extra.8
「……どういうつもりですか?」

「どうもこうも、紅羽が最近あまりにもヤル気がないみたいなので入れ換わりとかしたら少しはその気になってくれるかなーなんて思いまして。あ、あと、個人的に土方さんボイスで早く“兄者”って呼ばれたくなったんですっ。」

「へぇ〜、ふぅ〜ん、そうですか〜…………死ね。黒刃。


兄様は黒魔導師


「………話は済んだか?」


ある程度兄者をフルボッコした後に、背後の襖が開いて“あたし”が入ってきた。


「あ、土方さん。」

「……自分にそう呼ばれんのって複雑だな…」

「ええ、まぁ……」


苦笑いを返すと目の前の“あたし”は溜め息をつく。


もう御気付きだろうか?

敢えてめんどくさく言えば、あたしの意識はあたしの姿に話をしている。そしてあたしの姿には現在、あたしの意識が収納された姿が本来の器の土方さんが入っている。

……端的に言えば中身が入れ換わったわけだ。

「俺達を除いて全員が武州に慰安旅行に行ってっから良かったものの……黒刃、戻る方法はあるんだろうな?」

「あはっ、知ってる訳無いじゃないですかっ。」

「……なぁ、鷹居。お前の兄ちゃん斬っても良いか?」

「どうぞ。御自由に。副長様。」

「ちょ、待って下さいよ!冗談です、冗談!知らない訳無いじゃないですか。」


抜刀せんと土方さんが構えると、兄者は部が悪そうに笑う。


「元々、私はその道のプロじゃありませんから、そんなに長くは持ちませんよ。」

「そうか。」

「……良かった〜。」

「……土方さんボイスで紅羽口調は気持ち悪いですね。」

「煩ェよ、愚兄が!」

「あっ!兄って呼ばれたっ!!」

「……殺してぇ…!」


ウキウキと笑顔を浮かべる兄者。
つーか、元はと言えば、全てテメェのせいだろうが…!!

そう、こんな事になった全ての始まりは今朝。

近藤さん達を送り出して、女だってバレるとか何だとかで慰安旅行に連れてって貰えず、土方さん(保護者)と居残り留守番させられたあたしは、昨晩捌ききれなかった書類の検印押しに手を付けようとしてた……

────回想、

「御免下さいませ〜。」

「…ん?」

「あ、兄者だ。…スンマセン、土方さん。オレ……」

「ああ、用事が済んだらさっさと戻ってこいよ。」

「はーい。」


玄関から聞こえる聞き慣れた声に駆け出せば、案の定、兄者がにこにこしながら立っている。


「久方振りですね、紅羽。」

「久し振り。で、何だよ、兄者。仕事は?」

「今日は非番です。それより聞いて下さい!私……いえ、百聞は一見に如かず、ですね。今日は貴女の他に誰かいますか?」

「?…土方さんならいますけど。他の皆は今日から慰安旅行で。」

「それは好都合です!取り敢えず上がりますよ!」

「あ、ちょ、勝手に……あーあ…」


話も聞かずに兄者は屯所に上がり込みいそいそと副長室へと駆けていった。


「こんにちはっ、土方さん。」

「何だ、黒刃。俺に用事だったか?」

「いいえ。ちょっと…、あ、紅羽っ!早くいらっしゃい!!」

「……何だよ兄者ぁ〜…、」


がっ、


「…?」


兄者に近付くと、襟首を捕まれ身動きがとれなくなり、


「このっ、男装娘とっ…、このっ、男前ニコ中副長様をっ…、チェェェェェェェェェンジッ!!!!

「はっ?!!って、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

「なっ?!え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙っ?!!!


どかーんんんんっ!!!!


どっかのおしゃれ魔女が言う様な台詞と共に、兄者はあたしを土方さん目掛けて一本背負いした。


――

────

…で、気付いたら中身が入れ換わってた、と。

何ともアホみたいな展開。


「つーか何で中身の入れ換えとかできんだよ、アンタ。」

「おや、紅羽。兄者と呼んで下さいよ。」

「呼ばねーよ、阿呆。で、理由。」

「はいはい。実は最近、江浮江浮(えふえふ)星から導入された黒魔術なるものに興味がありましてね、独学でやってみたら、できちゃいました☆

「できちゃいました☆じゃねェェェェェェっ!!ふざけんなっ!!」


きらっ☆と言わんばかりの兄者。
何コイツ!!スッゲェ腹立つ!!知ってたけど!!


「つーかアンタどんだけ強くなるつもりだよっ!!」

「出来る限り。」

「もう、やだぁぁぁぁぁっ!!土方さん、コイツ斬り刻んで良いですかっ?!」

「落ち着け、鷹居!戻らねぇ訳じゃねぇんだから。で、黒刃。元に戻る方法は?」


泣き言を言い出したあたしをあたしの姿をした土方さんが宥めて、兄者に問うた。


「知ってんだろ?教えろよ。」

「ええ、時間経過ですよ。」

「「時間経過ァ?」」


けろっと答える兄者にあたし達は疑問符を浮かべる。


「はい。さっきも言いましたが私の場合、その道のプロではないので、半日か半年くらいでしょうね。」

「「半年っ?!!」」


シラッと答える兄者に土方さんと声が重なった。


「テメ、半日と半年じゃ全然違うじゃねぇか!!」

「そうっスよ!!何、1日か2日くらいみたいに言ってんのっ?!違うから!!4368時間も違うから!!」

「まぁまぁ、何も半年と決まった訳では無いじゃないですか。」

「暢気な事言ってんじゃねーよっ!!今はまだしも、近藤さん達が帰ってきたらどーしろってんだっ!!」

「ああ、それは困りますね…」

「風呂とかどーすんだよっ!!入れねぇじゃねぇかっ!!」

「それは一緒に入れば良いだけの話でしょう。」


結局それか。

あ゙ーっ!!腹立つ!!ほんっと腹立つ!!


「土方さん、この人セクハラで逮捕できませんかね。」

「可能性は0じゃねぇな。」

「嫌だなぁ、冗談ですよー。兎に角、明日また来た時、戻ってないようなら方法を考えますよ。」

「「今考えろよ。」」

「えー…だって、それで半日だったとかだったら時間の無駄じゃないですかー。」

「自分で招いた事のクセに。」

「全くだ。」

「まぁ、今日1日仲良く過ごして下さいよっ。では大江戸マートのタイムサービスが始まりそうなので私は帰りますね。」


にこっ、と上手く纏めたぜ、みたいな顔して兄者は腰を上げる。
つーか、タイムサービスって…!!


「ちょ…!ンな無責任な!!」

「はっ!!私の山葵が売り切れてしまう!!ではっ!」

「あっ!!ちょ、まっ!!……あー………」


正に脱兎。
白々しく時計を見た兄者は、止める間もなく、土埃と焦げ臭さを残して去っていった。

つーか、山葵て……


「辛い物摂り過ぎで血管切れて死なねぇかな、アイツ。」

「物騒な事言ってんじゃねぇよ。取り敢えず、仕事の続きだ。」


半分諦めた顔のあたしの姿も溜め息を付いて立ち上がった。


「……ちぇー」

「俺の顔してンな事言うな。」

「すんまっせーん」

「腹立つな…」

「あー、待って下さいよー!」

「……きもい…」


そう言ったあたしの姿をを土方さんの姿は追い掛ける。
端から見れば未成年の背を追い掛ける青年男性。
うーん、男装中だが追ってるの姿はあたしで女な訳だからなー………


「この絵面って、ロリコン?」

「あ゙あっ?!」

「や、別に土方さんがロリコンとは言ってませんよ。絵面的に青年男性が未成年女子の背中を追っ掛けてるからなー……って。………沖田さんが留守で良かったですね。」

「…!!………そうだな…」


ふ、と行った言葉に、若干青ざめて肩を落としたあたしの姿は、何だか小さく見えた。

──それは、肩が落ちてるから?それとも土方さんの視線だから……?


「……、」

「どうした?鷹居。」


立ち止まっていると、足を止めたあたしの姿はあたしに声を掛ける。


「何かあったか?」

「あ、いや、こーして見ると、オレって土方さんに比べて大分小さいなーって、」

「何言ってんだ今更。5pって結構あんだぞ。」

「あはは、そっすね。此の身長差じゃ、オレ、土方さん守るなんて豪語できませんなー。」

「……」

「あっ!何スかその目!今更みてぇに思ってるでしょ?!生憎と此方はマジだったんスからね!!」

「……はぁ、お前なぁ…」


振り返ったあたしの姿をした土方さんは溜め息を付いて近付いてきた。


「?」

「首傾げんな。キモい。」

「自分で自分をキモいって…土方さん、自虐趣味でもあるんですか?」

「ンなモンあるかっての!!じゃなくて、鷹居!」

「あいっ?!」


あたしの声があたしを呼んで、あたしの姿はあたしの意識を見上げる。

見慣れた自分の顔なのに、何だろう、何か…違う。


「オメーが俺の事守るだ何だっつーのは有り難ェとは思ってる。だがな、」


目の前のあたしは困ったように顔を歪めた。


「……身長差だけじゃねぇが、いくら鷹居が夜兎の血ィ引いてたって、俺とオメーじゃ場数も力量も違うんだよ。」


ぽん、と軽い衝撃が、頭に走る。


「鷹居のクセに補佐なんつー名義、糞真面目に受け止めてんじゃねーよ。俺はオメーに守って貰わにゃならねェ程、弱かねぇ。だから…」

「……土方さん、」

あたしは土方さんを見上げた。



……見上げた?


「……だから、」

「……ん?あれ?」

「…どうした?」


キョドってると頭上から低い声。

顔を向ければ短い黒髪の、瞳孔が開いた端正な顔。

これは!これは紛れもなくニコ中上司!!


「戻った!!戻った戻った!!」

「え?な、鷹居っ?!」

「ぎゃーっ!!元に戻ったァァァァァァァァァァ!!!やりましたよ土方さぁぁぁぁぁんっ!!」


がばぁっ!!


「うぉあっ!!?」


1人乱舞するあたしに戸惑う土方さんに抱き付けば、バランスを崩して、尻餅をつく。


「…って〜…」

「あ、スンマセン。でも、戻りましたよ!!土方さん!!まだ半刻しか経ってないのにっ!!」

「……ああ、そうだな。」

「あり?何かあんま嬉しそうじゃないですね?あ、そういやさっき何言おうとしてたんスか?」

「…っ!!何でもねェよ!仕事戻るぞっ!!」

「痛って!!叩く事無いじゃないっすかァーっ!!」





迷惑極まりない!!

「ねー、何て言おうしてたんスかー?だから何ですかー?」
「あーっ!!もう煩ェな!!だからあんまでしゃばるんじゃねーよ、だっ!!」
「なっ…!!何ををををををっ!!!」




fin!
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前身サイト9300打キリ番
依頼 蜜柑様
課題 土方 ギャグ微甘

20080801
死ねば死に損生くれば生き得
御堂 篝 拝*

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ballad


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