!
土方の突っ込みを然り気無く無視して、黒刃は敢えて急ブレーキを掛けた。
「っ?!危ねーじゃねーかっ!!」
「黒刃殿っ!!安全運転でっ!!」
「危険運転致死傷罪ですぜ。」
3人は思い思いの不満をぶち当てるも、やっぱり黒刃はスルーして、運転席から外に出る。
「さぁっ!!着きましt……」
ドゴォンっ!!!
黒刃の言葉は外から聞こえる爆発音に掻き消された。
「?!何だっ?!!」
土方、近藤、沖田が素早く車外に出ると、眼前の巨大な屋形船から煙が上がっている。
「…ああ、手遅れでしたか……。」
「えっ?!黒刃殿っ、ちょ、何それっ?!!紅羽ちゃんヤバいのっ?!ヤバい事になってるって事っ?!!」
目を細め、屋形船を見上げる黒刃に近藤が聞くが、黒刃は苦い表情を変えなかった。
「っ、鷹居っ!!」
「土方さんっ!?」
痺れを切らした土方が屋形船の方へ向かうが、
がしっ!!
不意に腕を掴まれ、振り返ると、神妙な表情の黒刃がいた。
「……放せ、黒刃。」
「……土方さん、紅羽を心配して下さるのは、非常に、かなりの勢いで嬉しいのですが、今行けば………貴方が死にます。」
「何っ?!」
ドスを利かせた土方の声に怯みもせず応えた黒刃に土方は表情を強張らせる。
黒刃は土方の腕を掴んだまま、空いた手で屋形船の船頭を指差した。
「「「?」」」
土方、近藤、沖田は黒刃の指を辿って、船頭を見上げる。
と、そこには………
「ひゃははははははっ!!!弱ェっ!!弱過ぎるぜっ!!って、オレが強過ぎンのかっ!?はっはっはー!!!」
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
「何だこいつぅぅぅぅぅ!!?」
「助けてェェェェェェェェェェェェェっ!!」
高らかに笑い、紅羽が得物を振り回し、逃げ惑う浪士達を片っ端から斬り付ける光景だった。
「「「…………は?」」」
「……はぁ、手遅れでした……」
Tobe continued……