extra.3
「御免なさい、紅羽。態々呼び出したりして。」
「いいっすよ、兄者。で、頼みたい事って?」
さいごの忠告
幕府勤めの兄者に呼ばれ、渡されたのは宛名だけ書かれた真っ白い封筒。
筆跡は兄者の物だ。
「此れ渡すぐらい、自分でやれば良いのに。」
ペラッペラの薄い封筒を懐に仕舞い込んであたしは呟く。
兄者曰く、
“私が行くと構えられますから。”
だそうだ。
「……どんだけ警戒されるような行動とってんだよ…」
非常に不安と言うか何と言うかアレだが、取り敢えず置いといて、待ち合わせの例のバトルロイヤルホストで宛名の人を待っている。
待ち合わせの時間は昼時、12時40分。
只今12時半。あたしは此の宛名の人が来るのを“ポリネシアン☆パラダイス銀河”なる怪しげな飲物と共にいる。
「……不味いなコレ。」
流石、レトロ過ぎる名前なだけあるよ。
「…すまない、君が鷹居紅羽君かな?」
「わっ!」
金返せ、とか思ってたら不意に声をかけられ、顔を上げた。
見れば、象牙色の短髪で諭そうな御兄さんがスーツケースと一緒に立っている。
「あぁっ!すみませ……!!鷹居紅羽はあたしです。」
慌てて返事をすると、御兄さんはクスッ、と微笑んだ。
「まるで鷹居さんとは真逆の性格の様だね。妹ではないみたいだよ、君は。ああ、勿論悪い意味ではなくてね。」
「はは……っ、良く言われますよ。」
愛想笑いを返し、対面に座す様促せば、失礼、と頭を軽く下げ、座る御兄さん。
兄者と違う裾や縁が銀色の黒服は上着の前を開け、白いスカーフが映える。
新聞やらテレビやらで見る可愛い顔した美少年や銜え煙草の美形、ゴリラとかハゲとかが着てるのと同じだ。じゃあ、此の御兄さんも噂のチンピラ警察なのか?にしては利発で礼儀正しい雰囲気を醸してる。
「どうかしたかな?」
「あ、すんません。何でもないッス。」
「そうか。」
うだうだ考えてたら御兄さんが言った。
まずいまずい。初対面の人に不信感与えちゃ駄目だろーが、あたし!取り敢えず本題本題!
あたしは懐から例の手紙を出しつつ御兄さんに言った。
「えっと、兄から伝言ですが、態々呼び出して失礼しました、との事で…、此の文を預かって参りました。」
すっ、と御兄さんの前に手紙を差し出す。
御兄さんは、それを一瞥し、手繰り寄せた。
「ああ。有り難う。しかし、鷹居さんも手紙を渡すだけなのに何故、直接来ないんだろうな。」
不思議そうな顔をした御兄さんの目の奥で何かが光った様に見えた。
……気のせいかな?
「何か、上司の会議の付き添いがあるとか言ってましたよ。」
「ああ、忙しい人だからね、鷹居さんは。」
「どうなんですかねぇ。実際、どっかで鼠取りでもしてるだけかもしれませんよ。」
「ふふ、酷い事を言うんだね。兄妹だけの家族と聞いたのに、」
唇にだけ笑みを浮かべた御兄さんはそう言った。
つーか兄者、他人様に何言ってんだよ。
「同情票買おうとしてるんですよー、あれはー。実際あたしなんかパシリですよパシリ。」
「変わった人だね君は。僕の周りにはいないタイプだよ。」
クスクスと笑う御兄さんの顔。だけど心なしかどっか寂しげでどっかで笑ってない様な気がした。
「もっと話を聞いてみたいが、生憎仕事で江戸を出なくてはならなくてね。」
「あ、だからそんな大荷物なんですか。」
柔らかに立ち上がった御兄さんに続いて、何と無くあたしも立ち上がる。
「紅羽君、と言ったね。御兄さんに宜しく。」
「はい。此方こそ貪欲な兄ですが、何卒。」
「ふふふ、本当に可笑しい人だ。機会があったらまた話がしたいよ。」
「あはは。有り難う御座います。御仕事、どうぞ御気を付けて。」
「ありがとう。」
御兄さんはやはりどっか寂しげな笑みを浮かべ、会釈をして出ていった。
「何か……、不思議な人だな…』
*****
男は先程少女から受け取った手紙を懐から取り出す。
「………鷹居め、態々妹を使うとは、」
かさり、と音をたてて開いた手紙には達筆の4文字。
「………っち、」
クシャリと紙を丸めて近くのごみ箱に投げ捨て、男は江戸の街を去っていった。
さいごの忠告
“最終警告”の4文字。
───後日
警察庁の電話が鳴った。
「はい、警察庁……ああ、土方さん。………!……そうですか……、伊東さん、亡くなりましたか。はい……伝えておきます。……はい、失礼致します…………はぁ、」
警察庁長官第一秘書は溜め息を吐いた。
fin.
→御負け