act.26

「何だコレ?」

「辞表ですよ。書いてあるじゃないですか。」

「そうじゃねぇよ。それが何なのか聞いてんだよ。」

「材質は紙です。」

違ェェェェェェェェェェ!!


act.26
それだけ御願いします。


あたしが出した辞表を土方さんは机に叩き付けた。
何だよ。質問には的確に答えてるってのに。

「材質聞いてんじゃねーよ!コレが鉄とかだったら吃驚だわ!」

「そりゃ吃驚ですな。」

「ですな、って何だ。腹立つな。ってそーじゃねェよ、何で辞表なんざ持ってきやがったんだ。」

「仕事を辞めるためです。」

「お前、俺の事からかってるだろ?」

普段の5割増で眉間に皺を寄せる土方さん。
溜め息と一緒に吐いた紫煙がフワフワ漂う。

「…何で仕事辞めんだ?」

「女ってバレたから、です。」

「はぁ?」

「あ、あと、言質録って貰ったし。」

「あぁっ?!」

一度落ち着いた顔を再度歪めて土方さんは叫んだ。

「昨日、休み貰ったじゃないッスかぁ。そん時、THE EDOの取材が家に来てですね、今後の行動とか聞かれたんですよ、これが。」

「答えたのか…」

「ええ。勿論。素直に答えましたよ。」

「何言ったんだ、お前。」

続きはTVで!

「何それっ!!って、あ、オイ!」

「御世話んなりました!あざっしたーっ!!」

戸惑うっつーか何つーかな土方さんにあたしは素早く一礼をして副長室を出た。

辞表を出したから後戻り出来ないけど、実は未練たらたらだったりする。
折角、土方さんの人使いの荒らさとか仕事とか慣れてきて、隊士のみんなとも仲良くなってきたからか、凄く寂しいんだ。

あの夜の行動なんか後悔しまくりで、ひいては、出来れば何かの間違いだったら良いなとか思ってる始末。

駄目だ駄目だ!
確りしやがれ紅羽!
また新しい仕事見付けなきゃだろうが!
家帰ってTHE EDO見て、現実を受け止めるんだ!

あたしは自室だった部屋から、予め荷造りしといたキャリーバックに手を掛ける。

再度忘れ物の確認のため、禄に使わなかった部屋をぱっと眺めた。

机上の、珍しく確り畳んである隊服が何故か酷く懐かしい。

「御世話様、」

小さく呟いて、あたしは部屋から駆け出した。

*****

幸い、門を出るまで誰にも会わずに済んで、そこでちょっと上がった息を調える。

「紅刃じゃねぇかィ。」

「あ、沖田さん。」

ふと掛けられた声。
その方に顔をやれば、柄から伸びるイヤホンで何か聞きながら風船ガムを膨らます沖田さんだった。

「何やってんでィ、私服で。」

「あ。あたし、真選組辞めるんですよ。で、これから家帰るトコなんス。」

「や、辞めるっ?!」

「はい。……っと、ヤベっ、時間ねぇ!詳細は今日のTHE EDOで!んじゃ、御世話さんしたーっ!!」

「な!?ちょ、待ちなせェ!!」

驚きを露にした沖田さんに愛想笑いを返して、あたしはまた走った。

回想話とかしてみろ、
もっと未練が残るっての。

本当はちゃんと有り難うとかさようならって言うべきなんだろーけど、………多分、無理だ。
あーあ、明日、兄者から御説教かなー。結局、土方さんと何らなかったし。

……いや、それはそれで別にいいんだけど。

もやもやうだうだ考えながら何れくらい走ったか、何時の間にか真選組に入る前まで住んでた本来のあたしの家、道場が潰されて母屋だけになった家の前まで来ていた。

「……あれ、もう着いた?」

可笑しいぞ。家から屯所までは割と遠いし、着くまでにはでっかい交差点とか、通りとかある筈だ。

信号だって少なくとも7つはある筈。

全部が全部青信号だったとか考え難い。
でも全部青信号じゃないとこんなに早く家に着くなんて考えられない。

そう言えば、来た道の方からパトカーのサイレンが幾つか聞こえてる様な気がする。

……………


ま、いっか。

信号無視とか飛び出しとか斜め横断とか当て逃げとか轢き逃げ(足で走って)とかした覚えないし。

あたしは近付くサイレンを気にせず、さっさと家に入って、施錠した。

「うへー、昨日振りの我が家ー。相変わらず………埃っぽ!!」

中に入れば咳したくなるくらい埃っぽい。
まぁ、殆んど無人だった訳だし、しゃーないか。

そう割り切ったあたしはさっさと草履を脱ぎ捨てて、居間に向かい、テレビをつけた。

ザ・エド〜、と例の始まりと共に草野仁義のデカイ顔が映される。さて、何時頃あたしの言質は出てくるかな。

*****

─── 一方、真選組屯所

「土方さん!」

沖田が副長室の襖を滑らすと、土方と近藤がテレビを見ていた。

「どうした、総悟。」

気付いた土方が顔だけ沖田の方に向ける。

「珍しく慌ててんじゃねぇか。」

「土方さん!紅羽が辞めるって本当ですかィ?!」

「ああ。ほれ、そこに辞表あんだろ?」

言いながら副長室に入る沖田に土方は机上の封を顎で指した。
淡々とした土方の態度に沖田は歯を食い縛り拳を握る。

「…土方さん。アンタ、部下がしかもアンタの補佐が辞職するって時に……何、“トモエ5000”なんか見てるんですかィ!!

違ぇだろ、画面っ!!つーか止めろや!これ活字だぞ?!適当な事言ったら信じる人いるかもしんねーじゃんっ!!!」

「何だ、ワイドショーですかィ。ちぇっ。」

「相変わらず、腹立つな、お前。」

「ちょっと静かにしろお前ら。今日は特集で夜のかぶき町やるんだから。お妙さんが出るかもしれないんだから。」

「全くもって説得力がねーよ、近藤さん。」

はぁ、と溜め息を吐いた土方の隣に沖田は腰を下ろし、首を傾げた。

「珍しいですねィ。土方さんがアニメ以外見るとか。」

「何それ。それじゃ何時もアニメしか見ねぇみてぇじゃねぇか。妖刀とかもう無ぇんだよ。解放されたんだよ。」

「だとしてもワイドショーなんざ殆んど見ねぇじゃねぇですかィ。俺等の事ばっか叩きやがるから。」
「主にオメーのせいだがな。」

「へーへー。すいやせんしたー。」

頭を抱えてる土方に沖田は不真面目にそう返した。

「まぁ、それよりだ。総悟、お前、鷹居が辞職すんの知ってんなら、何か聞いただろ?」

「へ?…ああ、そーいやTHE EDOが何たらって言ってやした。」

「今見てんのそれだ。昨日、取材班が来て詳細答えたんだとよ。」

「へぇ。でも俺等にゃ何の断りも無しですかィ?薄情な話でさァ。」

「そーだな。」

淡白な会話の後、双方何も言わずテレビに目を向ける。
何気にテレビに齧り付いている近藤が果てしなく邪魔だった。

──えー、続いて特集のコーナーですが、昨日、我が番組取材班が、先日より性別詐称で問題となっている鷹居紅刃氏改め、鷹居紅羽氏との接触及びインタビューに成功致しましたので、急遽、予定を変更し、そちらの映像を御伝え致します。──

「えぇ〜っ!!!キャバクラやんないのォォォォ!!勲ショック!!……ってアレ?今、紅羽って……」

「解ったら退いてくれ、近藤さん。見えねぇ。」

近藤を退かせば画面には既に紅羽が映されており、レポーターの質問を受けていた。

──紅羽さん、今回の件について如何御考えですか?──
<<如何って言われてもなぁ……。市民国民の皆さんには誤解と御不安等、招いた事、御詫び申し上げます。>>

──罪悪感はある、と言う事ですね?──

<<そりゃありますよ。反省だってしてます。でも、男装してた事に後悔はしてませんけど。>>

──では、男性を偽っていた件、真選組や警視庁で知っている方は居ましたか?──

<<真選組で何人かと警視庁では長官と第一秘書は知ってましたよ。>>

──つまりは政府絡みの詐称だったと言う事ですね。──

<<いや、詐称とかそれより、あたし、男宣言してないんですけどね。>>

──我々報道陣に責任を押し付けるのですか?──

<<いやいやいや。そうじゃないッスよ。紛らわしい名前使って、紛らわしい格好して、紛らわしい喋り方してたのはあたしですから。責任は全部あたしが負うもんでしょ。>>

──紅羽さん以外は関係無いと仰るのですか?──

<<関係無いでしょ、どう考えても。>>

──仮にそうだとして、紅羽さんはその責任をどう負うおつもりですか?──

<<仮って……まぁ、責任はあたしが負いますし、失態の反省は辞職を持って示しますよ。>>

──辞表はいつ頃になりますか?──

<<明日辞表出しますよ。ほら、もう書いてありますんで。今月中には消えますんで御心配なく。>>

──逃げる、ということですか?──

<<や、そーゆーんじゃなくて……。公から消えるって事ですよ。あたしはずっとこの家に居ますんで、それ関係で何かあったらどうぞ聞きに来て下さい。>>

──有り難う御座います。差し支えなければ教えて頂きたいのですが、今後はどの様な御仕事に?──

<<さぁ?入隊以前と同じでフリーターとかその辺でしょうね。>>

──因みに真選組へはどの様に入隊を?──

<<街中歩いてたら男と間違われてスカウトされてその儘。あれ、先の事件の人員補充にってやってたのですよ。途中で女だってバレましたけど。>>

──成る程。ではその時点で女だとバレたにも係わらず、男装してまで真選組に入隊した動機は何ですか?──

<<刀振り回せる仕事に就きたかったから。>>

──……はい?──

<<闘うのが好きなんです、あたし。廃刀令の御時世、腰に刀提げられるのって幕臣か攘夷志士くらいでしょう?でも違法犯したくないんで幕臣がいいなって思ってた時のスカウトだったんで、逃したらもうチャンスないなって。>>

──…そ、そうですか……。最後に、今回の件について何かありましたら一言御願いします。──

<<おぉっ?!何か芸能人みたいだな……。えーっと、今回の件、国民の皆様に多大なる混乱と御不安与えました事、大変申し訳なく思い、私めの辞職を持ってして償わせて頂きます。ただ……、
*****

────ブツッ、

「はは……。少し位綺麗事並べろよ、あたし。」

最後の一言を聞かずにあたしはテレビを消した。
昨日の今日で言った事くらい覚えてるし。

「辞表出しちゃったし、あたし、本当に真選組辞めたのか…。」

土方さんと近藤さんの受理の是非はこうなってしまえば決まったもんだろ。

セコいな、あたし。

じわじわ沸き上げきた実感は別に寂しさではなくて、不思議と安堵と脱力感だった。
全く、普通の女子は此処で泣くだろーがよ。
その辺やっぱりあたしは女失格かもしれない。

それはさておき、だ。
未練は良いとして、ただ1つ、心配があるとすれば、今後の真選組。

「最後のアレ、一言だけじゃ無理かなー……」

散々迷惑かけたんだから、これ以上はかけたくないんだよ、あたし。
そのつもりで言ったんだけど、メディアじゃ気持ちは伝わんないかもな。

………ただ、今回の件、非があるのはあたしなんで、国民やメディアの皆さん、不平や不満あると思いますが、それを警視庁や真選組でなく、あたしにぶつけるなり、あたしを憎むなりして下さい。それだけ御願いします。
そんな事、言っただけでどうにかなるとは思わないけど。

「迷惑しかかけらんなかったなー…。」

案外っつーか案の定っつーか、部屋に1人では出した言葉が寂しい。
自嘲染みたあたしの乾いた笑いは6畳の居間に響いて消えた。


To be continued……

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