act.23
「……遅いですね、姉上達。」
「女の着替えなんざそんなもんだってぇ〜。さぁーてと、」
「…おい、万事屋。何処行くんだ?」
「厠。」
「銀さん、厠は逆方向ですよ。」
「あ、違った。台所。」
「何でだよ。」
「糖分補給に。」
「銀さん、台所は向こうですよ。」
「………違う違う。あの、アレ。俺アレしに行くんだ。」
「アレって何だよ。」
「アレはアレだよ多串く〜ん。アレ。」
「分かんねぇよ。てか多串じゃねぇよ。」
「うっせーな。兎に角アレなんだよ。俺はあっちに行かにゃなんねーんだよ。」
「銀さん、あっちって鷹居さんが着替えてる部屋ですよ?」
「そーだよ。あ、別に覗きじゃねぇから。コレを逃したら次のチャンスが何時になるか分かんないから知的好奇心を…」
「「覗く気満々じゃねぇか、この天然パーマァァァァァァァァァァ!!!」」
act.23
罰ゲームだ。罰ゲーム。
「さぁ、出来たわっ!これならバレない筈よっ!!」
「あの、妙ちゃ…」
「アネゴっ!!頭がまだ紅刃のまんまネっ!!サラッサラにできないアルかっ?!」
「ちょ、神楽ちゃ…」
「ホントだわ!でも大丈夫よ、神楽ちゃんっ。とかして熱当てれば直るわよ!!」
「話…」
「私、ドライヤーの準備しとくネ!!」
「あ、あの…」
「あら、ありがとう。じゃあ私は梳かしてるわっ。」
「…………」
此処まで無視するってどうだろう?
ちなみに現在、妙ちゃんの提案で女装(?)する事になってんだけど……
「アネゴ!ドライヤー準備完了ネっ!!」
「ふふ、ありがとう神楽ちゃんっ。ねぇ、紅羽ちゃん。髪弄っても良いかしら?梳かしたら何とか結えそうだわ!!」
「…もう好きにしてくれ……」
見事なまでに着せ替え人形化されました。
やれ着物だ、やれ帯だ、簪だ、櫛だ、って否定の隙も与えてくんなかったよ。
あれよあれよという間に、とは正にコレだ。
しかも着せられた着物、計ったかのようにピッタリだしっ!!何でだよっ!!妙ちゃんあたしより小柄じゃねーかっ!!
…まだ鏡見てないけど、もう絶対オカマだよ。ママの店で働けちゃうよ。
……嫌だー。見たくねー。
「紅羽ちゃん、そんなこの世の終わりみたいな顔しないのっ!!すっごく綺麗よ!!」
「御世辞は良いよ、妙ちゃん…。」
「アネゴっ、紅羽に化粧はするアルか?」
「化粧ぅ?!!」
「そうねー……紅くらい挿しましょうか。」
「え、やだっ!!やめようっ!!?」
「大丈夫よ。取って食う訳じゃないから!」
「いやいやいや、人喰ったみたいになるってっ!!拒否する!!拒否!!」
「あら、紅羽ちゃんに拒否権なんかないのよ。神楽ちゃん、そこの化粧箱持ってきて。」
「酷っ!!!妙ちゃん酷ォォォォォォっ!!」
*****
「…………遅いっ!!」
なかなか戻ってこない紅羽達に痺れを切らした土方が机を叩いた。
「お、落ち着いてく下さいよ、土方さんっ!!」
「気の早い男は嫌われんぞ。」
「テメーに言われたかねぇっ!!此方人等ちんたらやってる暇はねーんだよっ!!」
盛大な溜め息をついて、土方は頭を掻く。
「…ここにいんのがバレたら本も子もねぇ、」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!土方さぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」
ドォン!!
「……がっ?!!」
爆音量の悲鳴がしたかと思うと襖が吹っ飛び、“何か”が土方に突撃した。
***
「……ってて、おい何だよっ!!誰だお前っ!!」
突撃した衝撃で尻餅を着いた土方さんがあたしの頭に怒声を浴びせる。
何をををををっ!!!補佐の顔忘れたのかコイツはァァァァァァ!!!
「あたしです、あたしっ!!」
「あ?」
顔を上げて抗議すれば、目を見開いて土方さんは何度か目を屡叩いた。
「鷹居っ……か…?」
「そーっスよっ!!たった今妙ちゃんから逃げてきたんスよ!!助けて下さい、土方さんっ!!」
「…………」
胸蔵を掴まえて土方さんに詰め寄ると、素早く顔を背けられた。
「うぉぉぉぉぉっ!!!男が女装したみたいでキモいのは分かるが目ェ逸らすなぁぁぁぁぁっ!!!失礼過ぎるぞ土方さぁぁぁぁぁんっ!!!」
例の如く、あたしは胸蔵を掴んだまま土方さんの頭をガクガクしてやる。
「ちょ、やめ、……っぅおえ、気持ち悪っ!!」
「それはあたしに言ってるのかァァァァァァァァァっ!!!」
「違うわぁぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!」
「お、落ち着いて下さい、鷹居さんっ!!」
あたしの高速ガクガクを見かねたダメガネが仲裁に来た。
「んだ、ダメガネェェェェっ!!!眼鏡引っ剥がしてダメ以下の何者でもない奴にしたるぞォォォォォォっ!!」
「酷ォォォォォォォォっ!!!以下はなくないっ?!…って、そうじゃなくて!!姉上から逃げてきたってどういうことですかっ?!」
「あ…。」
ダメガネの問いにあたしは手を止めた。
そうだ。あたしは妙ちゃん達の魔の手から逃げてきたんだったよっ!!匿ってもらわねばっ!!
「そーだったっ!!土方さんっ!匿って下さ…」
「私から逃げるなんて百年早いわ小娘ェェェェェェェェェェェェっ!!!」
「大人しくアネゴの手に掛かるヨロシィィィィィィィィっ!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!来たぁぁぁぁぁっ!!!」
若干ぐったりした土方さんに助けを求め終わらない内に妙ちゃんが神楽ちゃんを引き連れ、土煙を立てながら現れた。
「あ、姉上っ?!!!」
「何してんだよ、テメーら。」
余りにもアレな形相に驚くダメガネ。代わって坂田さんは然り気無くあたしの前に立って妙ちゃんらと対峙した。
目の前には坂田さんがあたしを庇う様な形で立ってる訳だが………あ、やべ。何コレ?何この人?カッコ良くね?
「退くネ銀ちゃん!!紅刃はこれから、なんたらスターパワーでメークアップするネ!!」
「おまっ!!それ現代っ子、分かんねーぞっ?!!」
「そんなんいいから銀さんっ、退いてちょうだい!!紅羽ちゃんを此方に明け渡しなさい!!」
「ちょ、待て待て!!話が飲み込めない…」
「退けってんだ、ゴルァァァァァァァァァ!!!」
ドゴォンっ!!
「ひでぶっ!!?」
状況を整理しようとした坂田さんに妙ちゃんの回し蹴りがキレーに、そりゃもう御手本のよーに決まる。
………って、坂田さん弱っ!!いや、妙ちゃん強っ!!!!
さっきカッコ良かったのに坂田さぁぁぁぁぁぁん!!この場凌ぎで、つーかぶっちゃけノリの口から出任せだが惚れそうになったじゃねぇかァァァァァァ!!
「さ、紅羽ちゃんっ、いらっしゃいな。」
妙ちゃんはにっこり笑ってあたしの首根っこを掴んだ。
「やーだやだやだやだやだっ!!ヘルプ!!土方さんヘルプっ!!」
そうはさせまい、と、あたしは掴んだままの土方さんの胸蔵に更に力を込めた。
妙ちゃんがあたしの首根っこを引っ張る。
あたしが土方さんの胸蔵を引っ張る。
………となれば最大の被害者は想像に難くない。
「く、苦し……っ、離……せ、……鷹居……!!」
「離さぬぅぁぁぁぁぁぁ!!!!喩え土方さんが死そうとも、この鷹居紅羽っ、決してこの手を離しませぬぞォォォォォォォォっ!!!!!」
「言ってっ事何かカッコいいが、やってっ事凶悪だぞテメェェェェェェェっ!!!
「何だ。全然大丈夫そうじゃないですか。」
「訳ねーだろーが、アホっ!!離せっ!!」
若干蒼白い顔した土方さんに手を払われてしまった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!裏切り者ォォォォォォォォォォっ!!!」
「あ゙ー……苦しかったー……」
手ぇ払われたら、あたしには縋るもんがなくなる訳で、妙ちゃんが後ろからあたしを引っ張ってる訳で、当然そうなりゃ後ろから引っ張ってる人に捕まるわけで……
「さぁ紅羽ちゃん。最後の仕上げだから、もう逃げないでちょうだいねっ!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!やだぁーっ!!やだやだやだぁぁぁぁぁぁっ!!!」
無意味と分かっていながらあたしの身体は手足をばたつかせた。
畜生、何なんだあたしの身体は!!ベタな漫画の更に定番みたいな事ばっかしやがってっ!!
「………あのー……、」
心中で自虐染みた事をしてると、ダメガネが遠慮がちに口を開く。
「あら、なぁに?新ちゃん。」
「あー、あの、姉上。紅羽さんは一体何を嫌がってんですか?」
「そこだァァァァァァ!!!!!ナイスダメガネェェェェェェっ!!!!!」
「ナイスなのに駄目って何っ?!!」
期待通りの突っ込みをするダメガネはあえて言おう、無視すると。
「あたしはこれから妙ちゃんに化粧されんだよォォォォっ!!」
「「「化粧ぅ?」」」
土方さん、坂田さん、ダメガネが声を揃えた。
「いーじゃねぇか、別に。化粧ぐれぇ鷹居の年代なんざざらにやってんだろ?」
「土方さぁぁぁぁぁぁんっ!!アンタは部下の何を見てんだぁぁぁぁぁぁっ!!あたしですよ、あたしっ!!通常は男装してる人間ですよっ?!!しかもさっき兄に似てるって自分で言っといて!!兄者が化粧したらオカマになんじゃねぇかァァァァァァ!!!」
「や、でも仮にも女だろーが、お前。化粧の1回や2回、やったことあんだろ?」
「ふふふふふふふふ……土方さん、舐めて貰っちゃ困りますぜ。化粧品って幾らするか知ってます?確かに百均とかにも売ってますがねぇ、全部揃えりゃ莫大な資金が掛かりやがりますよ。しかも化粧品は消耗品……んなもん、家の兄者が許すわけないだろォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
「………あ。」
そうっ!!純情乙女鷹居紅羽(純情乙女は男物ばっか着ねーけど。)は生まれて以来化粧なんざした事ねーんだよっ!!!したいと思わないけどなっ!!
しかし、合点がいったような顔の土方さんに無性に腹が立った。
「あら大丈夫よ、紅羽ちゃん。貴女肌綺麗だし、地がハッキリしてるから化粧映えするわよ。」
大丈夫よ、という妙ちゃん。
いやいやいやいや、大丈夫じゃないってマジでっ!!!
「しないねっ!!どんだけ地がハッキリしてよーが男が化粧したらよっぽど女顔じゃない限りは映えたって気色悪いだけだよっ!!」
「紅羽ちゃんは女の子でしょ!!」
妙ちゃんはもう、と顔を顰かめる。
だってそうだろっ?!!例えばめりはりハッキリしてる土方さんが化粧したらもう化け物だよっ!!目も当てらんねーよ!!
何がなんでも化粧だけは阻止したいんで、あたしはその後も抗議を続けた。
「皆さん見たいですかっ?!!男が化粧したのなんて!!いや、ママとかお店の娘(?)達は別ですよ!!嫌がる男の女装とか、正直キツくありませんっ?!」
「いや、だから女だろーが……」
「シャァーラァーップ!!!女扱いなんざ、した事ぁねーだろーがよォォォォォォォォっ!!!」
「だからそれは……」
「されたいたぁ思わねーが、いきなり女んなれって方がおかしいっつーの!!」
物言いたげな土方さんに、何も言わすまいと、更にあたしは畳み掛けるように主張を続けた。
例のゴスロリ事件があんだからテメーの意見なんざ聞いてやるもんかァァァァァァ!!!
「大体土方さん知ってますかっ?!化粧って字は“化ける”“粧う(よそおう)”って書くんですよっ?!化けるはポピュラーですけど、粧うってアレですからね、振りをするって意味があるんですよっ?!!化けて振りをするって、もうほぼ妖怪じゃ…」
「紅羽ちゃん?それは毎日御化粧してる私に対する挑戦かしら?」
「……あ、いや、その…………」
ついつい熱くなってると、頭をぐりん、と回され妙ちゃんの120点スマイルとかち合わされた。
ヤッベェェェェェェっ!!!怒らせたァァァァァァ!!
「ち、違うんだよ、妙ちゃん!!別に妙ちゃんがどうとかじゃなくてさ、」
「そう、紅羽ちゃんは私に挑戦するのね?いいわよ。別に。」
「あ、いや、あの……ご、ごめんなさい………」
近年希に見る妙ちゃんのすんばらしい笑顔が怖いのなんのって!!
だって目ぇ笑ってるけどめっちゃ顔に影掛かってんだもんっ!!!
あたしは為す術なく畳みに平伏した。
「ごめんなさい。悪気はなかったんです。只何とか逃れたかったんです。勢い付いて行きすぎました。本当にすんませんでした。」
「ごめんで済んだらこの世に切腹は存在しないのよ。分かるわね?」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!!!切腹っ?!切腹すんのっ?!!』
「そうよ………と言いたいけど、幼馴染みの誼だし。」
「た、妙ちゃん………!!!」
「御化粧するなら許してあげるわ。」
「……………何ですと?」
ん?あれ?妙ちゃん、今何つった…?
「だから、紅羽ちゃんが御化粧するなら許してあげるわよ。」
「………いやいやいやいや、妙ちゃん。あの、あたしがさっき言ってたの聞いて……た?」
「あら?何か言ってたかしら?」
「………えっと……何も。」
はーい、120点スマイルが1200点スマイルに上がりましたよーっ!!!あはっ、近藤さんがいたら卒倒だねっ!………じゃなくて、ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!もう駄目だっ!!兄者のマネースマイルに勝るぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!
自然と竦まった肩に、ぽんっと、手が触れた。
「…?」
「鷹居、心配すんな。」
「ひ、土方さぁん……で、でも兄者が女装したみたいに……」
「安心しろ。ほら。」
「?」
土方さんが携帯を取り出して画面をあたしに向ける。
「…………え?何ですかコレ?誰ですかコレ?」
「オメーが入隊する前の忘年会で黒刃がやった罰ゲーム。」
「………」
あたしは土方さんから携帯を引ったくって画面をガン見した。
……ちょ、何コレ。
何かものっそ見知った人がとんでもない事になってんだけど!!!!
すると妙ちゃんがあたしの肩越しに携帯を覗いて手を打った。
「あら!綺麗じゃない!黒刃さんがコレなら大丈夫よね?!」
「あ、いや、ま、まぁ、大丈夫っちゃあ大丈夫かもしんないんだけど………何でフルメイクで女装してんの兄者ァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!!」
「罰ゲームだ。罰ゲーム。」
写っていたのは滅茶苦茶美人になって何かノリノリでポーズ決めてる女装した我が兄。
何でこんなに綺麗なんだこいつ!!
「つーか何で土方さんこんなん持ってるんスかァァァァァァっ?!!』
「総悟が隊士全員に送ってたぞ。」
「うをォォォォォォォォォォォォっ!!!あたしで終わるが末代までの恥じィィィィィィィィィィィィィィっ!!!」
男の兄者がこれならば、と、あたしは結局化粧される事になった。
畜生!!兄者何やってんだよォォォォォォっ!!!
To be continued……