extra.9
「……と言う訳で、今回の夏祭りの警備は私服と言う事になった。ペアを組んで回るように。」
集まった隊士達に土方さんはそんな事を話した。
浴衣日和
もうすぐ、江戸で1、2を争う大きな夏祭りがある。
そこに将軍様が来るとあれば、警護が必要な訳になる。
であって、我々、真選組には祭り休暇などある筈もなく、生殺し状態の御祭り警備が課せられたのだ……。
「……あ〜ぁ、タリィ〜」
「鷹居、私語は慎め。」
独り言のつもりが耳敏い副長様の耳に入ったらしい。
ギッと開いた瞳孔で睨まれた。
「あーい。ったってタリィもんはタリィっつの」
「鷹居、減給。」
「ああああああああっ!!すんませんっ!!もう喋りません!!口チャックします!!」
あたしは慌てて弁解する。
だって、減給ってあたしの明日がなくなること意味すんじゃん!
色んな意味で!
そんなんを考えてたら、土方さんは溜め息を着いて再び何やら話始めた。
「攘夷派の連中には俺らの顔知ってる奴は多い。各々、職務中っつー事がバレねーよーに、気ィ引き締めてけ。」
何だそれ。
本格的な生殺しだなオイ。適度に羽目外しつつ、みたいな?
不可能だろ不可能。
皆遊び出すぜ、絶対。
勿論あたしも隙を見て抜け出してやるさ。
ペアは沖田さん辺りになってもらえば出来ない事ない筈。
「ああ、そうだ。回るペアは何時もの市中見廻りの奴と同じだからな。」
若干上がったあたしの口角から丸っと考えを読んだかの様に、土方さんは絶望的な言葉を発しやがった。
あ、これあたし無理じゃん。不可能じゃん。祭り行けねーじゃん。
……………畜生!
あんまりにも悔しいんで後ろめたげに睨み付けてやった。
「そう言う訳だ。間違ってもサボんじゃねーぞ。サボったら即刻切腹だかんな。」
そんなあたしに気付いてか、土方さんは勝ち誇った様な笑みを浮かべて言う。
………あんまり笑わない人だから、非常に気持ち悪い(酷)
「じゃあ、今日はここまでだ。各々今日の仕事に着け、」
「あ!副長!」
「あァ?」
解散、の令が発される前に山崎さんが挙手した。
「んだ、山崎。何か文句でもあんのか?」
「いえ、そうじゃなくて…攘夷派の連中に気付かれない様に何人か変装してはどうかと思いまして…」
「変装ォ?」
山崎さんの言葉に土方さんは眉間に皺を寄せまくる。
ああ、自然体自然体。
「ええ。いくら私服を着用していても分かる奴は分かりますから。」
「……そうだな……」
尤もらしい意見に、口許に手を添え、唸りだす土方さん。
確かに山崎さんの言ってることは頷ける。
でもあたし的には非常に嫌な響きだ。変装って……!!
「良いじゃねぇですかィ。土方さん。その方が面白そーだ。」
暫し流れた沈黙を破ったのは沖田さんだった。
アレ?何でだろう?
何か凄く嫌な予感がするんですけど!
何か凄くデジャブになりそうな気がするんですけど!!
「どーせなら山崎みてーな密偵の奴等とか華奢な連中に女装させたらどうですかィ?なァ、紅羽?」
「オレに振るなァァァァァァァァァァァァ!!!」
嫌な笑みを浮かべた沖田さんは案の定あたしに話を投げつけた。
予感的中!凄いぜあたし!嬉しくないけどなっ!
「つーか何でオレに振るんですか沖田さんっ!!オレよか沖田さんのがよっぽど可愛いじゃねーっスか!!!」
「何言ってやがんでィ!俺が女装なんかしたら土方さんに襲われちまうじゃねぇか!!」
「誰が襲うかっ!何でそこで俺が出てくんだよっ!!」
「薄情ですねィ、土方さん。俺と土方さんの仲じゃねーですかィ。」
「気持ち悪い事言ってんじゃねーよ!!」
「え……あ、もしや、土方さん、沖田さんの身内に手ェ出したとか?」
「出してねぇよ。」
「未遂でさァ。」
「未遂っ?!うわー……不潔ー。ちょ、土方さん。オレの視界に入んないでください。」
「此れだから大人ってのは嫌でさァ。なァ紅羽。」
「全くですよ、沖田さん。」
「何なんだよ、こいつ等。腹立つ………っ!!」
井戸端会議中のオバサンみたいに話をするあたしと沖田さんに、拳を握って、若干わなわなと震える土方さん。
「その辺にしておけ、3人共。」
そう言ったのは近藤さんで、あたしらは声の方に顔を向けた。
近藤さんは、胡座をかいて腕を組んだまま存在感と説得力のある声で話を続ける。
「俺は山崎や総悟の言った事には賛成だ。」
「ゴリラさん。動物園に売り飛ばしますよ。」
「アレ?紅羽くん、今、ゴリラっつった?てか、さっきの情景描写と態度が違くない?」
「気のせいですよ、ゴリラ。」
「あ、今、確実にゴリラっつった。ゴリラっつったよね?」
「はぁ…もういいから、近藤さん。で、何で山崎や総悟の意見に賛成なんだ?」
話を進めようとした筈の近藤さんが話を進めようとしないのを見兼ねてか、土方さんが話を進める。………ややこしいな、コレ。
「あ、そうだった。やっぱり女連れだと連中も狙いやすいと思うんだよ、俺は。」
「まぁ…確かにな…」
「そりゃそうっスけど…」
納得する土方さんにあたしは歯切れの悪い言葉を繋げた。
「かといって半数を女装させたら、逆に怪しい。だから、変装慣れしてる監査の奴等と紅羽くんが女装するってのはどうだろう?」
「あ?」
言ってる事は正しいと思う。流石総大将だと思う。だが何故だ。なのに何故だ。
あたしは変装慣れなんかしてない!
「待ってくださいよ、近藤さん。山崎さんとか監査方の人はともかく、オレは変装なんかしたことねーっスよ?」
いや、実際は現在進行形でバリバリ男装中だけども!
あたしは真選組内では男な訳だし!正論だよ正論!
勢いづけて豪語したものの、その反論は、今まで黙ってた沖田さんの一声で無力と化された。
「大丈夫でさァ。紅羽は背はデケェが細身だし、割りと女顔じゃねぇですかィ。」
沖田さん、それを言っちゃあ、御仕舞ェよ☆
つーか悪かったなぁ!デカくてよォォォォォ!!
その前にあたしは一応女だから割りと女顔じゃなくてちゃんと女顔だっつーのォォォォォ!!!…………自信はないけど!
「鷹居、近藤さんが言うんだ。諦めろ。」
心中で叫んでると、平淡に土方さんは言う。そちらを向けば………
アレ?何だコレ。
どっかで見たことあるぞ、コレ。
見覚えある感じな土方さんが……アレ?
「………何で目ェ逸らして小刻みに震えてるんスか土方さん。」
「………気のせいだ。」
ザ☆デ・ジャ・ヴ
コノヤロォォォォォォォォォォォォォォォっ!!!
またかっ?!土方十四郎という砦はまた崩壊してんのかっ?!!
どんだけ脆いんだワレェェェェェェェ!!!
「じゃあ、監査方と紅羽くん、宜しく頼むよ。」
くそぅ、ゴリラ!!今に見てやがれ!!
あたしには志村妙という史上最凶最高の後ろ楯がいるんだからなっ!!
そんな近藤さんがあんまりにも忌々しいんで、嫌み半分不平を言う事にする。
「言い出しっぺの近藤さんは女装した隊士を連れないんですかァ〜?確か見廻りのペアは沖田さんですよね〜?」
漫画の吹き出しで例えるなら、とげとげイガイガの奴で最終的に相手に突き刺さる描写をされてる吹き出し。あんな感じで言ってやった(…分かり難い上に長いと来た)。
すると近藤さんはやたら機嫌良さそうに振り返る。
「俺は、お妙さんと廻るからっ」
……………。
……………。
……………。
「テメェェェェェェェェ!!!サボる気満々じゃねぇかァァァァァァァァァァァァ!!!つーか妙ちゃんが着いてくる訳ねーよ!!」
「違う違う。別々で行って、攘夷浪士に襲われたお妙さんを助けて2人の仲はより縮まる、みたいな!」
「縮まんねーよ!縮まる前に繋がってさえいねーよ!!」
「だが総悟に女装させたらトシが……」
「何だその目は。俺が何だってんだよ。何もしねーよ。する訳ねーだろーが。」
「じゃあ土方さんを女装させてけば良いじゃないです!!沖田さんは山崎さんと廻って、オレは妙ちゃんと遊……回る!!」
「待てェェェェェェェ!!!何で俺が女装すんだよ!!つーか鷹居テメェ今、遊ぶって言いやがったな?!サボる気満々はテメェもじゃねーかっ!!」
「そーだ!!トシの言う通りだ!!紅羽くんだけ、お妙さんと廻るなんて狡い!!!」
「んな事言ってねーよっ!!!」
「土方さんが女装すれば全て丸く収まるんですよ!!顔立ち綺麗だから化粧映えしますってマジで!!完全な女になれますよ、顔だけ。」
「それただ気持ち悪いだけじゃねーかァァァァァ!!!」
ぎゃんぎゃんと抗争を繰り広げてると、今まで黙ってた沖田さんが再びぼそりと言葉を紡いだ。
「副長が女装趣味の組織にはいたくありやせんねェ。つーか土方さんは素で気持ち悪ィじゃねぇですかィ。」
「………確かに。」
「否定しろっ!!!」
斯くして、あたしの女装(?)で祭り警護が決定したのだった。
* * * * *
「はい、これで大丈夫よ!」
「有り難う、妙ちゃん……」
祭り当日の夕方。
あたしは変装のため、恒道館道場に来ていた。
何時も男物ばっかり着てるから女の子の浴衣って勝手が分かんないんだよね。
故に、妙ちゃんに気付けを頼みに来た訳だ。
「よく似合ってるわよ、紅羽ちゃんっ!やっぱりちゃんと女の子の格好した方がいいわよ!」
「えー………妙ちゃん、眼科と脳神経外科行きなよ。」
何時ぞや御世話になった黒髪ロングのヅラを被りつつあたしは言う。
顔を上げれば、目の前の鏡に写る黒髪の巨女。
「……はぁ、」
「もう、そんな顔しないの!ホントに可愛いんだから!この浴衣どうしたの?」
「ああ…、此れは兄者が……。どっからンな話を聞き付けたのか、一昨日いそいそと持ってきやがったんだよ。」
薄浅葱に金魚模様の袖を振ってみせる。一般的には可愛くて涼しげな浴衣だが……。
「似合わねー……」
「確かにその黒髪じゃ重たいわよねー……」
「いや、そーでなく全体的に…」
「鬘取っちゃいなさいよ!私が地毛で可愛くしてあげるわっ!!」
「えっ?!」
「最近髪切りに行ってないでしょ?結構伸びてるから結えるわよ!」
「や、でも…」
「いいからいいからっ!…っせい!」
「うぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!」
ドゴォン!!!!
あっという間にヅラを取り上げた妙ちゃんは、あたしを背負い投げして無理矢理座らす。
あ〜…目がチカチカする〜…何か飛んでる〜……
「私に任せて、紅羽ちゃん!うんと可愛くしてあげるわ!!」
覚えてるのはここまでで、あたしは意識を手放した。
* * * * *
「……っち。何やってんだ、アイツ」
腕時計に目をやって土方は舌を打った。
一応女子の紅羽は志村宅で着替えるとの事で、この場所で待ち合わせという事になっているのだが、決めた時間から30度程、長針がずれている。
「気の短ェのはいけやせんぜ、土方さん。女の支度なんざ長ェもんでさァ。お、近藤さん来た。」
隣で突っ立っていた沖田はそう言って、前方から来る奇っ怪な人物に手を振った。
「………オイ、総悟。」
「何ですかィ?」
「何で近藤さんは帯の位置が明らかに高い浴衣着てんだ?」
「言い出しっぺだから近藤さんが女装すべきだって俺が言ったんでさァ。」
「あんなんと歩いてたら滅茶苦茶目立つじゃねーかっ!!お前こないだ俺が言ってた事聞いてたっ?!」
「目立たねぇように、気ィ引き締めて、でしょ?ンなモン無理に決まってんじゃねーですかィ。土方さん、馬鹿なんじゃね?」
「テメェェェェェェェェェ!!!!」
小馬鹿にしたように笑う沖田に土方は叫ぶ。
すると、オカマも吃驚する程気持ち悪くメタモルフォーゼした近藤は豪快に笑った。
「はっはっは!2人共元気だなぁ!ん?紅羽ちゃんはまだなのか?」
「……ああ、」
出来れば視界に入れたくないと、土方はわざとらしく腕時計に目を落とす。
「まだみてぇだ。」
「そうか。じゃあ、俺達は先に行くか。なぁ、総悟。」
「へェ。良いですけど近藤さん。出来るだけ離れて歩いて下せェ。」
「えっ?何で?何で何で?!ちょ、総悟くぅぅぅぅぅぅんっ?!!」
それだけ言ってさっさと屋台の並ぶ方へと足を向けた沖田を近藤は追い掛けて行った。
「……はぁ、」
上にも下にもヘビー級の問題児を抱えると、溜め息が止まらない。
後は新打ちの問題児の登場を待つだけだが、何故か先が思いやられてならなかった。
「(…まさかどっかで襲われてる訳じゃねぇだろうな)」
ふ、とよぎった不安を時計の秒針が倍増させる。見れば先程よりまた30度長針が進んでいた。
「……っ!」
「ひ、…土方さん?」
痺れを切らした土方が携帯をとったと同時に聞き覚えのある声が己を呼ぶ。
「遅ぇぞ、何やっ……て、」
振り返れば、確かに待ち人と思われる人物が立っている。しかし、
「鷹居……か…?」
「そう……ですけど…」
端に向かって白から薄浅葱にグラデーションがかかる浴衣。
被ってくると思われた黒髪の鬘はなく、少し伸びた焦げ茶の地毛には浴衣の柄に合わせた金魚草の花飾りが耳の上辺りに乗っかっている。
何時もの隊服姿からは懸け離れた清楚な格好が恥ずかしいのか、俯き、目が泳いでいた。
果たして彼女は本当に鷹居紅羽なのだろうか…。
あまりの変貌ぶりに土方は一縷の疑念を抱いた。
「……お前、」
「わ、笑いたけりゃ笑えば良いじゃねェっスか!!あ、あたしだって好きでこんな格好してるんじゃねェんスからね!」
「あ、鷹居だ。」
真意を聞こうとすれば、彼女は吐き捨てる様に言う。土方はその口調に確信を得た。
「…まぁ、取り敢えず行くぞ。」
「嫌だ。」
「あぁっ?!」
先程、沖田らが向かった方へ爪先を向け、言えば紅羽はあからさまな拒否を述べる。
「何言ってんだテメェ!」
「こんなカッコで歩くのなんて無理ですよ、無理!」
振り返れば、紅羽は土方の襟元を鷲掴んで訴えた。
僅かな身長差ではあるが、上を見る形になる。染まった頬と若干潤んだ目を吊り上げて紅羽は土方を睨む。
「…っ!」
「ちょぉぉぉぉ!!顔真っ赤にするぐらい笑うの耐えなくたっていいじゃないっすかァァァァァ!!!」
「わ、笑ってなんかねーだろっ!?……似合ってねー事ァねぇよ。」
「へ?」
「…馬子にも衣装じゃねぇか。」
「なっ?!何をををををっ!!!」
浴衣日和
口が裂けても可愛いなんて言えない
「行くぞ、紅羽。」
「あえっ?!名前呼びっ?!」
「鷹居って呼んでたらバレるだろーがっ!!」
fin.
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前身サイト8600打キリ番
依頼 ちい様
課題 土方 ギャグ甘
20080722
死ねば死に損生くれば生き得
御堂 篝 拝*