act.25

「紅羽は私の隣で御酒作ってくれればいいから。ね?」

「ね?じゃありませんよ。あたし未成年なんすけど………」

「大丈夫!見えないから!」


老け顔だってか?!!


act.25
御免なさい、土方さん


「おりょうちゃーんっ!!此方じゃ、此方〜!!」

「うわ、坂本さん……」

「…お知り合いですか?」

「知り合いって言うか……まぁ、あんまり関わりたくないというか。」

「はぁ……」

引き吊った笑みを浮かべたおりょうさんに付いていくと、黒毬……いやいや、もじゃもじゃ黒髪のサングラスが意気揚々と手を振っていた。

「おりょうちゃァァァん!!結婚してくれェェェェっ!!

「ああ、ストーカーですか。」

「ちょっと違うけどね……」

見掛けが爽やかなせいか、近藤さんよりは幾らか善人に見えるが発言からして近藤さんの仲間だろう。

「ちーっす。おりょうっす。坂本さんまた来たんですか?」

「あっはっはっ!そんな迷惑そうな顔もわしゃ好きじゃーっ!」

「な、何だこの人……」

露骨に嫌な顔したおりょうさんに屈せず、もじゃもじゃの人は笑った。ポジティブなのかアホなのか…。

「あり?見ん顔じゃのー。新人さんがか?」

抱きつかんとして突っぱねられた黒もじゃはあたしに気付いたらしく、こっちを見た。

「あ、いや、あたしは…」

「人手が足りなくて手伝ってもらってる娘ですよ。だからあんまり変な事しないで下さいね。」

「何じゃ?おりょうちゃん焼き餅か?嬉しいのー!わしも進歩ばしちょるって事か!あっはっはっはっはっ!」

「……違うし。」

散々な顔をするおりょうさんと対照的な黒もじゃは再び笑いだす。

「時におんし、名は何ちゅうんじゃ?」

「あ、えっと………」


名を訪ねられてあたしは止まった。ここは本名で良いのか?
源氏名的なアレでなくて良いのか?

そういや妙ちゃんはまんま本名だったし……流石に紅刃は男の名前だしなぁ……

「えーっと……紅羽です。」

迷った末に本名を告げると、黒もじゃはにっこり笑い、あたしの肩を叩く。

「そうか!黒刃っちゅうんか!男らしい名前じゃのぉ!!」

「あれ?今あたし紅羽っつたよね?何で?何で黒刃?つーか何で兄者?」

「わしの古い友人に黒刃っちゅー男がおってな、何じゃおんし、黒刃に似ちょるのー。あっはっはっはっは!」

「あれ?聞いてないや。」

相変わらず高らかに笑う黒もじゃ。
つーか、おりょうさんほっぽってますけど。
良いのか?結婚してくれとか言ってたくせに。

「わしゃ坂本辰馬ちゅーんじゃ。宜しく頼むぜよ、黒刃ちゃん。」

「あ、もういいや黒刃で。」

これ以上言った所で無駄だろうから、あたしは黒もじゃ、元い、坂本さんの前では黒刃でいよう。それでいいや。

心中でそんな事を考えてれば、ふと、視線を感じ頭を上げた。

「…な、何ですか?坂本さん……」

見れば坂本さんがあたしの顔をまじまじと見ているではないか。
サングラス越しだがあんまいい気分じゃないぞ。

「ああ、すまんすまん。おんしがあんまりに黒刃に似ちょるからなー。奴が女装でもしちょるんじゃなかかと思ってのー」聞けばまたあっはっはっはっと笑う坂本さん。
何か、ストーカーらしいがこの人も良い人みたいだな。
つーか、黒刃って人が気になるんだが…。

聞いて良いもんかどうか分からなくて、おりょうさんに目を向ければ、ほっぽっりだされた事を良い事にちゃっかり水割りを作っていた。


オィィィィィィィィィィィ!!!

アンタの客だろーがァァァ!!
つーか、今あたしに気付いてウィンクしたんだけど!!
あたしに相手しろってかァァァァァァ?!!

「えぇと…坂本さん?」

しかし、御手伝い(させられてる)身分の手前、正社員様にそんな事は言えないんで、あたしはぎこちなく口を開いた。

「ん?何じゃ?」

「さっきから出てくるその…黒刃さん?ってどんな方だったんですか?」

「黒刃か?奴ァ昔の戦友ぜよ。」

「戦友…?」

思わず聞き返せば坂本さんは頷いて続ける。

「わしゃこう見えても昔、攘夷戦争に参加ばしちょってな、黒刃はそん時の仲間じゃ。」

「へぇ…」

「長身痩駆じゃったが、篦棒に強い奴でな、逆手に持った短刀ば得物にしちょったのぉ。」

「逆手……短刀……?」

「おー。2尺位の刃丈じゃったがな。何せ、身軽でスピードばある奴じゃったきに戦場じゃ“死の蜂鳥”なんぞと呼ばれちょったかなー。」

「……」

懐かしいのー、とまた笑う坂本さんの隣で、あたしは黙り込んだ。

黒刃、
長身痩駆、
得物は短刀、
しかも逆手。

兄者に酷似しすぎじゃないか。
しかもあたしに似てるって……。兄者は攘夷戦争に参加してたのか……?

「ああ、そうじゃ!攘夷と言えば、」

考え込んでたあたしは坂本さんの声にハッとして、また頭を上げる。

「ど、どうしました?」

「今日は幕府の偉いさんが来るんか?」

「え?!何でですか…?」

思わぬ問いに聞き返すと、坂本さんは回りを少し確認してから、こっそりと口を開いた。

「彼処に笠被った3人がおるろ?帯刀しちょるが彼のなりは幕臣と違うきに。もしかしたら可笑しな事考えちょる浪士かと思ってな。」

「……、」

言い終わって坂本さんはわし等には関係ないがのー!とまた笑った。
確かに言われた方、入り口近くには室内だってのに笠被った如何にもな3人がいる。

……土方さんに連絡した方が良いのだろうか…?

つーかそれより今、しょっぴくか?幸い、得物はあるし手帳も持ってる。

……ただ、格好が。

此れで鷹居紅刃を名乗ったら、確実に女疑惑に拍車が掛かる。
折角土方さんや妙ちゃん達に協力してもらってるのにそれはできないか……

「おりょうさん、ちょっと、」

「どうしたの?紅羽?」

あたしは携帯を掴んで、水割りを飲んでるおりょうさんに声を掛けた。

つーか、自分で飲むなよ。

「仕事先から連絡来たんで、ちょっと戻りますわ。すいません。」

「えっ?!ちょ!!」

ま、嘘なんだけど。
やっぱり土方さんに連絡した方が良いと思うし。
何か言いたげなおりょうさんと相変わらず笑ってる坂本さんに会釈して、あたしは入り口近くに向かった。

何せキャバクラ。
電波が悪い。


「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!いらっしゃつたわよォォォォォ!!!」」」」」

「!?」


駆け足で向かってる最中、その方向でいきなり声が沸いた。
見ればキャバ嬢達が花道を作って、我先にと顔を覗かせている。
「(……!!幕臣が、来た……?!)」

まずい。
此の儘じゃ連絡するより先にあの笠の3人組が行動を起こすかもしれない……!!

そう思ったあたしの手は、無意識の内に懐の短刀に延びていた。
笠の3人組と入り口、両方に目を配らせる。
が、入り口に現れたのは見慣れた3人。

「……!!」

「いやぁ、今日は随分と豪勢な御出迎えだね!」

「てめぇの為じゃねぇよゴリラァ。今日もアレ、オメー外で見張りだかんな。」

「えー、とっつぁーんそりゃないよ〜。」

「土方さんと沖田君はもう持ち場に?」

「ああ。つーかとっつぁーん。庶民のいる雰囲気が味わいたいって仰ってるんだしさー、俺も良いじゃんかー。」

「ふっざけんなゴリラァァァ!!てめぇは外で見張りだボケェェェっ!!さっさと行けェェェェェっ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!?銃出さないで!!勲、今すぐ行くから!!」

あろう事か、近藤さん、松平公、兄者の3人だった。

銃を出した松平公に戦き、近藤さんは直ぐ外に出たけど…

「(……あ!もしや、松平公狙い?!)」

ハッとして笠の3人組に目をやれば、彼らは依然、動きを見せない。

となると………


「庶民のいる雰囲気が味わいたいって仰ってるんだしさー。俺も良いじゃんかー。」


あたしの頭には近藤さんの悪態が蘇った。

まさか…………、

「将ちゃーん。こっちよ〜、」

あたしの心中を余所に松平公は振り返って手招きをした。
笠の3人組も中腰になる。

やっぱりか……!!

でも、奴等の方に行くのは此処からじゃ、間に合わない……!!

その気持ちを裏腹に、案の定、将軍様はその御姿を表された。

「「「将軍んんんんんっ!!!!!覚悟ォォォォォォォォォォォォォォォっ!!!」」」

「「「「「?!!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!」」」」」

「っ!!」

抜刀し、将軍様に斬りかかろうと3人組が動き出す。
キャバ嬢の悲鳴が響く。
あたしはその場を強く蹴って跳ね上がった。

「将軍、松平公、兄者!!失礼!!」

「!?」

「うおぅっ?!」

「紅羽っ?!!」

キャバ嬢の花道を飛び越え、あたしは3人の前に出て、彼等に体当たりし、笠の3人と距離をとらせた。

「邪魔立てするな小娘ェェェェェェェェェェっ!!!」

斬りかかってきた1人にあたしは回し蹴りを食らわし、懐の短刀素早く抜刀する。

「がっ?!」

「貴っ様ァァァァァァァァァァァっ!!」

すっこんだ1人に代わって別の輩が刀を振り上げる。

「っち!!」

得物まだ、持ち換えてねぇってのに……!!


あたしは刃を自らに向け、柄を相手に向け、その懐に詰め寄る。
先を鳩尾に当て肩から体当たる。

「っづぅっ!!?」

相手の体を壁に得物を逆手に持ち換え吹っ飛ばし、残る1人と間を詰める。

「?!!速い……!!」

「否!」

構えた刀の下を潜り、喉元に刃を当てる。

「……アンタが遅ぇんだ。」

「ひっ?!」

口角を上げれば、輩は得物を放して腰を着いた。

「動くなっ!!」

後退る浪士を睨み付けあたしは叫んだ。

「真選組副長補佐、鷹居紅刃の権限に置いて、貴様等を反逆罪及び銃刀法違反、営業妨害で逮捕する。神妙に御縄に付きやがれ。」

警察手帳を付き出してあたしは言い、持ち合わせていた手錠を奴等に付ける。


「……鷹居、紅刃?」

「う、嘘ォ…じゃああの報道って……」

「スクープだぞスクープっ!!」

静まり返っていた周囲が一気にざわつき出した。

ああ、やっぱりな……

自嘲に似た笑みが沸いてきた。

「鷹居!!」

「!」

聞き慣れた呼び方と声に振り向くと、土方さんを筆頭に真選組の皆。

「……土方さん…」

「……っ!総悟、彼の3人、連れてけ。」

「あいよ。」
「全員、此の場の整理に当たれ!」

「はっ!」

指示を出した土方さんは、あたしの傍に駆け寄る。

「何やってんだお前……っ!!」

「あ……、ははっ。すんません……。無鉄砲なもんで……。」

「………」

「……御免なさい、土方さん。……女ってバレちゃいました。」

苦虫を噛み潰した様な顔の土方さんに、あたしは力無く笑って謝った。


To be continued……

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