irregular.2
!黒刃夢
!夢主は本編の夢主ではありません


朝早く、誰よりも早く出勤して、黒刃さまの御部屋を御掃除した後、御茶汲みの支度のため給湯室に向かっている時だった。


「…あ、」


前方から向かってくる2つの影。
細く、高い方の影に心臓が脈打ち、顔が火照る。


「(!…こ、此方に…っ、向かって来られる?!)」


慌てて私は近くにあった談話室に飛び込んだ。


blushing syndrome


実家の老舗旅館で働いて、其処で一生終える筈だった私が、警察庁長官第一秘書の黒刃さまの側近にして頂いてから早2ヶ月。
側近なんて立場だけどあの御方は御一人で何でもこなしちゃう方だから仕事は殆んど御茶汲み。
それはまぁ良いのだけれど、気持ちが表に出せるようになったためか、あれ以来、黒刃さまと御話どころかまともに御挨拶すら出来ない……っ!!

煩い心音。熱い頬。
どうしたら良いか分からないくて…扉に身体を貼り付けて、足音が遠ざかるのをただ、ただ、待つ。


「松平様、本日は各庁長官会議と真選組局長との会談がブッキングしていますが、」

「あぁ〜ん?あー、じゃあおじさんはゴリラとの会談に行くからしてぇ、お前、会議、代理行って頂戴ぃ。」

「何馬鹿な事仰ってるんです?御上優先でしょう?握り潰しますよ。

何をっ?!!!


思わず吹き出してしまいそうな会話とは裏腹に、私は笑い声を殺して、何とか気配を感じ取られないように必死だった。


「……あれ?」

「どうしたァ?黒刃。」

「いえ。今、あおいさんが見えたような気がしたのですが…」


だけど、突然ピタリと止まった足音と黒刃さまの声にまた心臓が跳ねる。
き、気が付かれていた…?!


「あぁん?あおいちゃん?おじさんは見えなかったけども。」

「気のせいでしょうかね、」

「オメー最近気にしすぎじゃねぇかァ?何かあったの?おじさんに相談してみなさぁい。」


ホッとしたのも束の間。松平様が変な事を聞き出した。最近気にしすぎって…?黒刃さまが………私を?
早まる心音は次の言葉で落ち着きを取り戻す。


「………。あははは。松平様に相談に乗って頂く程ではありませんよ。あはははははは。」


驚く程抑揚の無い声で黒刃答えた。
落ち着いたのは良いけど、黒刃さまの相談事の内容は気になる……。


「え?何今の間。何その棒読み。何?おじさんはそんな信用出来ないってかァ?」

「ええ。」

「酷ォォォォォォォォォォ!!」

「御話ししても良いですけど、幾ら払ってくださいます?

おかしくないっ?!!!おかしくない、それっ!!相談料取るのは分かるけど、逆はおかしくないっ?!!」


「知りません、そんなの。私がルールです。

なんて理不尽な!!!!

「払ってくださらないなら結構です。さ、長官会議がそろそろ始まりますよ。」
「………。でもよォ、オメー、ゴリラと会談だろ?俺の付き添いどーすんのよ。」

「それでしたら、第二秘書の佐鏡君に任せてあります。彼は私の部屋の斜め向かいの前の部屋にいますからそちらへ。」

「お前端部屋だよね?何で素直に隣って言わないの?つーか、おじさんに直々に行けってか。」

「だって私、忙しいんですもの。さぁ、さっさと行ってください!遅刻しますよ!」

「…っとぉにィ、しゃーねぇなァ〜。テメーが敏腕秘書で剣豪じゃなきゃ打ち首にしてやんのによぉ。」

「褒め言葉として受け取っておきますね。御気を付けていってらっしゃいませ。」

「お〜う。」


勢いのない足音、恐らく松平様の足音が遠ざかって行くのが聞こえた。

それより、最近よく思うのだけれど、黒刃さまと松平様の御立場の上下が解らなくなるのは私だけかしら……?


「さて……と、」


1人首を傾げていると微かに黒刃さまの御声が聞こえた。
良く聞こえなくて、扉に耳を近づけたその瞬間、


がちゃ、



「やっぱり、気のせいではありませんでしたね。」

「っ!?」


扉が開いて頭上から私の心臓を活発にする音がした。


「あっ、黒刃さ、ま……!!」


顔を上げれば、困ったような微笑みの黒刃さま。


「…さっき、逃げましたね?あおいさん。」

膝に手を付いて若干屈んだ黒刃さまが私の顔を除いた。

ただでさえ距離が近いのに、目を合わせるなんて出来なくて、


「ち、違います…っ、」

「ほら、また逃げた。」

「あっ、」


顔を逸らす。
でも、私の頭は強制的に黒刃さまによって戻されてしまった。


「人と話をする時は目を見て、とお母様に習いませんでしたか?」

「……っ!!」


私の頭を固定したまま黒刃さまは首を傾げる。柔らかい焦げ茶の髪が揺れれば、私の心臓はまた喜んだ。


「……寂しいではないですか。」


顔が直視できないから、目を伏せていると、いつもと違う少し掠れた優しい声で紡がれた言葉が耳に入る。


「…え?」

「折角、貴女を傍に置いたのに、避けられてしまっては意味がない。」

「避けている訳じゃ……!!」

「気になさらなくても良いですよ?無理矢理連れてきてしまったのですから嫌われても仕方ありませんし、」

「違っ!!」


弱々しい笑みと自嘲に似た台詞が私の心を貫いた。
恥ずかしかったから、自分を守っていたから、私は此の御方を傷付けてしまっていたの…?
そんな誤解をさせてしまったの…?


「違いますっ!違うんですっ!!嫌いになんてなっておりませんっ!!」

「あおいさん…?」


伏せた目を前に戻して、気付けば私の両の手は黒刃さまの襟にしがみついていた。


「嫌いになんて、なっておりません……なれません……っ、」

「それは………?」


声と共に伸びてきた黒刃さまの右手にハッとして、襟を掴んでいた手を放す。


「あ、ご、御免なさい……」

「いいえ、大丈夫ですよ。それで、私を嫌いになってないって?」

「あ、その…私は、私はただ、恥ずかしくて…、黒刃さまの御顔とか御姿とか、見るだけで恥ずかしくて、そんな顔を見られるのも恥ずかしくて、それで……」


優しい声と穏やかな表情で訊ねてくる黒刃さまにまた顔が火照ってきた。
それが恥ずかしくて俯いたまま辿々しく言葉を紡ぐ。


「……っ、」

「黒刃さま?」

「ふふっ、…いや、ご、御免なさい、悪気がある訳では…くくっ……」

「な、何で、笑ってらっしゃるのですか…?」

「いえ、…ふふ……あおいさん、耳まで真っ赤ですよ?」

「えっ?!!」


口許を押さえる黒刃さまの言葉に反射的に耳を押さえた。


「くくっ…っ、」

「わ、笑わなくても宜しいじゃないですかっ!!?」

「ごめ、御免な、さい……ふふっ、可愛らしいなって……くくくっ」

「か、からかわないでください!!だ、だから申し上げたじゃないですか…っ!!」


涙まで浮かばせて笑う黒刃さまに真っ赤な顔は一段と熱くなる。


「ふふふっ、からかってなんてませんよ。顔に出ないだけでその気持ち、分かりますから。」

「え…?」


ゆっくり顔を上げれば、黒刃さまは優しく微笑んでいた。


ぐいっ、


「あっ、」


瞬きをして首を傾げていると、急にバランスが崩れて、彼の胸に頭を打つ。


「…っ!!」

「逃がしませんよ。」


慌てて離れようとすれば、肩に腕が掛けられて閉じ込められてしまった。


「黒刃さまっ……!!」

「しっ。静かにしてみてください。」

「…?」


混乱する頭のまま、言われた通りに口を閉じると、規律の正しいリズムが鼓膜を揺らす。


「…聞こえますか?私の心拍数。」

「は、はい…」

「あおいさんのそれとどっちが早いでしょう?」

「え?え、えっと……」


どっち、と言われても分からなかった。
私は顔が真っ赤だから、それなりに早いけど、顔色1つ変えない黒刃さまのそれも酷く、早い。


「……分かって頂けましたか?」

「え?」

「こうやってどきどきしているのはあおいさんだけではないんですよ。職業柄、顔には出ないだけで。」

「は、はい……。」


肩に掛けられた手が私の頭を撫でた。
その行為に緊張と安心の入り交じったよく分からない感情が込み上げる。
だけど、不思議と心地好い。今ならちゃんと伝えられるかしら…?


貴方が好きですって…


「あ、あの…っ」

「どうしました?」

「あの、避けるみたいな事をしてしまって、御免なさい…私、……っ、私…、黒刃さ…もごっ?!」

「おっと。あおいさん、その先は言っては駄目ですよ?」


折角、決心したのに、私の口は黒刃さまの手で覆われて、言葉を紡げなかった。


「…っぷは!な、何でですかっ?!」


大きなその手を何とか外して、私は黒刃さまを見上げる。
すると、彼は何時もの笑顔を浮かべた。


「何でって…、その先が私にとって良くも悪くも、聞いてしまったらそのまま襲ってしまいそうだから、ですよ。」

「なっ!!??えっ!!そっ!!」

「あははっ。また紅くなった!」




blushing syndrome
赤面症候群

「さ、行きますよ。あおいさん。」
「どっ、何処にっ……ですかっ?!!」
「真選組局長殿との会談ですが…。あおいさんは私の側近でしょう?」
「あっ!そ、そうですよね!す、すみません…」
「……それとも、別の場所が良かったですか?」
「っ!!!?」
「ふふっ、本当に可愛い方ですね。」



fin!
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前身サイト9777打キリ番
依頼 菜摘様
課題 夢主兄 甘

20080808
死ねば死に損生くれば生き得
御堂 篝 拝*

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