act.24
「じゃあ俺は先に帰るが、鷹居、犬返したらさっさと帰ってくんだぞ。」
「土方さんはあたしを見捨てるんスね。薄情者!コレステロール過多で糖尿になれっ!!ヤニ吸い過ぎで肺癌になれっ!!えーっと……死ねっ!!」
「悪口考えてんじゃねーよ。小学生か、テメェは。つか、死ねってどーゆー事だコラ。」
「死ね。シ-ね。死ぬの命令形。」
「誰が辞書的な意味を言えっつった。」
act.24
いや、そういうんじゃなくて!!
漆黒の長髪と淡桃色の振袖を靡かせ、可愛げにカラコロと下駄を鳴らすこの姿を誰が真選組副長補佐で現在進行形で世間を騒がす鷹居紅刃と解るだろう。
そう、何だ彼だでばっちりメイクもされて、何の因果か見覚えのあるヅラを被された鷹居紅刃は絶賛女装変装仮装中なのだ。
狛子の飼い主が妙ちゃんの仕事仲間と言う訳で一緒に仕事場に向かってるんだけど……ひぃぃぃぃぃっ!!道行く人よォォォォォ振り返らないでおくれェェェェェ!!
去り際にあたしの顔を見なかった土方さんの反応から、化け物なのは承知してるから!!自覚してるからっ!!珍獣見たっ!みたいな顔しないでっ!!
「ゔぅ………精神的ダメージが……」
「あら、何言ってるの?道行く人が振り返るくらい綺麗よ、紅羽ちゃんっ!」
「妙ちゃんは前向きだね。果てしなく。だからそんなに自信過jぐふぉあっ?!!!!」
正に瞬間。
あたしの鳩尾に裏拳が炸裂した。
痛ェェェェェェェェェェ!!!
普通に目の前が霞んだぜ、今のっ!!
「た…、たえちゃ……」
「あら何かしら?」
恨めしげに見れば太陽の様な笑顔で威圧を掛けられる。
……もう、何も言えないや☆
「いや……、何でもねぇ……」
「もう、紅羽ちゃん!言葉遣い気を付けなさい!」
「い゙っ?!!」
普段通りに答えたら今度は踵で足を踏まれた。
*****
「御早う御座いまーす。」
「おはよ、お妙。あれ?その娘は?」
裏口から店内に入れば気丈そうな美人さんが声を掛けてきた。
「御早う、おりょうちゃん。彼女は紅羽ちゃんよ。私の幼馴染みなの。」
「へぇ。私はおりょう。宜しくね、紅羽。」
「は、はい……っ」
妙ちゃんが答えれば、美人さん──おりょうさんはにっこり微笑む。
のぉわぁぁぁぁぁぁあっ!!!何か知らんがめちゃくちゃ緊張するんだけどっ!!
お水の裏舞台だよ、お水の裏舞台っ!!
何時ぞや近藤さんと来たキャバクラの裏舞台に来ちゃったよォォォォォ!!
キョドるあたしを見かねてか、おりょうさんは再度微笑んで言った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。最初は大変だけど直ぐに慣れるからっ!」
「……はぁ………え?」
な、慣れる?慣れるって……
「あっ!やだ、おりょうちゃん!紅羽ちゃんはここで働く訳じゃないのよ!」
疑問符を浮かべてると慌てて妙ちゃんが訂正した。
「あら?そうなの?」
「ええ…まぁ……」
「紅羽ちゃんは、阿音ちゃん家の仔犬を拾ったから彼女に届けにきたのよ。」
「へぇ…。ふふっ、阿音の事だから強ち、捨てのかもよっ!」
「いやだ、おりょうちゃんってば!そんな可能性の高いこと言っちゃダメよ!」
くすくすと笑いながら妙ちゃんとおりょうさんは会話を続ける。
……うん。見てる分にはスゲェ可愛いし癒されるよ。
でも内容が!
女独特の陰湿な嫌みが籠りまくってて怖ぇよ!!
顔面に貼り付けたみたいな笑顔を浮かべてると、妙ちゃんとある程度笑いあったおりょうさんはあたし達言った。
「阿音なら化粧部屋にいるわよ。なーんか今日幕府の方が来るみたいで目ぇ血走ってたわよ、あの娘。」
「……え、」
ば、幕府の方が来るみたい?
それってヤバくないか?
「た、妙…ちゃん…」
不安になって妙ちゃんに目を遣れば、にこっと笑ってあたしの肩を叩く。
「大丈夫よ、紅羽ちゃん!誰が見たって鷹居紅刃には見えないわっ!それにお客さんはまだ来ないから。さ、阿音ちゃんのトコ行きましょ!」
「う、うん……」
………ん?
待て待て、それって今のあたしは普段からは想像できない程ヘヴィな感じって事か?
……
畜生!!
ぶつぶつ思いながら妙ちゃんの後を着いていくと、凡人以下の女たるあたしにとっては未知の化粧部屋に着く。
がらっ、
「あ……、」
扉を開ければ、妙ちゃん越しにだが、何ヵ所か鏡台がある場所なのは分かった。そのうちの1台に何処か兄者を彷彿させるオーラを放ち、鏡とにらめっこする女性が見える。
……何故だろう。今まで妙ちゃん達がしてた話を総合して考えると狛子の飼い主が彼女にしか見えないんだが……
「御早う御座いまぁーす。」
「た、妙ちゃん…っ」
「あら。どうしたの?そんな小声で?」
「狛子の飼い主って、あの女性…?」
「え?…あ!そうそう。あの娘よ。阿音ちゃん、阿音ちゃーんっ!」
こそっと聞くと妙ちゃんは頷き、彼女に声をかけた。
「………」
「…阿音ちゃん?」
「………」
「おかしいわね。聞こえてないのかしら…?」
「さぁ…?」
けれど鏡にかぶりつく彼女からは返事か来ず、妙ちゃんとあたしは顔を見合わせて首を傾げる。
「…いいわ。上がって、紅羽ちゃん。どうせ狛子ちゃん渡すんですもの。」
「あ、……うん。」
あたしは狛子を抱いたまま、化粧部屋に入った。
「失礼しまー……うおっ!?」
妙ちゃんの後について足を踏み入れたは良いが、物凄い香水臭に眉を顰める。
うぉあぁあぁあああっ!!!1つ1つは絶対良い匂の筈に混ざると危険だ!鼻曲がりそうだぜ!!
「紅羽ちゃん?大丈夫?」
「あ、う、うん…。ダイジョブ、だいじょぶ……」
若干目眩を感じつつも、心配してくれた妙ちゃんに笑顔を返した。
ぬぅぅぅぅぅっ!!!負けて溜まるかぁぁぁぁぁ!!あたしより鼻の利く狛子だって頑張ってんだから!!ちゃんと御主人様んトコに返してやるからなっ!!
と、腕の中を見れば狛子はぐったりとしていた。
やっぱ辛いよなっ!
あたしが1人でそんな抗争をしているのを知ってか知らずか、妙ちゃんは例の彼女の傍へ行きその肩を軽く叩いていた。
「ねぇ、阿音ちゃんってば!」
「あ、妙ちゃん待って。あたし、」
「うるっさいわね!!さっきからっ!!今日は幕府の御偉いが来んのよっ?!!玉の輿に乗るチャンスなんだから邪魔しないで!!!!」
「…!!!」
振り向いた形相にあたしは身じろく。だって、だって…!!
兄者を女にした様な人が今此処に!!
世の中同じ顔した人間は3人いるって言うけど、双子でもないのにほぼ同じ性格ってちょっと!
でも確かに写真に写ってた巫女姐さんのようだ。
「あら、邪魔しようだなんて思ってないわよ。紅羽ちゃん、早くいらっしゃい。」
「………あっ!うんっ。」
呼ばれて駆け寄れば、阿音さんはあたしの方に目を寄越す。
「紅羽〜?」
い゙い゙い゙い゙い゙い゙っ!!!怖っ!!聞き覚えのない女の名前聞いた途端に目が座ってるぅぅぅぅぅ!!
「ちょっとアンタァァァァっ!!今日が勝負って日に何で新しい娘連れてきてんのよ!!!競争率が上がるじゃないっ!!」
「やっ、あの、あたしは…」
「どっからこんな芋娘連れてきたのよ!!」
「い、芋………っ」
わ、分かってたさ!分かってたけどね!分かったけども………リアルに言われると結構グサッとくるね…
「あら、阿音ちゃん。幾ら紅羽ちゃんが可愛いからって嫉妬は醜いわよ。阿音ちゃんの顔みたいに。」
「んだと、この女ァァァァァァァァァァァァ!!!」
微笑みと共に妙ちゃんは阿音さんに爆弾を投下してその場は一気に乱闘に持ち込まれた。
えーっ…ちょ、どうしよう…!!止めるべきか?止めるべきだよな?!でも部外者のあたしがっ?!いや、その前に、女同士の取っ組み合いって初めて見たよっ!!
「あーあ、何かと思えばやっぱりお妙と阿音だったわねー。」
どうしようかと狼狽えてれば、聞き覚えのある声が入口あたりから聞こえる。
「あっ!おりょうさん…!!」
振り返れば、さっきまで妙ちゃんと談笑してたおりょうさん。た、助かった…!!女神だ女神っ!!
「大丈夫よ。気にしないで紅羽。何時もの事だから。」
「は、はい…」
にっこり微笑むおりょうさんにあたしは泣きそうになった。
縋る様にふらふらとそっちに近付くと、彼女の後ろに後退気味のグラサンが…、
「…?」
「店長、紅羽ってこの娘です、この娘。」
「…??」
「ホントだ!イイね、この娘!イイね!」
「でしょ?」
「…あ、あの……」
おりょうさんがあたしを紹介すると、グラサンは顎に手を当てて頷く。
……何だ?凄く嫌な予感がする………
「お、おりょうさん……、何がイイんですか……?」
「あぁ!ごめんね。勝手に話進めちゃって!」
「は、はぁ…」
「実はね、今日来る筈の娘が風邪引いちゃって欠勤なんだけど、ほら、今日、幕府の御偉い方が来るでしょ?それで人数欠く訳にはいかないから、紅羽に手伝ってもらおうって、ね。」
「……え゙」
あっは!どうしてあたしの嫌な予感っていっつも当たるのかしらっ☆
って何ィィィィィィィィィィィィィィィっ!!!
手伝いってアレかっ?!あたしにキャバ嬢をやれとっ?!!
「む、無理ですよ!あたし…一応公務員ですしっ!!」
「大丈夫よ。バレないバレない!!」
「いや、そういうんじゃくなくて!!」
「いけますよね、店長。」
「うん!いけるよ。いける!!」
「いや、いけないいけない!!」
全力で否定してんのに2人は全く耳を貸してくれない。頼みの綱の妙ちゃんは後ろで阿音さんと殴り合って……って殴り合いっ!!?駄目だろ、女の子がそんな事しちゃ!!
「おりょうちゃーん。指命入りましたー。3番テーブル入ってー。」
「あ、はーい。」
するとスタッフらしき人がおりょうさんを呼びにに来た。た、助かった…!!此れで1対1!それなら説得できそうd……
「さ、行こう。紅羽っ。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!」
「大丈夫だって。私も一緒だから。」
「大丈夫じゃないですって!だってあたし、狛子…!!」
「犬は後からでも平気よ。」
「おじさんが預かっとくから。」
「店長ォォォォォ!!!アンタはそれで良いのかァァァァァァァァ!!」
「ほら、行くわよ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!妙ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」
悲鳴も虚しく、狛子を店長らしきグラサンに取り上げられたあたしは、おりょうさんによってホールへと引きずり出されていった………。
To be continued……