act.20
例のグダグダから数日。
起床し、食堂に向かったら隊士のみんなが集まっていた。
「おはようございます。」(おはよう御座います)
「お、噂の紅刃じゃねぇですかィ。」
「は?何スか、沖田さん?」
act.20
だーっ!!あーっ!!あ゙ーーっ!!
隊士達の中心人物であろう沖田さんはあたしを発見すると、何やら段ボールと新聞を持って近付いて来た。
ドサッ
「……は?」
「全部紅刃宛でさァ。」
あたしの目の前で段ボールを下ろし沖田さんは言う。
「昨日の新聞で顔写真載った途端にコレですぜ。」
ばさり、と手にした新聞を開き、目の前の段ボール、はち切れんばかりに何かが詰まったそれを指差した。
半開きの目を擦り、沖田さんが広げる新聞に目を近づければ、何やら見た事のある横顔。
「……おれー……?」
「そーでィ。件の浪士大量確保で今、巷の話題は紅刃で持ちきりでさァ。」
「へぇ…で、何スか、この山は。」
ぼーっとしながら相槌を入れ、あたしは眼前の段ボールを指した。
すると沖田さんは、鈍いですねィ、と言ってから例の記事を指す。
「ここに顔写真載ってるだろィ?」
「はぁ。」
「それとこの記事、読んでみなせェ。」
沖田さんが指で示す箇所に目を凝らした。
「えーと、“阿修羅の如く浪士達を薙ぎ倒し、確保に奮闘する真選組新鋭、鷹居紅刃(19)。甘いマスクの裏に隠れた攻撃的な一面”んんっ?!何だコレっ?!!」
眠気なんかは完全に吹っ飛び、あたしは沖田さんから新聞を引ったくる。
「コレ何時のッスか?!」
「昨日。紅刃が土方さんに散々遊ばれてた昨日の朝刊でさァ。」
「何その言い方。大分嫌なんスけど。大分イラっとくるんスけど。誤解を招くんスけど。」
至って飄々と言う沖田さんに冷たい視線を向けた。
畜生、どいつもこいつも人を馬鹿にしやがって。
兄者とか兄者とか兄者とか兄者とか!!
「まぁ、そう言う事でさァ。ミーハー面食い共からの鷹居“紅刃君”宛、ラブレターと差し入れですぜ。」
沖田さんは悪戯っぽい笑みを浮かべ、ズイッと目の前の段ボールをさらにあたしに近づけた。
今、敢えて紅刃強調したな、コノヤロー。とは言え兄者の節約生活の指令(独り暮らし始めてからずっと)により、じり貧生活を強いられてるあたしにとって差し入れ(=お菓子)は神の御加護であり最後の砦であるんで、素直に段ボールを受け取る。
「有り難う御座いました。」
「市中見廻りにゃ気を付けなせェ。」
「?………はぁ。」
最後に沖田さんが言った事の意味は分からんが、あたしは例の段ボール持ち上げ自室に向け踵を返した。
……何気に重いな…。
*****
「鷹居、見廻りだ……って何やってんだお前…?」
「あ、土方さん。」
「キャンッ!!」
「何その犬…」
部屋の入り口で突っ立っている土方さんは白い仔犬と戯れるあたしに言った。
例の段ボールを持ち、部屋に戻ったあたしは、早速それを開けてみた。
すると、大量の手紙やら小包やらがビックリ箱みたいに溢れてきたのだ。
一瞬呆気にとられたが、いやいや、んな漫画みてーな事はないだろ、と箱を覗くとこの白い仔犬がいた訳。
「差し入れに入ってたんです。可愛いでしょー?」
「いや、そうじゃなくて……。それ多分差し入れじゃねーよ。」
仔犬の脇を持って、土方さんに見せるように付き出せば、ため息と共に頭を抱える。
「何か手紙とかついてねーのか?」
「え?あ、首輪に何か挟まってる。えーっと…“鷹居紅刃さんへ。この子を私の代わりと思って貰って下さい”」
「……そんだけか?」
「(笑)と書いてあります。」
「笑えねェェェェェェェェ!!!」
バリィィィィィッ!!!
「あっ!!」
土方さんはあたしが手にしていた手紙を引ったくって引き千切った。
「要はそれ捨ててっただけだろーがァァァァァァァァ!!!真選組舐めんじゃねぇぞォォォォォォォ!!!」
「あ、封筒にもう一枚ありました。」
「何だっ?!連絡先でも入ってたかっ?!!」
「キレーな巫女服ねーちゃんの写真が一枚。」
「ふざけんじゃねェェェェェェェェ!!!」
*****
「いいか、鷹居。飼い主見つかんなかったら、テキトーなトコでそれ捨てろよ。屯所じゃ飼えねぇーからなっ!!」
「えー。頑張りゃなんとかなりますって。ねー、狛子ちゃーん?」
「キャンッ!!」
「キャラ変わってるから、キャラ…」
ったく、と舌打ち、銜え煙草に火を着ける土方さんと只今市中見廻り中。
ちなみに、首輪に“狛子”と書かれた例の仔犬と一緒だったりする。
あたしとしてはこのまま屯所で飼ってしまいたいのだが、土方さんは是と言わない。
「どうしても無理なら、誰か辞めさせればいいじゃないッスか。」
「おまっ、仲間と犬を同じ天秤に乗せんじゃねーよ。」
「山崎さんあたりとか。」
「話聞け。てか、ひでーな、オイ…。」
お前は山崎のお陰で入隊できたんじゃねーのか、と頭を小突かれた。
「兎に角、あの写真の女見つけて返す。じゃなけりゃ捨てる。いいな?」
「はーい。」
何だよ、折角可愛いのに。
土方さんはケチなんだ。
ぶーたれながら返事をすれば、盛大に溜め息をつかれる。んだよ、いちいち。腹立つな。
当て付けに土方さんの溜め息に負けない盛大な舌打ちをかましてあたしは懐から例の写真を取り出す。
黒い長髪で前はセンター分け。でもって巫女服。
キレーだけど何処か兄者を連想してしまう雰囲気……どっかで見たことあるような……。
うーん…何処だったか……。
考え込んで思い浮かんだのが何故か松平公だった。
「あ、そうだ。土方さん。今日、松平公、インタビュー受けるらしいっすよ。」
「あ?いきなり何だよ。」
話を振れば訝しげにこっちを向き、副流煙を顔に掛けられた。
「げっふぉ、げふぉ…や、なんか思い出したんで。」
「へぇ。で?」
過剰なまでに咳き込み、副流煙攻撃に抗議するも、土方さんは毛程も気にせず言葉を返す。
畜生、このニコ中がっ!!
ニコ厨と表記してやろうか、コルァ!!!
「や、別にどうって訳じゃないッスけども、変な事喋んねーといーなーって。つーか謝れ、土方コノヤロー!!」
「ああ。アレか。お前の記事に対する講評か。無理だと思うぜ。あのオッサンは存在が変だからな。」
やっぱり、さらっと受け流された。
何だ?沖田さんもそうだが、最近あたしを虐めんの流行ってんのか?
女子のホワイトデー要求の比率で仕返しするぞ、マヨラーがっ!!
「……土方さんって何気に酷い事しますよね。」
「あ?」
「なんでもないです。」
最後は八つ当たりで適当に返した。
どいつもこいつも人を馬鹿にしやがって!!(本日二回目)
グレるぞ!
ふと顔を上げれば、前方に白い塊と3人の人影が。
一人は至って凡。
一人は晴れなのに傘さしたチャイナ娘。
最後の一人は憧れのクリクリ銀髪。
「あ!!」
「今度は何……って、オイ!?鷹居!?」
土方さんの抑止など、最早耳に届かず、あたしは狛子をほっぽって、憧れのクリクリ銀髪に突撃した。
「パァァァァ子さァァァァァァァァんっ!!!」
どかっ!!!
「ぐふぉっ?!」
背後から勢い良くぶつかったら、パー子さんは海老反る。
「ぎ、銀さァァァァァァァァんっ?!!」
「お前ェェェェェ、銀ちゃんに何するカっ?!」
「ぎんちゃん?」
至って凡な奴は悲鳴をあげ、チャイナ娘はあたしに突っかかってきた。
てか、ぎんちゃんって誰?
「あだだ……っと、オメーはいつぞやの。」
パー子さんはあたしが突撃した腰を擦りつつ、起き上がる。
「お久ッス、パー子さん。」
「や、パー子じゃねーから。」
「つーかホントにもう店には戻んないんスか?」
「戻るも何も、俺、そっちの人じゃないからっ!!」
「パー子さんとヅラ子のツートップ大好きだったんですけどー。」
「その大好きは今の俺に言って欲しいんだけどっ!!本来の姿の俺にっ!!」
言って胸を張る現在のパー子さんに目を向けた。
クリクリ銀髪は変わりないんだけども………
「無理。言えない。」
「酷っ!!」
「だってあのふわふわツインテールがないじゃないですかっ!!可愛くないじゃないですかっ!!」
「え゙え゙え゙え゙え゙っ!?」
「鷹居っ!!犬放り出していきなり走り出すんじゃねぇっ!!」
「あ、土方さん。」
パー子さんに思いの丈をぶつけると、丁度土方さんが狛子を引っ張って追い付いてきた。
……何か、土方さんが仔犬引っ張ってんの無駄にウケるな…。
「あ、すんません。」
今にも吹き出しそうな笑いを殺して狛子のリードを受け取る。
「キャンっ!!」
「ワンッ!!」
「あれ?」
背後から狛子以外の犬の鳴き声がした。
疑問に思って振り返ると……
「ワンッ!!」
「うぉわっ!!でっかい狛子っ!?」
「でっかい狛子じゃないネ!!定春ヨ!!」
でっかい狛子、元い、定春の隣のチャイナ娘が豪語した。
……腕、噛まれてますけど…。
「狛子…?聞いた事ありますね…。」
あたしの口から出た言葉に反応し、呟いたのは至って凡。
……ん?あれ?どっかで見たかもしれないぞ、この凡顔。
「えーと、えーと……あ!!濡れ衣のダメガネっ!!!」
「オイィィィィィィィ!!!初対面でアンタ、いきなり失礼、……あれ?初対面?」
ああ、やっぱそうだ。この過剰なまでの突っ込み。間違いない。
「ほら、オレオレ。でにぃずの」
「あっ!!鷹居さんっ?!」
「そーそー。」
「でも、鷹居さんって……あれ?男の方でしたっけ?」
あ、やべ…!
今、過去のあたしを知る人に会うのは不味いんだった…!
「あー、うー、えー……、」
「鷹居、知り合いか?」
わたわた母音を並べていると、土方さんが助け船を出してくれた。
助かった…!!あたしはそれにダイブする。
「あ、はい。前のバイトで。」
「オイオイ、多串君。俺達にそれはないんじゃない?初対面ですー、みたいな。こないだ色々手伝ってあげたじゃん。まだギャラも貰ってないし。」
土方さんの質問に言葉を返すと、パー子さんが話に割って入った。
「誰が多串君だ。いい加減名前覚えろ。」
「あれ?土方さん、パー子さんと知り合い?」
「パー子?」
「だから、パー子じゃないってェェェェェ!!」
会話からしてどうやら旧知の仲らしい土方さんとパー子さん。
てか、さっきからパー子さんが自分をパー子さんだと認めてくれないんスけど。
「パー子さんじゃないなら、貴方は誰なんですか。」
「そうそう。それ聞いてよ。俺は坂田銀時。万事屋銀ちゃんとは俺の事だ。」
「へぇ…。じゃあダメガネ、今そこでバイトしてんのか。万事屋ってたもんな。」
「え、ちょ、そんなさらっと…」
パー子さん、元い坂田さんが誇らしげに言うのを軽く流してあたしは再びダメガネに話を振った。
「鷹居さん、僕の名前覚えてないんですか。」
「だからダメガネ。」
「違うからっ!!ダメガネって、そんな名前ねーよっ!!新八ですよ。新八。」
「あれ、そうだっけ?」
「酷っ!!てか、流されちゃいましたけど、鷹居さん、女の、」
「だーっ!!あーっ!!あ゙ーーっ!!と、取り敢えず久し振りに会った訳だし、この辺にオレの友達ん家あるからそこにお邪魔しよーぜっ?!なっ?!」
「……え、っと……ぎ、銀さん、良いですか?」
あっぶねー!!超公衆の面前で暴露されたら敵わねーよっ!!
あたしは気迫でダメガネを丸め込んだ。
ったく、ダメガネのクセに妙な事言いやがって…!!
「んー。いいんでない?別に。」
坂田さんが頭を掻いて適当に応える。同意はしてくれてるみたいだ。良かったっ!!
「土方さんもっ!!い、いいですよね…?」
「まぁ、……仕方ねぇか。」
恐る恐る(何てったって今仕事中だから)、土方さんに聞けば、事情を察してくれたのか、紫煙を燻らしながら是と答える。
ああっ!!あたしはホント、人間関係に恵まれてるよっ!!
さて、こうなれば残るは例のチャイナ娘からの同意がいるわけだが…。
何だろ、この娘なんかあたしの顔凝視してるんですけど…
「えーっと、御嬢ちゃん?」
「あぁぁぁぁぁぁっ!!思い出したネっ!!どっかで見た顔だと思ったら、兄ちゃん昨日のTHE EDOで写真出てた鷹居紅刃アルなっ!!」
「…え゙、」
何ィィィィィィィ!!テレビにも出たのかあたしィィィィィィィっ!!ってそうじゃなくてっ!!
こんなとこで叫ばれたら目立つじゃんっ!!!
「鷹居、紅刃…?」
「うそ、本物っ?!」
「あっ!!土方さんも一緒じゃないっ!!」
い゙い゙い゙い゙い゙っ!!みんな見てるぅぅぅぅっ!!!
がしっ
「?」
あたふたしてると、不意に腕を捕まれる。
顔を上げれば、引き吊った顔の土方さん。
「……鷹居、走るぞ。」
「へ?」
言ったかと思えば、土方さんはあたしの腕を掴んだまま、全力で走り出した。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!転けるっ!!転けるぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「うるせっ!!黙れっ!!!」
「オイ、待てよ多串君っ!!」
「誰が多串だァァァァァァァァっ!!」
「待つネ、トッシーっ!!!」
「もうそれ返上だっつーのォォォォォォォ!!!」
「ちょ、置いてかないでェェェェェェェェェェ!!!」
後ろからの声に振り向けば、万事屋の3人。しかし、その背後に…
「きゃああああっ!!鷹居さんよぉっ!!」
「鷹居紅刃さんがいるわぁぁぁっ!!」
「待ってー!!紅刃さぁぁぁぁんっ!!!」
何あれェェェェェェェっ!!
どっから沸いたのか、多数の江戸女性市民。
ちょ、軽くパレードじゃないですかっ!!!エレクトリカルな感じじゃないですかっ!!!
引っ張られながら、ふと、朝、沖田さんが言ってた事を思い出した。
“市中見廻りにゃ気を付けなせェ。”
そういう事か………っ!!
Tobe continued……