chap.15
討ち入り部隊の出発を居残り組全員で見送り、あたし達は解散した。
あたしは宣言通り素振りと我流ではあるが剣捌きの練習の為、道場に向かう。同じ様な考えの奴がいるかもしれないからそしたら手合わせを願おうと淡い期待を抱いていたが、道場には案の定誰もいなかった。
chap.15
何たる心外
あーあ、何奴も此奴も就寝してんのか畜生が!!それとも何か!?副長不在を良いことに、上映会でもしてんのか!?
後で探りに行って全部没収してやる!クソが!!
期待外れは予想していたが、期待していた事が居たたまれなくて、あたしは打ち込み用の藁束を乱暴に立てて八つ当たりに精を出す。
練習?ああ、これの後だ、後!
まずは八つ当たりだ。そうでなかったら他の奴等が何してるか分かんないのに深夜の道場で独り鍛錬なんて虚しくてやってられない。やってられっか!
しかし、竹刀を打ち込めば快活な音を立てる藁束に、知らない間にあたしは本気で打ち込み練習をしていたのだった。
*****
「ふっ…はっ…ほっ……!せやっ!!」
スパン、と一際快い音と共に20本目の藁束が倒れる。ボロボロのそれに満足がいって、あたしはふっと一息吐いた。
時計を見れば始めてからもう2時間は経過している。
自分で言うのも何だが、この短期間であたし、結構成長したと思う。これなら土方さんに直接御指導願えるんじゃなかろうか。今度、寝込みに竹刀を叩き付けよう。
そんな思惑を巡らせつつ、気持ちの良い疲労感と達成感に大きく伸びをして、倒れた藁束を片付けようとした時、慌ただしい足音が耳に入る。何事かと徐に頭を上げたと同時に引き戸が滑り、血相を変えた山崎さんが慌てた様子で立っていた。
「どうしたんですか、山崎さん。」
「鷹居さん!副長が!!」
「土方さんが?あ、帰ってきたんすか?」
「副長負傷、大江戸病院に搬送…!!」
「………………………は?」
耳を疑ったと同時に、全身から根刮ぎ何かが奪われていく様な錯覚があたしを襲う。
山崎さんに声を掛けられるまで、瞬きさえ忘れていた。
*****
「土方さん!!」
「紅羽…!」
案内された病室に駆け込むと、ベッドサイドにいたのは少し苦しそうな沖田さん。当のベッドには人が1人、真っ白い布を顔に掛けられ横たわっている。
「沖田さん…、土方さん、は…?」
「……たった今…、」
「!!…そ…そんな…土方さん!!」
「………最期まで真選組を気にしてやした…、ホントに、この人ァ馬鹿でさァ…」
「……っ!!土方さん!!土方さん!!土方さんが死んだらあたしの給料は誰が払うんですか…!!」
「紅羽……」
「今月分……まだ……貰ってない……のに………っ」
「紅羽、それは俺が上に掛け合ってやりまさァ…。今は、土方さんを寝かせてやってくだせェ…。」
「沖田さん……そう、ですね……。土方さん…。土方さんの跡はあたしがしっかり継いで、立派な副長になりますから安心して眠ってください…。」
「待ちなせェ。副長は俺でさァ。」
「でも沖田さんには副長の抹殺を企てなければならない死んでしまう呪いが…。」
「そんな事…俺が副長になって自分で腹をかっ捌いちまえば良いだけの話。俺ァこの悪しき呪縛から漸く解放されまさァ…。」
「!!お、沖田さん…!!駄目!!駄目ぇぇぇぇぇっ!!!!」
「………………話は済んだか?」
「あ、起きた。」
「ツッコミが遅いから、一瞬本当に死んだかと思ったじゃないですか。」
地鳴りの様な声にあたしと沖田さんが振り向くと、白い布を握り締めて眉間に皺を寄せるそれはそれは機嫌の悪そうな土方さんが半身を起こして此方を睨んでいた。
「人が寝てんのを良い事に…。ここ病院だぞ?不謹慎にも程があんだろ。」
これ以上からかって騒いでは、土方さんだけじゃなく看護士さんにも怒られそうなんであたし達は小芝居を止めてベッドサイドの丸椅子に素直に腰を下ろす。すると、土方さんは盛大に溜め息を吐いた。
「だって、搬送されたって聞いた時はマジでビビったのに、ちょっと深手を負っただけとか何かムカつたんいで。」
「そーだそーだ。土方さんが悪ィんですぜ、高々一太刀浴びたぐれェで。」
「仕方ねーだろ、一般人の避難中に感づいた奴等が放火してきやがって場がごたついたんだから。」
「放火?」
「タイミングが悪くてねィ。普通の宿泊客を逃がしてる時に奴さんの頭に見つかっちまったんでさァ。そしたら奴ら、宿に仲間がいんのにそいつ等ごと俺達を焼き払おうと火ィ放ったんですぜ。そんで…」
そう言った沖田さんの話に因れば、放火したテロリストは偶々見回り中だった火消しに取り押さえられて逮捕できたらしいが、だからって火が消える訳じゃないんで、炎上中の建物から引き続き一般市民を避難させていたと言う。その最中、隊士と間違えて市民に斬り掛かったテロリストの刃からその人を庇って、ザックリやられたんだとか。
煙のせいで命に関わる様な傷には至らず、何とか返り討ちにしたはいいが、出血が多かったせいで輸血沙汰になり、搬送騒ぎになったのが今回の真相だった。
「わぁ。土方さん、ダっ……カァッコイー。」
「棒読みじゃねぇか。つーか今、ダサいって言おうとしただろ?おい、目ェ逸らすな!不自然に微笑むな!!」
自分の身は自分で云々言っている癖に身を挺して他人を守っちゃう辺り、やっぱり土方さんは真面目で正義感が強いんだな、なんて尊敬してしまったが、素直に告げるのも癪なので茶化してやるとありありと不機嫌さを滲ませた舌打ちを返される。
しかし何だかこの話、少し違和感がある。
「そうだ、そういや確か現場行動って乱闘になんなきゃ、2人1組ッスよね?」
「あ?まあ、そうだが。」
「だったら、土方さんが一般人庇ってる間にもう片方が迎え打てるじゃないッスか。」
訊ねると土方さんは大きく溜め息を吐いて沖田さんを睨み付けた。
「あん時の俺の相方はこいつでな。頭が逃げたって聞いて避難誘導を離脱したんだ。」
「あの状況なら土方さんだけで片付けられると思ったんでねィ。小せェとは言えテロ組織のリーダー追い掛けんのに外見張りの平隊士じゃ勤まるめェ。ま、よもや、火消しに捕まえられるたァ思わなかったがねィ。」
「あんだけ火の手が上がってたんだから、普通は全員逃げてると思うから仕方ねぇとは言え、お前の離脱はかなり素早かったな。」
「だって火ン中、熱ィじゃねェですかィ。」
「テメ……っ!!」
すごくムカつく表情を浮かべた沖田さんに、条件反射か、殴りかかろうと半身を起こした土方さんだったが、まあ、当然ふらつく訳で。
「土方さん、無理に起きたら駄目ですよ。沖田さんも、怪我人相手にそう言う事言っちゃ駄目ですからね、本心でも。」
傾いた土方さんを支えながら咎めると、至極意外そうな顔で肩を竦た沖田さん。
「……何スか?」
「紅羽……、、母ちゃんみてェ。」
「はぁっ!!?」
「じゃ、後はオカーサンに任せて俺ァ退散しやすぜ。」
思いもしない言葉に大したリアクションもとれずにいると、沖田さんはベッドに投げてあった上着を引っかけ、さっさと退室してしまった。
お、お母さんとは何たる心外!
いや、確かに沖田さんより歳は食ってるが、1歳差でしかない…ってそうじゃなくて!
一体どの辺がお母さんだったんだ?!あたしは至極普通に怪我人を庇っただけなのに…!!結婚どころか野郎と付き合った事もねぇし、下に兄弟だっていないあたしの一体どの辺がお母さんだったんだ…!!?
………何が言いたいかって、正直、心が抉られた気がする。
「………。」
「何、辛気臭ェ顔してんだ。」
「あたしのどの辺がお母さんなんですかね……。」
「…………。」
ぼそっと呟くと、聞いてきたくせに土方さんが押し黙った。
顔を上げると、これまた至極意外そうな顔。
「………何スか?」
「鷹居……お前でも、傷付くのか…。」
「あんたら人の事何だと思ってんだぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
To be continued……