chap.12

「終わんねぇー、終わんねぇー。」

「五月蝿ぇな、鷹居。黙ってやれ。」

「だって土方さーん。あたしこんな事するくらいなら竹刀振り回してぇですよ。」

「テメェ、今朝どういう状況になったか覚えてんのか?あ?」

「……面目無いです。」

「分かってりゃいい。今日は素振り禁止だ。」

「えぇーっ!!」

「副長、山崎です。」

あたしが不満に口を尖らせると同時に、副長室の前に見慣れた影が現れた。


chap.12
化けますよ


忍装束の山崎さんを部屋に入れ、手渡された報告書を眺めた土方さんは顔を顰める。
その様子に山崎さんが補足ですが、と言葉を紡ぎ始めた。

「奴さんは3日後の早朝、ターミナルの機能停止を目的としたテロを起こそうとしている様です。」

「拠点は、」

「へい、御国屋で前夜に宴会を催すらしいです。」

「人数」

「ざっと100人程度です。」

「ちっ、嘗められたもんだな。」

……調査の結果は黒だったらしい。話の内容から討ち入りは明後日の晩だろう。

土方さんが報告書を机に仕舞い、「下がれ。」と短く告げると、山崎さんはぺこりと頭を下げて副長室を出ていった。

「鷹居、」

「!、はい?」

すーっと襖が閉まったと同じ位に土方さんに声を掛けられ、肩が跳ねる。

「何スか?」

「今日はもう良い。戻れ。」

「あーい。」

手伝いが終わるのは好都合だったので、手元の書類に判を押し、検印セットを机の端っこに置いて、あたしは立ち上がった。

「失礼しましたー。」

「御苦労。」

ぶっきら棒な労いを背に副長室を後にする。

何か小難しい顔してたけど、討ち入りの布陣でも考えんのかな?ま、いいや。今日の夕方の集会で解るだろうし。

始めての討ち入りにほんのちょっと興味をわかせつつ、部屋に戻れったって、やる事無いんで、ちょっくら出掛ける事にした。


*****


「……あ、」

「おや、紅羽殿、」

街中を歩いていると、妙ちゃんと九ちゃんが一緒にショッピングしている隣の店の看板からはみ出して覗きをしている長髪を発見した。

「…何してるんスか、東城さん。」

「陰ながら若を御守りしているのです。」

「ストーカーですか。」

「違います。」

「……あ、そう言えばこないだ呂太にカーテンの上のシャーッてなる奴でいい感じのシャーッ見っけましたよ。」

「ほう。何店ですか?」

「新宿店です。」

「分かりました。有り難う御座います。しかし私は今、若を…」

「九ちゃん達ならもう別のお店に向かいましたよ。」

「………」

よし、あたし、市民の平和を守った!よくやったあたし!

放心状態の東城さんには少々、申し訳ないが、あたしは年上よりも友達を大事にする口なのだ。
それにちょっと御願したい事も思い付いたしな。

「放心状態に浸ってる所悪いんですが、東城さん。」

「……何でしょう。」

「柳生道場の基礎練に混ぜて下さいよ。」

「……は?」

勿論、突拍子の無い質問だった故に疑問符を浮かべる東城さん。幾ら変人と言えど普通の反応も出来る様だ。

「いや、詳しく話しますとね……まぁ、色々あって日本刀の練習をしてるんですよ。」

「成る程、そう言う事ですか。では御案内しましょう。」

「突っ込めよ、色々の時点で詳しくねぇんだから、そこ突っ込めよ。」

折角のボケにボケを被せてきた東城さんに軽く舌打ちしつつ、その後を着いていく。

「若自身を御守りするのも仕事ですが、若が御帰りになる場所を御守りするのも私の使命ですからね。」

「東城さん1回病院でちゃんと診てもらった方が良いですよ。世の中の為になりますから。」


*****


「構え、素振り開始!」

「「「「押忍!!」」」」

「へぇー…」

東城さんに連れられ、柳生道場に着くや否や、彼は使用人か何かに呼ばれて、1番でかい道場に連れていかれた。

あたしはと言うと、付いて来る様に言われたのでその後を追い、現在、道場の隅で門弟の素振り風景を見学している。
しかし、まあ、何と言うか、幾ら変態だの変人だの言われているとは言え、流石は柳生四天王筆頭の東城さんだ。
九ちゃんが絡んでいないと、ただの厳しい師範代である。

その証拠と言わんばかりに、門弟の全員が、髪の毛の先から爪先まで緊張し、必死に素振りをしているのだ。
成る程、やはりタダの変態ではなかったか。
この人はアレだ、デキる変態だ。

ほら、あれ、よくあるじゃん。
猥褻罪とかで逮捕された人の人柄を近所に聞いて回ると『真面目な人だったのにね〜』だの『仕事熱心でとてもそんな風には見えませんでしたよ』だのって首から下だけ映った噂好きのおばちゃん達が良く評価している感じのヤツ。
東城さんはそう言う変態なんだ。間違いあるまい。

「やれやれ、御待たせしました、紅羽殿。」

「あー、いやいや、あたしのが急用だった訳だし。何かすんませんね、忙しい所、」

「いいえ。若の貴重な御友人の御頼みとあらば、何でもありませんよ。」

「そりゃどうも。」

門弟達に素振りの後の練習メニューを伝えるとあたしの傍へ来た東条さんに苦笑いして軽く頭を下げるも、彼は笑顔を浮かべる。

何と無ーく嫌な予感がしないでも無いが、考えすぎだろう。九ちゃん絡まなきゃ普通の人だし。

そんな事を考えつつ、案内されるが儘に東城さんに付いていって到着したのがさっきのより少し小さめな道場。

何、この家。幾つ道場持ってんの?家にも昔道場あったけど、此処よりちっさいのが1棟だったけど。


クソ、金持ちめが…!

溢れ出る嫉妬心を隠しつつ、引き戸を滑らせた東城さん越しに中を覗くと、統一性が全く皆無な3人がいた。

でっかい奴と何かムカつく感じの奴と何か見た事ある様な眼鏡の3人である。

「東城殿、今日は随分早い御戻りで、」

「色々あったのですよ、北大路。」

いち早く話を振ったのは眼鏡。
東条さんはそれを軽く流して、道場隅の倉庫の辺りに向かう。

「ん〜?女の子ですか東城さん?」

「珍しい事もあるものだ。」

「ん?誰かに似ている様な…」

東城さんと言う壁が無くなった事で現れたあたしに気付いた3人組はまじまじと此方を見る。
気分悪ィなコノヤロー。

「彼女は紅羽殿です。」

「紅羽?」

「誰だそれは。」

「ああ、黒刃殿の妹か。昔、よく若達と遊んでいた。」

「「へー。」」

倉庫に入りながら東城さんが言った事に3人は反応した。
ん?眼鏡が此方を知ってるって事は…アレ?やっぱりどっかで見た眼鏡……、

「ああ!北大路!北大路斎だ。」

思い出した。
昔、九ちゃん家に遊びに来た時とか柱の陰から東城さんと九ちゃん見てた奴だ。
そーだった、そーだった。

「久しいな。相変わらず黒刃殿に良く似ているが。」

「うっせ、放っとけ。眼鏡搗ち割るぞ。」

スカした感じが何とも気に食わないのが相変わらずな北大路と眼を飛ばし合う。

一種の挨拶と同じ感じである。

するとその北大路の傍へ何ともムカつく感じの野郎が近付いてきた。

「何だ、北大路。知り合いなら俺にも紹介しろよ。」

「ん?そうか。そうだな。紅羽殿、」

「あ?」

「東城さんを加えて俺達は4人で柳生四天王と言われている。」

「四天王?四大変な奴とかの間違いじゃね?」

「あのデカイ奴は西野、此方の気分悪い奴は顔面男性器だ。

おいィィィィィッ!!!北大路ィィィィィっ!!!

「へー、変わった名前っすね。ガンメンダ ンセイキさんですか。」

真に受けてるし!つーか切るとこ明らかに変だろ!?ンで始まる名前日本にはねぇだろ!?」

五月蝿ェェェェェ!!全身猥褻物ぅぅぅぅぅぅ!!!!

「ぶべし!?」

何かとケチを付けてくる奴に飛び蹴りを御見舞いする。

全く、諄いツッコミを派手な奴がやるのは間違いだ。あれは地味がやってこそ味がある。チャラ男にツッコミなんざ100万年早い。

しかし、四天王の一角が蹴り飛ばされたってのに誰も助けにいかんのはどういうこった。
てか、寧ろ清々しい表情を浮かべてる。

「御待たせしました、紅羽殿。おや、南戸は何をしてるんですか?」

「紅羽殿に蹴り飛ばされただけです。」

倉庫から戻ってきた東城さんが道場の隅で伸びているガンメンダ ンセイキさん(南戸と言うらしい)を見て首を傾げると、北大路が淡々と答える。

「ああ、そうですか。では紅羽殿、木刀をどうぞ。」

東城さんも東城さんでさらっと受け流し、あたしに木刀を手渡した。
あ、何だ。
あの人そう言う立ち位置なんだ。

そうと解れば情けはいらない。(最初からないけども。)
あたしは南戸を放置して渡された木刀を丁寧に受け取った。

「此奴はどうも。」

「紅羽殿、貴女がどれ程の腕かは知りませんから、先ずは1対1の勝負を致しましょう。」

「…え、いや、東城さん。あたし、得物変え立ての初心者なんスけど、」

「大丈夫、手加減しますから。」

「はあ…」

「北大路、審判を御願いします。」

「分かりました。」

慣れた感じで事を進める東城さん。

いや、待て、しかしだ。
手加減するとか言ってっけど、相手は達人クラスだろ?
対して此方はこの手の剣術に関して言えばズブの素人だ。

え?良いのコレ?
ハンデとか貰わんで良いのかコレ?

「双方構え、」

「わっ!」

そうこう考えてる内に北大路の掛け声が掛かり、慌てて木刀を握り、ぎこちない形で構えを取る。

いや、うん、でも、東城さん手加減するつってるし、うん、大丈夫だよな。
うん。あたし信じてるからね、東城さん。

根拠が皆無の理論で不安を無理矢理払拭して、始め、の合図を待つ。

「…始めッ!!」

あべしっ!?

声が掛かると同時に、物凄い圧力で吹っ飛ばされた。
しかも変な声出た。

道場の床に倒れたあたしは、ガンガンする頭を抑えて目を開ける。

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「!?ぎゃぁぁぃぁああっ!!」

ズドンッ!!

否や目に飛び込んできたのは開眼東城さんが刀を振り上げあたしに飛び掛かってくる光景。

空かさず、脇に転がってその追撃を避ける。
あたしがさっきまで寝転んでいた所には立派な穴が空いていた。

「オイ細目ェェェェェッ!!!あたしを殺す気かァァァっ!?」

「若の護衛を邪魔した恨み…!」

ヤダこの人根に持ってるっ!!!

慌てて立ち上がったあたしに東城さんはただならぬオーラを纏いゆらりゆらりと此方に近付いてくる。

何コレ!
ヤダコレ!
罠だったってか!?

どうしよう!これじゃあ剣術の修業所じゃねぇよ!命を賭したサバイバルゲームだよ!

「キェエエエエエッ!!!」

「何かキャラが変だ!」

ガキンッ!!

奇声と共に斬り掛かってきた東城さんの攻撃を反射的に受け止めた物の、その重さったら無い。

本気であたしを撲殺する気の東城さんの攻撃の勢いは凄いし、その剣技だって明らかに超越してるし、大体木刀自体が重い訳だしで骨が軋む音が聞こえてきそうだ。

しかし、本気で(以下略)の東城さんは手加減するとか言ってた癖に俄然殺る気な訳で、次々と攻め手を緩めない。

もう反射神経に頼って防ぐので精一杯だ。


つーか止めろよ北大路ィィィィィ!!!


木刀がぶつかり合う鈍い音の中、あたしは護りに徹しつつ何とかこの状況を打開出来ないか無い知識を搾り出す。

……1番手っ取り早いのはあたしが負ける事だがそれはつまり死を意味するので却下。

だったら何がある!?
この大ボスクラスにレベル0の勇者が勝つにはどうすれば良い!?

右、左、上段、下段、左、上段、右、左、上段、下段…と攻撃を防ぎながら……


……アレ?


待てよ、コレ、攻撃パターン同じじゃね?
この矢鱈リズミカルな感じとかパターン同じなんじゃね?

……よし、ちっと賭けてみっか。

右、左、上段、下段、左、上段の順に木刀を持って行って防げれば上等、防げなかったらグッバイマイライフ。

でも、一か八かの勝負は嫌いじゃない。

と、言う訳で早速次の左攻撃から防いでみよう。

生憎、速い攻撃は、昔から兄者が練習相手だったあたしにとって得意分野に入るし、正直そこまで苦戦しない。

上段攻撃を防いだ後、相手が次の攻撃に転ずる好きに木刀を右側に構えた。

ガキン!

続いて左、

ガンッ!

上段…下段…左…上段…右…左…

テンポの良い攻撃は案外防ぎ易くまた、読みも当たったらしい。

「(ってことは…)」

四方向からの攻撃の後に出る攻撃で右下にがら空きのスペースが出来る。

勝機はそこにある筈。

例の攻撃パターンをリズミカルに防ぎながらタイミングを伺う。

右、左、上段、……

「(今だ…!)」

あたしは下段攻撃を受け止めた後素早く姿勢を低くして、東城さんの右下に出来たスペースに飛び込んだ。

「!?」

左の攻撃に転じていた為か、あたしを阻止するのがワンテンポずれる。

僅かな距離だが、ほんの瞬間であたしは相手を抜いて、反撃せんと木刀を構えたその時、


~♪ちゃんちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっちゃ〜 ちゃんちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっちゃ〜


「!!?」

道場に鳴り響くキュー●ー3分クッキング。
あたしは木刀を投げ出して、ポケットを漁るが、携帯が見当たらない。

辺りを見渡すと、床に空いた穴の傍でチカチカと点滅する物体を発見した。

「うおおおおッ!!」

もう今なら瞬間的に世界新出せる位の勢いで携帯に向かって走り、野球選手顔負けのスライディングで音源を拾う。

「はい、鷹居で『テメェ何処ほっつき歩いてやがんだ!?集会サボる気じゃねぇだろーな?あ゙ぁっ!?』……え…ぎゃあっ!?」

電話は勿論土方さんで、苛立つ声に時計を見れば何と門限(夕方の集会時間)ではないか。

「あ、あの、えっと…」

『1分、』
「…はい?」

『この電話切って1分以内に帰ってこねぇなら、テメェは切腹だ。』

「え?!ちょ!!土方さん待っ…」

ブツッ!!

電話が切れる音。

「…お…御邪魔しましたぁぁぁぁぁぁあぁっ!!!」

暫く放心して、真っ青になったあたしは東城さん達に禄な挨拶もしないで、道場を、柳生家を飛び出した。

「……東城殿、」

「慌ただしかったですね。」

「手加減、されましたか?」

「ええ、少しは。あの娘…化けますよ。」

勿論、唖然とその場に立ち尽くす彼等がその後にした会話等、知る由も無い。



To be continued……

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