extra.12
その日は、朝から何か騒がしかった。


「はざーす。」

「あ、御早う、鷹居さん。」

「あ、山崎さん。今日何かあるんすか?」

「え?な、何かって…、今日、副長の誕生日でしょ?」

「………」

「鷹居さん…?」

「…うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


プラス・マイナス


「どどどどどうしよう山崎さんんんんっ!!!」

「落ち着こう!取り敢えず落ち着ついて俺を下に下ろそう鷹居さんっ!!!」


その声に我に帰れば、あたしは山崎さんの首を締め上げていた。


「あ。すんません。ついテンパって。」

「鷹居さんと話してると命が幾つあっても足りない気がする…」


下に下ろしせば、首の根を摩る山崎さん。

大袈裟だろコノヤロー。


「それは兎も角、山崎さん。どうしたら良いですか?」

「そんないきなり言われても……」

「いきなり、ってか、そういう時山崎さんみたいなキャラは、そう思って用意しておいたよ、って、そっと何か差し出すもんでしょ。」

「何それ?俺みたいなキャラって何?てかそれ何処の常識?」

「んー、苦労しても絶対表紙になれないキャラ?」

「ちょ!!表紙って何っ!?何の表紙っ?!!」

「単行本。」

「止めよう!!止めようよそういうのっ!!!!俺らは漫画のキャラだけど漫画キャラって知ってちゃまずいんだよっ!!!」

「漫画のキャラだけど漫画のキャラって知ってちゃまずいって事、知ってる方が悪質ですよ。」

「人の揚げ足ばっか取らないでよっ!!」


かっとなったらしく、山崎さんはそう宣うた。つーか、どこのお母さんだよ。

まあ、山崎さんの小言だし、そんな事はどうでもいいんだけど、まだ用意出来てない土方さんに捧げる誕生日プレゼントについて相談というか参考というか、そんな感じのアレをせねばならないんで、精一杯の苦笑いで話を終わらせた。


「で、あたしは何を用意すべきですか?」

「だから知らないってば!副長の好きな物差し上げれば良いでしょ?!!」

「喧嘩とか?」

「どんな誕生日プレゼントだよ…!!嫌がらせじゃんっ!!嫌がらせ以外の何物でも無いじゃん!!」

「だって土方さん喧嘩好きじゃないですか。」

「そうじゃなくて、マヨとか煙草とかさ……」

「えー、芸が無いー。やっぱ、山崎さんは所詮山崎さんですね。」

「アドバイスしてんのにそれなくない?」

「もう良いっすわ。他当たります。って事で行ってきまーす。」

「えっ!!?ちょ、鷹居さんっ!!!?」


軽く右手を上げてから、即行、踵を返したあたしに山崎さんは驚いたらしく、声を上げていたが、特に気にも留める事ではなかろうと、あたしはそのまま屯所を後にした。


「ちょぉぉぉぉぉっ!!鷹居さぁぁぁぁぁぁあぁんっ!!!今夜の宴の支度はどうするんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


断末魔の様にも聞こえる山崎さんの悲鳴は空耳って事にしておこう。


******


「さぁーて、と。誰に聞きに行こーかなー。」


取り敢えず、知り合いが溜まり易いかぶき町にでも行くか、なんて思いながら、久し振りに独りで歩く江戸の町の雰囲気活気に浸る。
最近は市中見回りで土方さんと一緒ばっかでゆっくりしてもいられなかったから、こう言うのも偶には良いかもしれないな。

うっかりそのまま出て来ちゃったんで、隊服に帯刀してるのが窮屈だけど、棚ぼた的な非番気分でぶらぶらかぶき町へ足を進めた。


「……おい、」

「わ、」


何の緊張も無くホントにぶらぶら歩いていると、ふと低音が耳を掠め、腕を引かれる。
何事かと振り返れば、一番知り合いで一番会ってはならない人物が眉間に皺を寄せて突っ立っているではないか。


「………げ」

「げ、とは何だ。お前こんなとこで何してる。仕事はどうした。」

「し、市中見回りであります副長っ!!!」

「嘘吐くの下手くそ過ぎだろ。」


白々しく敬礼すればがっつり変な顔をされたんで、負けじとあたしは眉間に皺を寄せまくって眼前のその人を睨んだ。


「放っといてください、土方さん」


言えば、眉を僅かに上げて、土方さんは顔を斜に構える。
そう、あろう事か、あたしの腕を引いたのは他でも無い、土方さんだった。


一応、土方さんの誕生日プレゼントを探してるってのに本人に出くわしたら何も出来ないじゃんっ!!

………何て事は口が裂けても言えないんで、何とかこの場を切り抜ける策を考えることにする。


「で、一人で何やってんだお前は。」

「だから市中見回りですよ。」

「見回りは二人以上一組ってのが隊則だぞ?誰に許可得て一人で回ってんだ。」

「…えー………あー………、山崎さん。」

「あ゙ぁっ!!?山崎ぃっ!?」


正直に話す訳にも行かず、出掛けに会ったって言うそれだけの理由で山崎さんの名前を出せば、途端、土方さんは眉を顰めた。

あ、やべ。地雷踏んだ(山崎さんが)。


「あいつにゃ、何の権限もねーだろ!!?」

「いや、掃除の邪魔だから手伝わないなら散歩してきてみたいな。」

お前等夫婦かっ!!!?何だそのやり取りっ!!!」

「さぁ……?ま、それはさておき土方さんは何でこんなトコにいるんスか?しかも私服で。」

「あ゙?」

色々気に食わない節があるらしく、青筋を浮かべる土方さんに問えば鋭い眼光と共に正しくない濁音が返ってきた。


「昨日捌けてない仕事があるとか何とか言ってたじゃないっすか。」

「あー……まぁ、そーなんだが…」


首を傾げれば歯切れ悪く言う土方さん。バツが悪そうに頭を掻いた。


「サボりっスか?」

「馬鹿言え。総悟じゃあるめーし。」

「じゃあ何ですか?」

「今朝、いきなり近藤さんに呼ばれて、"今日は特別に非番をやる"って言われた。」

意味が分からねぇ、と付け足して土方さんは腕を組む。

成る程、奴らはサプライズパーティーを画策してんだな。じゃなけりゃ、仕事溜まってんのに、土方さんに非番を出すなんて自殺行為、近藤さんがする訳無い。

まぁ、折角サプライズにしようとしてんなら、バラすなんざKYだから、土方さんには言わないけど。
それより、何とかこの場を抜けなければ、サプライズパーティーで一人だけプレゼント無しって言うそれこそKYになる。


「まぁ、休みが増えたと思えば良いじゃないっスか。じゃ、アッシはこれで。」

愛想笑いをしてから、ごく自然を装って、あたしは踵を返した。が、


「まぁ、待てよ鷹居。」

「わ、」


再度腕を掴まれ、振り返れば、まぁー、口角を上げ、これでもかって位な悪人面の土方さんがいるではないですか。


「な…、何スか……?」

「どうせサボりなんだろ、鷹居。見逃してやっからちっと付き合えよ。」

「…………は……?って、え、ちょ、土方さ、ぅえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?


その真意を確かめる間もなく、あたしが土方さんに引き摺られる事になった。


******


「……あのー……、土方さん、此処は…?」

「大江戸マートだ。」

連れて来られたのは、御江戸の主婦の御用達、安くて高品質の大江戸マートでした。


「いやいやいや、いくらあたしが馬鹿だからって、大江戸マートだってことくらい見りゃ分かりますから!何で?何で大江戸マート?」

「11時からマヨネーズのタイムサービスがあんだよ。1人3本までだから頭数に。」


ちっと足りねぇがな、と土方さんは、我先にとおばちゃん達が群がる自動ドアに目を遣る。
その目付きが討ち入りの時とほぼ変わらない事に本気具合を見せ付けられた。

こんな状況で断れるだろうか、いや断れる訳がない。


「いいか、鷹居。開いたら、どんな事しても構わねぇ。全力で6つ確保しろ。」

「へーい。」


策まで出して、愈々討ち入りっぽくなってきたが、所詮マヨネーズだからね。ただの脂質だからね。
何時もなら全力で断りたいが、まぁ、今日誕生日だし。
ぶっちゃけそれ忘れてたし。
兄者の教えでタイムサービスって慣れてるから、断らないでおくか。

時計を見れば間もなく11時。
おばちゃん達の身長は平均して大体150p前後。
1人3本って決まってんなら、ふたりで行かなきゃ6本貰えないかも…。

と、なれば、


「………土方さん、体重何sですか?」

「あ?64sだが、それがどうかしたか?」

「………近藤さんより米1袋分くらい軽い…………か…………

「……お、おい…、紅羽…?」

「………よし。土方さん、11時になりますから、御覚悟願います。

「……は?おい、そりゃどういう「11時になりました!大江戸マート、タイムサービスを開始します!!!」


無情かな、状況に疑問符を浮かべる土方さんを余所に、アナウンスが響いた。
あたしはその音と入口が開くのと同時に跳躍し、先頭に踊り出る。


ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!??鷹居、テメェェェェェェェエエエエっ!!!!

「ちょ!土方さんっ!マヨネーズの為だと思って暴れんでくださいよっ!!」


一応、夜兎の血を色濃く継いでますし、兄者に鍛えられてるので、跳躍力とか腕力はありますし、確実にマヨネーズを6本確保できるなら何でもやっていいとの事ですし、その最良策を見出だしたあたしは土方さんを抱き上げて先頭に踊り出たのでした。
だってタイムサービスって基本、商品捌く人がいて、1人ずつ渡してく事が多いんだぞっ!!!


「鷹居!!下ろせっ!!」

「下ろせって…!この状況で止まれる訳無いじゃないっすかっ!!!」

「いいから下ろせっ!!じゃなきゃ切腹だぞコラァ!!!」

「走りながら下ろせませんてっ!!!放り投げて良いなら出来ますけど骨折の保障はしませんよ!!?」

「何とか出来んだろーがっ!!!」

「何とかって、どんな理不尽っ!!?」

何だ彼だ言い合ってる内に、マヨネーズが並ぶタイムサービスの会場に着いてしまい、店員さんに変な顔されたのは想像に事欠かないだろう。

***

「ありがとうございましたー」

「……どうしてくれんだよ、もう此処来れねーじゃねぇか……」


会計を終え、外に出たら、土方さんは、ぐったりとうなだれて頭を抱えていた。


「だって、どんな事しても良いって言ったの土方さんじゃないっすかー。」

「限度があんだろ限度がっ!」

「あでっ!!!」


口答えすれば、即座に平手が飛ぶ。
すぱんっ、と良い音がして、痛みが広がった。


「いってぇ〜……」

頭を押さえて睨みつければ、土方さんは深い溜め息を吐いて踵を返す。


「何処行くんスか?」

「…あ?」


声を掛ければ、気怠そうに振り返った。
某坂田さんにそっくりだったが、口が裂けても言うまい。


「疲れたから、屯所に戻る。」

「え゙、」


い、今戻られたらまずいんじゃないか…?
皆がサプライズパーティー的なアレを企画してるっぽいのに、今戻られたらまずいんじゃないかっ!!!?

出掛けの山崎さんの断末魔(違)に因れば、宴は夜らしいし……!!!
まずいっ!!あたしのせいかっ!!?


「ちょ、ちょっ!!土方さんっ!!!」

「今度は何だ、」


反射的に呼び止めれば、うんざりした感じだが、再度足を止め振り返る土方さん。
律儀だな。


「と、屯所戻った所で、沖田さんが居ますしゆっくり出来ないかと思われますよっ!!」

「……だったらどうする」

「あー…えー……っと…その、アレ…………ひ、昼時ですし、どっかで飯食ってきませんか?」

「あ?」


しどろもどろなあたしの態度に、土方さんの眉間に寄った皺がぴくりと動いた。


「あ、兄者が教えてくれたんスけど、安くて旨いってトコがあるんですよ…。」

「ほぉー、」

「お、奢……り、ま、す、……っ…よ…?」


何とか搾り出した声に土方さんは呆れた様にまた溜め息を吐く。


「…お前、何か隠してんだろ。」

「!!??」


疑問形じゃなく掛けられた言葉にどきりとした。
うわっ!!バレたっ!!?あたしってそんなに顔に出るのかっ!!?


「そぉーんな訳ないじゃないっすかー、何を根拠にぃー」

「いや、何か変だからお前。」

「やだなぁ土方さん。あたしが変なのは何時もの事でしょうー?」

「……。」

「まず否定しろよ。」


華麗にスルーを決め込んだ土方さんを睨めば、顎に手を当てて、まじまじと顔を見返された。
そりゃもう品定めでもするかの様な顔で。


「何隠してんだ。」


その後出てきた言葉は、疑いでも問い掛けでも無く、己の考えを肯定する証拠を引き摺り出す為の文句だった。
すぐこう言う行動に出るのは警察の悪いトコだよ全く。


まぁ、隠してんだけど。


「だから何も隠してませんて。」

「大体、お前の口から奢るなんて言葉が出る自体怪しいんだよ。」

「そんな事ありませんよ。兄者じゃあるまいし。」


此処まで来たらシラを切り通すしかないんで、内心冷汗をかきながら、へらりと笑って見せる。
そんなあたしに見下す様な視線を送ってから、土方さんは口元に狐を描いた。


「そこまで言うなら連れてけよ。その安くて旨い店。」

「い……良いですよぉー。」


勝ち誇った様な笑みの土方さんに、あたしはぎこちない返事しか出来なかった。

安くて旨い店なんて知らねーもん。


「こっちです。行きましょう。」


だからと言って、もう引き返せはしないので、取り合えず歩き出す。

短い返事をした土方さんは後から付いて来てるが、物凄い意地の悪い笑みを浮かべてる事が、ありありと目に浮かんで嫌だ。
畜生、あたしは土方さんの誕生日プレゼントを探しに来ただけなのに何でこんな目に……!
誰か助けてくれ!
どっかにメシアは居ないのか……っ!!!


「………あ。」

「どうした?鷹居。」


ふと浮かんだ人物に声を漏らしたら、土方さんに気付かれた。


「いえ、何でもないっス。」


首を横に振ってから、あたしはまた土方さんに背を向け歩を進める。

場所はかぶき町近く。
時間は12時過ぎ。
困った時は神頼み、と言うではないか。

今度はあたしの口元が狐を描き、物凄い意地の悪い笑みを浮かべる番だった。


******


「おい、その安くて旨い店、こんな裏道にあんのか、」

「もうちょっとです。」


表通りから完全に脱した路地裏。
あるものと言えば、ポリバケツと店の裏口と猫くらい。
表からだとまだこの時間は開いてないし、看板見たら、土方さんは即刻帰るだろうから、敢えて店の裏に来てる訳だ。

何も間違っちゃいない。


「あ。此処です、此処。」

「あ゙?只の裏口じゃねーか。」

「あたし常連なんで。ごめんくださーい!」


眉間に皺を寄せる土方さんにそう告げて、あたしは裏口の扉を叩いた。

すると直ぐに甲高い少年の声がして、僅かに扉が開く。


「あ、紅羽さん!」

「やあ、てる君。久し振り。」

「久し振り!あ、父ちゃん呼んでくればいい?」

「うん、頼むよ。」


そう言うと、少年てる君は店に戻り、甲高い声で父を呼んだ。


「父ちゃー………ぐほぉっ!!?

母ちゃんと呼べぇぇぇぇ!!!

「…………」

「……鷹居、此処、まさか………」


中から聞こえた野太い声に土方さんの表情が引き攣った。


「いや、大丈夫です。大丈夫ですって。」

「………帰る。」

「待って!土方さん、頼むから待って!!」


踵を返さんとした土方さんの腕を必死に引っ張っていれば、再び裏口の扉が開いてあたしのメシアが顔を出す。


「あら、紅羽じゃない!」

「ママっ!」


もう御判りだろう。
此処はかまっ娘倶楽部の裏口で、あたしのメシアはそこのママ、マドマーゼル西郷その人。

困った時の神頼み、神は神でも鬼神だけどな!


「ママっ!ちょっとこの人預かって!」

「鷹居っ!てめっ!」


出て来たママの方へ力任せに土方さんを引っ張り押し付ける。


「あら、随分男前!皆喜ぶわ!」

「でしょ!?じゃ、夕方くらいに迎えに来るから!」

「おい鷹居っ!待てこの野郎っ!!」


悲鳴に似た怒声を上げる土方さんを見て見ぬ振りしてあたしは猛ダッシュでその場を後にした。
これで漸く独りになれたが土方さんの誕生日プレゼント、どうしよっかなー………。


「どうしたのママ〜?」

「きゃあああああっ!!!土方さんよぉ〜!」



考えを巡らせてれば、後方からそんな野太い声のがして、続いて悲鳴が聞こえたような気がするが気の性だろう。


******


「………あー、迎えに行くのも億劫だ……」


いや、正確には恐怖かもしれない。

もうすぐ6時になる頃、かまっ娘倶楽部へあたしは足を向ける。土方さんの誕生日プレゼントでこれだと思う灰皿を見付けたが、財布開いたら274円しか入ってなくて、買えなかった。
そういや今月まだ小遣い貰ってなかった。
それから家帰って臍繰り持って行ったら、もう売り切れてた。
何でも、ツンツン頭のゴリラが買ってったそうだ。

仕方ないからまたぶらぶら探してたら兄者に遭遇して、無言で15mくらいの太いサテンのリボンを渡された。
笑顔で親指を突き立てられたから、そのリボンで首を締めてやった。

またぶらぶらしてたら松平公に遭遇してキャバクラに誘われた。
取り合えず行く振りをして兄者の元に届けたら、兄者は自分の首に巻かれたリボンを解き、それで松平公を亀甲縛りにして引き摺ってった。

その後漸く、プレゼントらしい物を見付けたが、値段が張って買えず、結局何とも言い難い微妙な物しか買えなかった。


あああああああっ!!!!
ツンツン頭のゴリラさんに先に買われなければぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!

しかもこの後、超絶不機嫌なのが目に見える土方さんを迎えに行かねばならないのだ。
ああ、もういっその事何処か遠くに逃げたい位だ。
とは言え、歩いていれば、目的地に着く訳で、着いたら棒立ちしてらんない訳で、あたしはやむなくかまっ娘倶楽部の扉を開ける。


「今晩はー、土方さん引取に来ましたー」

「いらっしゃ……あら紅羽ちゃん!」

「今晩はアゴ美さん。」

「あずみだボケェっ!!!!」

「あ、すんません。で、土方さんは何処ですか、アゴ代さん。」

「ああ、彼なら奥で伸びてるわよ。てか、また間違ったわよね?わざと?ねぇわざとなの?わざとなんでしょ?」

「分かりました。有り難う御座います、アゴ千代さん。」

「もう無視なのね。覚える気がないのね。」


若干肩を落とすアゴ千代さんが教えてくれた様に、店の奥に行くと、ソファーで横になってる土方さんをてる君が団扇で扇いでいた。


「…………え?てる君何やってんの…?」

「あっ!兄ちゃん、紅羽さん来たよ!」

「あ゙ぁ?」


あたしの声に気付いたてる君が土方さんを呼ぶと、案の定、超絶不機嫌な声が返ってきて、土方さんは身体を起こす。


「……テメェ、鷹居…。覚悟は出来てんだろうな……?」

「な…何のですか?」

「明日中に切腹する覚悟だ。俺が介錯してやっから。」

「出来てません。出来る気もしませんすいませんでした許してください。」


ソファーから睨みつけられた眼光の鋭いのなんのって。反射的に身体が土下座して額を床に擦り付けていた。


「どうしてもひとりになりたかったんです。でも屯所に帰られたら困るんです。」

「はぁ?」

「だってうら若い乙女が夜のかぶき町独りは危ないでしょー。」

「……それ…本気で言ってんのか?」

「嘘ですよっ!どうせあたしは若くてもうら若くありませんよっ!」


心配そうに眉を顰めた土方さんに食って掛かる。
ええ、ええ、あたしはどうせ初々しくないさ!

「取り敢えず、もう遅いし、そろそろ大丈夫だろうから屯所に戻りましょう。」

「何か引っ掛かる言い方だな、さっきから…」

「気の性ですよ。じゃあ、てる君、土方さんが豪遊した分は、後日また払いに来るからー。」

「豪遊なんかするかっ!つーか出来ねぇよっ!!」

「バイバイてる君。ママに宜しく!」

「うん!またね、紅羽さん!」

無視かっ!!!?


てる君にそう告げて、あたし等は裏口から店を出た。
オカマバーの表から真選組副長が出て来たなんて洒落にならんからね。
裏通りから表に出て、日も沈み掛かってネオンが光り始めたかぶき町を土方さんと並んで歩いた。


「楽しかったですか土方さん。」

「楽しい訳あるか。」

「でも皆良い人だったでしょう?」

「さぁな。自分を守んのに必死だった。」

「そういや何でも横になって足んスか?」

「気分が悪くなったから。」

「へー?勿体ねー。」

何が?


そんな話をしながら屯所向かってだらだら歩く。
恐らくそろそろ近藤さんから連絡が入っても可笑しくないだろうから、少し急ぐべきかもしれない。

でも、澄んだ琥珀色の空と人工的な蛍光色のネオンが共存するアンバランスな町の雰囲気は緩やかで、到底急ぐ気になれなかった。
どうやらそれはあたしのみならず、土方さんも同じ模様で、何時もは急かす癖に、今日は気持ち、足取りが遅い。


「……ちょっと、急ぎましょっか、」

「……そうだな。」


嫌いな雰囲気じゃないけど、何か、土方さんと並んで歩くのが何とも言い難くて、そう言えば、土方さんはふっ、と笑った。


******


「「「「「副長!誕生日御目出度う御座います!!」」」」」


ぱぱぱぱん!


「な、何だぁっ!!?」


屯所に戻るや否や、クラッカーの音と隊士達の歓声が土方さんを迎えた。
何の事やら驚く土方さんは只、目を見開いて、クラッカーから出た紙吹雪と紙テープを被っている。
勿論、その被害は隣にいたあたしにも降り注ぐ。


「はっはっはっ!どうだトシ!驚いただろ?!!」

「近藤さん、」


廊下の向こうから堂々と歩いて来る近藤さんに土方さんとあたしは顔を上げた。


「あ!紅刃くんも一緒か!おかえり!」

「は、はぁ……只今帰りました……」

「それより近藤さん。こりゃ何の騒ぎだ?」
上機嫌な近藤さんに圧倒されつつ、会釈するあたしとは逆に、土方さんは訝しげに眉を顰める。


「何って今日はトシの誕生日だろ!?奥で宴の準備も出来てるから早く上がって来い!」


誇らしげに言うと近藤さんは出迎えの隊士達と共に奥に戻っていった。
あたしは兎も角、突然の出来事に唖然とする土方さんは突っ立って動かない。
それがあまりに可笑しいので手を伸ばして、引っ掛かった紙テープを払い退けて声を掛ける。


「…だそうですよ、土方さん。」

「……そういう訳か……、」


言えば、ちょっと恥ずかしそうに頭を掻く土方さん。
忘れていた訳ではないだろうが、改まって祝われるのは照れるのだろうか。


て言うか、土方さんが照れてるとか気持ち悪い(酷)


「あ、そうだ。」


草履を脱ぎ、玄関を一段上がった土方さんにふと気が付いて、あたしは自身の懐に手をやった。


「土方さん、土方さん、」

「あ?」

「あたし、今日この支度に参加してなかったんで、食事の運搬手伝いたいから、先に渡しておきます。」

「は?」

不思議に思ったのか、顔を上げた土方さんに、掌サイズの包装を突き出す。

「誕生日プレゼントです。」

「あ……ああ……」


土方さんはあたしの突拍子の無い行動に目を屡叩いた。
突き出されたそれを受け取り、まじまじと見詰める。

プレゼントという割には小さ過ぎるのに驚いてるのか、それとも貰える事に驚いてるのかは分からない。


「大した物じゃないですよ。ホントに。」


あたしもさっさと靴を脱ぎ、玄関を一段上がって土方さんに言った。


「開けてもいいか…?」

「え…っ!!ええ………まぁ……」


相変わらず不思議そうな土方さんの問いに若干声が裏返る。


う…、うああああああああっ!!!
何だこの感じぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!

ドキドキってかハラハラってか何か、何か……………嫌だぁぁぁぁぁぁっ!!!!


「ほ、ホントに大した物じゃないですからねっ!!!!」

「……そ、そうか…。」


吐き捨てる様に言ってから俯いたあたしに驚きつつ土方さんは、かさりと包みを開ける。
目の前で開けられると、中身が確証出来る物じゃないから凄く緊張する。


「…………墨?」

「…っ」


再び目を屡叩く土方さんについ、恥ずかしくなった。
好きな物でもない上に便利な物でもないのだ。


「……」

「あ、あの……!仕事で土方さんが使ってる墨が無くなりそうだったから……!土方さんの事だから買い置きはしてあると思うんですけど……!よ、良かったら使って、ください……、」


無言の土方さんに言い訳がましく口走ってしまった。

ああ畜生!みっともない……!
何と言うか恥ずかしいとか通り越して情けない自分にまた俯いた。
何でだろう、去年はそんな事思わなかったのに……、


「………」

「………」

「……鷹居、」

「ふぁいっ!!?」


暫く続いた沈黙の後、土方さんが徐にあたしを呼んだ。


「…な、何ですか……?」

「墨、無くなるのよく気付いたな、買わなきゃなんねーなって思ってたんだ。」

「…へ?」

「最近忙しくて外歩けねぇから買い置きも無くなってんだ。ありがとな。」

「良かった……!!」



僅かに微笑んだ土方さんにほっとして緊張が緩む。
何だコレ、が限度だろうと思ってただけこの反応は嬉しい。


「…御誕生日御目出度う御座います、土方さん。」

「ああ。」


僅かな微笑みに笑顔を返して言えば、やっぱり照れ臭そうに頷いた。


「………でもよ、」

「はい?」


しかし何か思い出した様に土方さんは顔を顰め、訝しげに口を開く。


「これはこれで良いとして、今日俺がお前に抱き上げられた事や、可笑しなオカマバーに連れてかれた事はどう落し前付けるんだ?」

「……げ、」


ぎぎぎぎぎ、と今にも音が出そうな感じで振り返った土方さんにあたしの血の気が引いていったのは言うまでも無い。





ゼロにならかった誕生日。
「罰掃除と罰完徹、選ばせてやる。」
「…完徹で御願します………、」
その晩、紅羽は溜まった仕事と延々睨めっこだったとさ。




fin.
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前身サイト弐萬打多謝企画
依頼 ごん様
課題 土方 ギャグ甘

20090630
死ねば死に損生くれば生き得
御堂 篝 拝

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ballad


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