chap.13

「全員いるな?明後日の出入りに……」

ガラッ!!

勢い良く襖を開くと、室内の視線はこっちに集まった。
しかし、それ所でないあたしは、柱に引っ掛けた片腕に凭れる様になりながらも、全員の前で書類を手にする土方さんを見遣る。

「はぁ……はぁ……た…っ、只今…、戻り、ました……、」

「何だ、鷹居。早かったじゃねぇか。」


chap.13
薄々自覚はありました


既に肩だけではなく全身を上下する様に呼吸するあたしを、しれっと応答した土方さんはさっさと座るように促した。

畜生、あたしがどんだけ全力で走ってきたかと思ってんだこの人!!
くっそー絶対許さねぇ!!今に見てろよ!!あの、アレ…えっと……何か!何かしてやる!!

なんて思っても言うに至らず、あたしは整わない呼吸のまま隊士が雑然と座った中へよたよたと腰を下ろし、再開された土方さんの話に耳を向ける。

「敵は武楽武党(ぶらっくむとう)、それなりに過激派っつー肩書がある集団だ。3日後にターミナル襲撃を予定している。今回の目的はそれの阻止と党首の確保、討ち入りは明後日の夜に御国屋。100人程度が相手なんで、出動は局長、副長、奇数隊全隊士と監察方2人とする。他は屯所で待機。布陣は追って連絡を入れる。以上だ。該当者は準備を怠るな。」

簡潔な説明の後で隊士達は、押忍!だの、うっす!だのと声を張って返答をした。

いやいや全く、どいつもこいつも相当出入りが好きらしい。

何時もはグズグズグダグダの返事をするくせに、話の後に行われた定例の市中見回り報告も、近藤さんのストーカー武勇伝さえもサクサク、スムーズに進んで何時もの学級会みたいな雰囲気すらなかったんだ。

皆、暴れたいんだね。
いや、人の事は言えないけどさ。

そんな感じで何時になく無事に集会が終わると、各々いそいそと部屋へ戻っていく。

その群に身を任せ、あたしはのろのろ歩きながらぼーっと討ち入り内容を反芻した。

出動は局長、副長及び奇数隊全隊士と監察方2人。他は屯所待機。
該当しないあたしは当然待機組になる。(ちなみに隊別行動時のあたしの配属先は補欠隊)
よっぽどでっかい討ち入りじゃない限り補欠隊に出番はないんだけどさ、曲がりなりにも副長補佐とかやってんだし、もしかしたら出動出来るかなーなんてね、調子に乗り過ぎなのは自覚してる。
まあ、素振りもまともに出来ないんじゃ待機で当然だけどさ。
分かってはいるんだけど、どう言う訳か、ちょっと、本当にちょーっとだけ納得いかない様なモヤモヤが心中に燻っている。

討ち入りに行けないのが原因なんだろうけど、悔しさは別に感じてる訳でこの何か引っ掛かってる感じは一体何なんだろう?
………まあ、感じるものを考えた所で何か分かる訳でも無いし、元々思考力の弱い頭じゃ考え及ばないんだから、グダグダ考えるのはさっさと止めて部屋に戻ろうとあたしは足を早める。

……あーあー、嫌だ嫌だ。
最近こんなんばっかだな。
辛気臭いのは性に合わないってのに、どうしちゃったのさ、あたし。
刀じゃまともに戦えないんだから仕様が無いじゃん。とっとと諦めて、素振りが出来ないなら部屋で筋トレなりイメトレなりしてた方がマシだ。

そんな訳であたしはモヤモヤごと思考を投げ出して、足早に自室へ向かった。考え事は筋トレの内容にチェンジ、チェンジ。
やっぱり刀使うなら腕力がいるから腕立てかな?ああ、あと足腰も大事だからスクワットとそれから…

「ぎゃっ!!」

「うおっ?!」

空に目を泳がせて歩いてたら何か…否、声が聞こえたから人か。誰かにぶつかった。

「何してんだ鷹居、前見て歩け。」

「あ、すんません土方さん。」

見れば、眉間に皺が寄った土方さん。物凄く機嫌が悪そうだ。
反射的に何か悪い事したかどうか思いを巡らせれば、1つの心当たりが顔を出す。

そう言えば、書類関係溜まってたっけ。
午前中までにかなり片付けたけどまだ大分残ってたな。
そこに来て討ち入り準備だもんな、機嫌も悪くなるわ。

取り敢えず自分の非でない事を確認できた上で、偶には上司思いに動いてやろうとあたしは土方さんに声を掛けた。

「書類纏め代行しましょうか?」

「あ?お前出来んのか?」

土方さんはそれはそれは訝しげに此方を見た。全く以て失礼だぞ土方コノヤロー!

「まあ一応。再入隊前に兄者に扱かれましたし、人並みには。」

少し得意げに答えると、へぇ、と興味なさげな短い相槌が入って言葉は続く。

「じゃあ頼むわ。机の右端に積んである奴な。内容纏めて提出しろ。」

「あーい。」

間延びした返事をすれば、呆れたげに土方さんは顔を顰める。

「…つーかお前、書類整理できんならもっと早く言えよ。」

「自分の仕事は増やしたくないもんですから。」

「何それ。お前、それ自分の役職分かって言ってんなら立派な嫌がらせだからな。」

「薄々自覚はありました。」

「テメェ、覚えてろよ。」

「いえ、忘れます。」

あたしが悪態を吐くと、更に顔を顰めた土方さんは態とらしいでっかい溜息を吐く。
突っ込むのも面倒なのか、そのまま何処かへ行ってしまった。

働き詰めなのは何時もの事だが、今日はえらい疲れてるな…いや、ヤニでも切れたか?
何にせよ、ツッコミ職務の怠慢は反対である。

そんな事を思いながら、あたしは副長室へ足を運ぶ。
相変わらず無機質な部屋は珍しく少し散らかっていた。あの土方さんの部屋に紙が散乱してるとは、今回は余程時間がないらしい。

取り敢えず、畳に転がっている布陣の没案と思しき紙屑を1箇所に纏めてから、散乱した白紙を揃えて机上に戻しておく。
無断で捨てたりあんまり沢山いじったりすると逆に怒られそうだから、片付けられんのはこれくらいか。

1人、良い事をした満足感に一息漏らし、何時もの所から検印を出して言われた書類と共に自室に戻る。

こういう時は隣室だと便利なんだよね。

机に着いて、1枚ずつ目を通し、内容を纏めて別の紙に書く。
ただもくもくと単一な作業を進めていると、ふいに室内の静寂に違和感を感じた。

何時もの書類整理は土方さんに文句を垂れながら検印を押してるから、賑やかまで行かないにせよ、それなりに音がある。
今日はそれがない。
そのせいなのか、静まり返った部屋に独りは何とも心細い様な気がする。
それともただ、夕暮れ時の西日がそう思わせているのか。

そう思った刹那、解せない違和感と集会後のモヤモヤが繋がって、ひとつの感情を導く。

「何か…寂しいな…」

自然に紡がれた言葉に驚きはしたが、否定は出来なかった。

どうもこの違和感の正体は寂しさらしい。

何が寂しいのかは解らないし、皆目見当もつかないけど、不思議と疎外感とか孤独感みたいな感覚じゃなかった。

ただ漠然と寂しい。

これが一体何なのか、この時は差程気にならず、詳しい詮索など一切しないで、再び思考を投げ出したあたしは、頼まれた書類整理をまた淡々とこなすのだった。


To be continued……

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