chap.9

「鷹居、起きろ。」

「へぁい?」

「胴着に着替えて道場まで来い。」

「うー?」

仕切りの襖を僅かに開けた土方さんはそう言って自室を出て行った。


chap.9
後戻りはしない


今日は例の疑惑事件後初めての非番。

あの後、始末書やら土方さんの手伝いに追われてひーひー言いながら何とか今日まで辿り着けたと言うのに、冒頭文。

時刻は早朝。漸く太陽が天に昇り出さんと頭を出し始めた頃。
まだ辺りは薄暗いと言うのに冒頭文。

胴着に着替えて道場に来いとは何事だ。

しかもその時あたしは寝てたたんだぞ?!
それを部屋が隣なのを良い事に、土方さんは仕切り代わりの襖を殴る勢いで叩き、あたしを睡眠から引き擦り出した。

御蔭で寝起きは最悪だ。

……まぁ、言われたからには行かないとどんな報復(主に減給)が待っているか分かんないから一応行くけども、ああ畜生、睡魔が誘惑してくる。

重い瞼と闘いながら、欠伸を噛み殺して箪笥から胴着を引っ張り出した。

*****

「御待たせしましたぁ〜あ。」

寝起きMAX、寝癖MAXの状態で頭を掻きながら大欠伸してそう言うと、土方さんはただでさえ機嫌悪そうな顔を更に歪める。

「欠伸しながらたぁ良い度胸だな…。」

「しゃーないっスよー。だって、今4時半ですよー?」

「その横っ面、引っ叩きゃ目ェ覚めっか?それともぺらい給料袋叩き付けてやりゃあ目ェ覚めっか?」

「……目ェ覚ますんで後者は止めて下さい。」

「叩かれんのは良いのかよ…。」

唸る様な発言の内容にばっちり目が覚め、頭を下げると、呆れた様に言われた。

だってそんな給料袋貰ってみろ。
横っ面引っ叩かれた傷は治るけど、給料袋の薄さに激怒されれば明日の命がないのは目に見えてる。
あたしの命は給料袋と一心同体なんだから仕方ない。

そんな訳で目覚めたあたしの目は漸く焦点を合わせだした。
眼前の土方さんは胴着姿に竹刀を2本携えている。

あたしが胴着を着ているのは言われたからであるが、何で土方さん胴着?
素振りに竹刀は1本あれば良いのに何で2本?
あれ?キャラ変え?
海賊狩りになるんですか?
奥州筆頭になるんですか?

でもそれだとどっちにしたって本数足りないんじゃ…。

「おい、今失礼な事考えてただろ。」

「そんなまさか。土方さんが強靭な顎や有り得ない握力を駆使して刀を使うなんて考えてませんよ。」

「よーし分かった。歯ぁ食い縛れ!」

「冗談っスよ!」

竹刀を放り投げて指をパキパキ鳴らす土方さんに両手を振って弁明する。
目ェ覚ましたら叩かないんじゃないのかよ!

必死の弁明はどうやら通じたらしく、土方さんは溜め息を吐いて放り投げた竹刀を拾い上げた。

「鷹居、」

「わっ!?」

そして1本を此方に放り投げ、もう一方を肩に担ぐ。

「稽古付けてやる。打ってこい。」

「へ?」

咄嗟に竹刀を受け止めたが、土方さんの言葉に首を傾げた。

だって稽古ならあたしは何時も短めの木の棒を使ってるし、今までだってそうしてきた。
土方さんも特に何を言う分けでも無く黙認して居た筈。
なのに何故か竹刀。
竹刀の稽古なんてあたしにとっては何の練習にもならない。

「待って下さい、土方さん!」

「何だ。」

「稽古だったらあたし自分の持ってきます。」

「それじゃ意味がねぇ。」

「え?」

渡された竹刀を持ったまま抗議をすると、土方さんは言った。

「“刀”の使い方を叩き込め。でなきゃ出入りには連れてけねぇぞ。」

「なっ…?!」

真剣な面持ちにあたしは目を見開く。

確かにあたしはまだ“出入り”と言うのに出動したことはない。
だけど、大量検挙の実績はあるし、未熟だけどそれなりに戦い方は小さい頃から叩き込まれてきた。

「どうしてですか?!」

「お前の戦法は真選組に合ってない。」

「合って…ない?」

朝方、ただでさえ静かな道場が一瞬で音を失う。
驚愕と共に訪れたのは鈍器で頭を殴られる様な感覚だった。

「得物のリーチの長さと護りからの攻めをするお前の動きを見る限り、鷹居は少人数相手に向いてる。」

「……少人数…」

「だが、俺達はそんな生温い世界で生きてねぇ。1人で数十人と対峙するなんざ、ざらにある。今のお前じゃ通用しない。」

真剣そのものな声色と顔付きにあたしはただ押し黙る。

声が出なかった。

「今のスタイルを貫きてェなら、黒刃と渡れる、いや、越える他手段はねぇ。……出来っか?」

「………無理、です。」

「だろうな。ありゃ人じゃねぇ…。」

苦い表情を浮かべた土方さんにあたしは俯いた。

目標が高過ぎる。
越える所か上るのさえ能わないのは先の件で分かっている。
人じゃない、と言われて過言だと思えないから。

「鷹居の攻撃は致命傷を与えても倒すには至らない。大量検挙は検挙でしかねぇ。相手は首だけんなっても食らい付いて来る。それに対するには…分かるだろ?」

「はい…。」

「此方に足突っ込んだんならそれなりの覚悟はしてる筈だ。」

厳しい表情を崩さない土方さんの顔をあたしは見れなかった。

確かに今まで大きな事件がなかったし、そこに至らなかったし、覚悟なんてしてなかったかもしれない。
でも、あたしが入った組織は真選組だ。
生温い気持ちじゃやっていけない。

「……覚悟は、してます。」

それでも自分で選んだから。

後戻りはしない。

あたしはそんなに起用じゃない。
俯いたまま、唇を噛んで頷いた。

遅すぎたけど、覚悟はもう出来た。
…だけど、あたしの戦法が通用しないなら、あたしはもう此処にいれないんじゃないか…?

「……本来なら現時点で使えなきゃおさらばだが、お前を見す見す切り捨てんのは惜しい。」

「へ…?」

頷いてから暫くして、土方さんが言った言葉にちょっと頭を上げ、首を傾げた。
相変わらず表情は厳しいが、口調は少し柔らかくなった気がする。

「此方は鷹居の常人離れの身体能力を買ってんだよ。お前は戦力内と戦力外の丁度真ん中にいる。」

「真ん中?」

「今のままじゃ小数戦でしか使えねぇが、“刀”使えりゃ、お前は戦力になる。」

「刀って……日本刀っスか?」

何時の間にかきつく握っていた竹刀に目を落とす。

「ああ。お前、家が剣術道場やってたんなら、基礎は出来んだろ?」

「……まぁ、基礎なら。」

「だったら後は慣れだ。そうすりゃ即戦力になる。」

「マジっすか!?」

土方さんの発言にあたしは顔を上げた。

都合が良過ぎるけど、折角決めた覚悟を無駄にしなくて済むならやらない手はない。
得物を変える程度の順応性は備えてるつもりだ。

「じゃあやります!頑張ります!」

渡された竹刀を握り直し、構えの体勢を作る。……が、


「……お前、握り方逆。」

「え?」

「右利きだろ?左手が上になってどーすんだよ。」

「…………あ。」

「取り敢えず、稽古以前に素振りからだな。」

「………はい。」

どうやら先は短くないようだ。


To be continued……

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