extra.13

「「あ、」」


スーパーの一角、卵に伸ばした手がぶつかって顔を上げれば意外な人物がいた。


「坂田さん、」

「あ、ああ…紅羽ちゃんじゃん。久し振り。」


甘い罠と鬼の声


「お、御久し振りっス。」


掛けたられた言葉に会釈をしすれば坂田さんは何時もの気怠げな顔でへらりと笑った。


「なになに?紅羽ちゃん、御使い?」

「違いますよ、パシリです。パシリ」

「パシリ?」

「土方さんがマヨネーズ50本買ってこいって。ほら。」


首を傾げた坂田さんにあたしは持っていた買い物カゴを突き出す。


「うわっ、しかも業務用!?」

「でもコレ48本しかないんですよ。」

「“48本しか”って言わなくね?少なくともマヨネーズにおいて。」

「まあ…そーっスね。」


思いっ切りドン引きして複雑な顔をした坂田さんに苦笑いというか愛想笑いというか、そんな感じの曖昧な笑みを返す。

あたしからしてみれば、もう慣れたというか、自宅ではコレが山葵になるパシリもされるんで、そんなに驚く事じゃないけど。


「…で、何で卵?」


ちょっと間を置いてから坂田さんは先程指先がかちあった卵を指差した。


「あ、それは50本無かった時は、自分で作るから卵とサラダ油を足りない本数分買ってこいって。」

作っちゃうのっ!!!?

「らしいですよ。」


更にドン引きする坂田さんにあたしは頷いて言う。

あたしも“作るから”って言われた時はこれくらいビビったな。
あの人はどこをどう曲がっても生粋のマヨラーらしい。
足りなくなったら作るとか普通しないよな、マヨネーズにおいては。


「つーか坂田さんがスーパーとか以外ですね。」


兎に角、作るのかー……と感心だか、嫌悪だか分からない様な声で呟く坂田さんにマヨネーズが離れてもらわんとあたしは話を振った。


「以外とは心外だなー。銀さん結構御料理とかしちゃうよ?」

「マジですか。糖分食ってるか、ジャンプ読んでるか、寝てるイメージしかありませんでしたわ。」

「それ酷くね?一応、俺、一人暮らしだからね。料理作れないと死ぬからね。」

「あたしはてっきり下のスナックの御零れ与ってるとばかり……」

「ちょ…!!!紅羽ちゃん……!!俺どんだけ生活感無いの!?どんだけ駄目人間なの?!!」

「違うんですねー……」

「納得されちゃった。生活感皆無って思われてたんだ。駄目人間って思われてたんだ。」


がっくりと肩を落とす坂田さんに若干の罪悪感を覚えたが、事実、そう思ってたんだから仕方ない(酷い)
だって、外で会う時大概パチンコですったとか家賃払えねぇとか言ってるか、自販機の御釣り口調べてるかだし。てっきりニートかと……。

「ニートは流石に酷くない?」

「うわぁ!読心術っ!!?」

「聞こえてたから!紅羽ちゃん今の全部口に出てたから!全部銀さんのガラスハートに突き刺さったから!」


半泣きくらいになりながら坂田さんは言った。

どうでもいいが、ガラスハートとか言うけど、ガラスって結構丈夫だと思う。
叩き付けなきゃ割れないよな。


「何?もしかして疑ってる?」

「あえ?」


そんな事を思いながら、落ち込む坂田さんを何とも微妙な表情で見てれば、じとっとした目と、そんな言葉を向けられて、今度はあたしが首を傾げる。


「何がですか?」

「しらばっくれても駄目ー。俺が料理作るとか嘘だと思ってるよね?」

「や、別にそんな事ないっスよ…、」

「土方君が料理できて俺が出来ないとか思われんの何かムカつくからな……。」

「別に料理出来ないとか思ってないですって、」

「よし、紅羽ちゃん。昼飯もう食った?」

「え?」


全く以ってあたしの話に耳を貸さない坂田さんに一々相槌を打ってると、ふと問いを投げられた。


「いや、まだっスけど……」

「そう。じゃあこれから俺ん家 来なよ。昼飯作ったげるから。」

「はいィっ!?」


うん、それよくね?と1人頷く坂田さんにあたしは目を見開く。


「いやいやいや、坂田さん。あたし今、土方さんのパシリ中なんですよ?言いましたよね?あたし言いましたよね?」

「聞いたけど、何か適当に盲目の老人がムーンウォークしながら徘徊してたからお家に届けてたとか言い訳すれば良いじゃん。」

「バレますよ!嘘だってすぐバレますよ!大体ムーンウォーク出来る老人が徘徊なんてしませんよ!」

「まぁその辺はうまく丸め込んでさ。じゃあさっさと買って行こうか。」

「え?何この人?あたしの意見は無視ですか?暴君ですか?」

「俺も買い忘れないし、さっさとレジ通しちゃおうぜー。」

「いやいや、あたしまだサラダ油買ってな………って、ちょ!?坂田さんっ!!?坂田さぁぁぁぁぁぁんっ!!?」


しかし、思いっ切り述べた筈のあたしの不満は見事に丸無視されて、腕を引っ張られながら坂田さんの御自宅に連行されてしまった。


*


「もうちょっと待ってな。もうすぐ焼けるから。」

「待ちたくないんで帰してくださいよ。」


万事屋のキッチンから顔を出した坂田さんにあたしはそう言った。

見事に拉致されたあたしは現在、糖分とデカデカと書かれた額みたいなのが飾られてる万事屋のリビングにて待たされてる最中だ。


「いやいや、もうちょっとだから!待ってなって。あ、焼けた焼けた!」

「……はぁ、」


電子レンジの音に再度キッチンに戻る坂田さんにあたしは溜め息を吐く。

早く帰らないと、土方さんに扱かれるのは目に見えてるのに、キッチンから漂う良い匂いに腹の虫が言うことを聞かず、中々立ち上がれないから困る。
しかし、ホントに坂田さんは料理が出来るんだなーと漠然と思う。
一体何を作ってんだろうか?


「はいはーい、お待たせ〜。」

「待ちましたけど、そろそろ帰りた…………あ?」


いそいそと御皿を持ってきた坂田さんの声に振り向けば、その皿の上には昼飯とは呼べないような物が乗っているではないか。


「はいどうぞー。召し上がれー。」


ナチュラルに御皿をあたしの前に置き、坂田さんは真正面のソファに腰掛けた。
勿論、あたしの御皿に乗るそれの倍くらいの大きさのが乗った御皿を持ってだ。


「ん、流石俺。凄ぇ美味い。」

「……えーっと………」


御皿に乗ったそいつを口に運んで、自画自賛してる坂田さんに躊躇ったが、あたしはこの眼前の物体を聞かんと声を掛ける。


「……あー…、…坂田さん?」

「ん?」

「これ何ですか?」

「あれ?見た事ない?アレだよアレ。クロカンブッシュ。

それ昼飯じゃなくね?


あまりにも当然の様に答える坂田さんにあたしは言った。

いやいや、幾らあたしでもクロカンブッシュ位知ってるよ。
結婚式とかのウェディングケーキに使われるシュークリームがタワーになって蜂蜜やらチョコソースやら飴細工やらで飾られたあの御菓子だろ?

御菓子だろ?


「昼飯って言ってませんでしたっけ……?」

「うん。だからこれ昼飯。」

「御菓子ですよね?」

「御菓子だけど昼飯。」

「毎日こんなんなんですか?」

「うーん、3日に2回くらい。」

「そりゃ糖尿になりますわ。」


そう?と、坂田さんは相変わらずクロカンブッシュを口に運ぶ手を止めず、首を傾げた。
溜め息が漏れるも、此処人等昼飯がまだな上に眼前のクロカンブッシュはやたらめったら美味そうなので、思わず喉と腹が鳴る。


「……食わねーの?」

「あ、いえ、頂きます。」


空腹に耐え兼ね、うっかり答えてしまった。
いや、でも折角作ってくれたんだし、食べるべきだろ。うん、間違ってない間違ってない。
でもほら、こういうのって見た目良いけど味が○×△なることがあるじゃないか。いや、その確率が高い。

半信半疑、坂田さん御手製クロカンブッシュを口に運んでみる。


「………美味っ!!!」

「だろ?」

「凄ぇっ!!!ものっそい美味いっ!!!!坂田さん凄ぇ!!!」


食べてみて驚いた。
シューの柔らかさから中のクリームの甘さの加減まで、何処を取っても不足はない程完全なるスイーツだ!!
パティシエが裸足で逃げ出したくなる程に美味い!


「どんな人間にも取り柄って有るって本当なんですね!」

「あれ?褒めてる?貶してる?」

「坂田さん、これなら立派な主夫になれますよ!脱ニート出来ますよ!」

「主夫って………。てか、ニートじゃないからね。」

「てか、神楽ちゃんと駄眼鏡は3日に2回もこんなクオリティ高いモン食ってんスか!!?羨ましーっ!!」


吠えるに近しい声を上げながら、クロカンブッシュを頬張っていれば、ふと、視線を感じた。


「……坂田さん?」

「紅羽ちゃんさー、そんなにそれ気に入ったんなら、家に転職してこない?」

「…へ?」


坂田さんの言葉にごくり、と喉が鳴り、口に含んでいた物が消化器に落ちる。


「な……、え……?」


状況を飲み込めず、目を屡叩けば坂田さんは珍しく至って真剣な眼差しの儘、言葉を続けた。


「そりゃ、チンピラ警察より給料は少ないかもしんないけどさ、それなりの待遇はするつもりだけど。」

「え……いや、その……」

「何も毎日が命懸けな仕事よりは楽だろうし、俺だったらパシリになんか使わないよ?」

「で、でも…あたし……」


あまり見ない表情に不覚にも心臓が一度脈打って、どうしてか、顔を合わせられない。


「ね、紅羽ちゃん、」

「あ……えっと……っ」


机に手を付いてずいっとあたしとの間合いを詰める坂田さんに身をたじろがせた。

その時、


~♪ちゃんちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっちゃ〜 ちゃんちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっちゃ〜


「うわっ!!やべっ!!」


ポケットからキュ●ピー3分クッキングのテーマソングが流れた。慌てて携帯を引っ張り出して、その電話を受ける。


「もしもし紅羽で「テメェ何処ほっつき歩いてんだ!!!?マヨネーズが足りなくなったじゃねーかっ!!!さっさと帰ってこいっ!!!!」


ブツッ!


案の定、電話の主は何時も以上にイラついてる土方さんで、言うだけ言って乱暴に切られたそれにあたしは血の気が引いていくのが分かった。


「…紅羽ちゃん、どうしたの?」

「あ、あ………うわばばばばばばばばばばっ!!!!殺されるっ!!!殺されるっ!!!!」

「え?」


土方さんの怒声に何かもう全部吹っ飛んでしまい、兎に角、帰らねばとあたしは立ち上がる。


「す、すみません坂田さんっ!!!御話また今度聞きますからっ!!」

「ちょ、紅羽ちゃん!!?」

「すいませんホントっ!!!御馳走様でしたっ!!!!」


坂田さんが言ってる事も耳に入らず、取り敢えず頭を下げまくってから、スーパーの荷物を抱え、頭が真っ白な儘、全力で屯所を目指した。





助かったのか、何なのか、

「遅いぞ鷹居っ!!」
「すんませんっ!!!盲目の老人がムーンウォークしながら徘徊してたんでお家に届けてましたっ!!!」
「嘘吐けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「ぎゃぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
そういえば、坂田さん家でクロカンブッシュを食べたとこまでは覚えてたけど、その後、何があったっけ……?




fin.
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前身サイト弐萬打企画
依頼 キリ様
課題 銀時 ギャグ甘

20090703
死ねば死に損生くれば生き得
御堂 篝 拝

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