chap.16


「ちーっす、アレ持ってきましたー。」

「彼処に置け。で、アレ終わってっから。」

「あーい。じゃ、やっときますねー。」

土方さんの介助生活3日目。
慣れてきたと言うか順応せざるを得なかったと言うか、何とも微妙な気分である。


chap.16
ジェ●ガの縦積み


例の討ち入りの翌日、よくよく検査してみたら土方さんは背中の筋を大分傷めていたらしく、1ヶ月程入院する事になった。
上半身に負担を掛けないようにとの事で、小手先の作業は大丈夫だけど、立ったり座ったり、寝起きする時に、腕を使うのは勿論、上体にあんまり力を入れるなと言われたと言う。地味に結構不便である。
そんな訳で優しい優しい近藤ゴリラさんに「紅羽ちゃん、助けてやってくれよ。」って命令されたあたしが土方さんを介助しつつ、屯所から仕事の書類を運ぶメッセンジャーをしているのだが、面倒事押し付けやがって今に見てろよゴリラが!つーか、書類整理は土方さんしかできねーの?!大丈夫か真選組!?

兎に角、介助生活3日目ともなれば、順応してしまった自分が居て悲しいのが現実だ。「順応性だけは免許皆伝ですよ。」と昔から兄者に皮肉られてただけはある。あ、思い出したら何か腹立ってきた。帰ったら山崎さんにあんパン投げつけてストレス発散しよう。

そんな事を考えながら、屯所から持ってきた『アレ』こと新しい書類とマヨネーズをそれぞれ何時のも場所に仕舞って、終わってると言う『アレ』こと目を通し終わった書類にあたしは検印押しを始めた。

ちなみに、土方さんの介助を任された為、市中見回りと通常業務を免除されている。
つってもあたしの場合は土方さんのパシりだから、土方さんがいなければやることがない訳で、検印押しだったら病室でも出来る訳で、立ったり座ったりの介助をせねばならない訳で、ぶっちゃけ日に何度も病院・屯所の往復とか面倒な訳で、日がな一日病室勤務をしているのだ。
なにこれ、マジお母さんみたいじゃん。

とかなんとか自己完結したはいいが、病室に備え付けの小さな机で只ただ検印を押しながら、あたしは何とも複雑な思いに駆られるのだった。

「鷹居、」

「はい?」

不意に声を掛けられたので目線を遣れば、土方さんは左手の人差し指でベッドに備え付けのテーブルをカツカツ叩いている。

これはアレだ。何時ものアレだ。

「駄目ッスよ。看護士さんに怒られます。」

「……乗らねぇんだよ。」

「えー…、まあ分かりますけども、結構疲れるんスよー?」

「お前、何の為に其処にいんだ。」

「…………土方さんが早く退院できるように、土方さんの手足になる為、だと近藤さんが言ってやがりました。」

「分かってんならさっさとこっち来い。」

「…………へーい。」

それを言われたらお仕舞いだろーが!とか言ってやりたかったが、それを言われた手前、従うしかないのであたしは言われた通りにベッドに近付き、外に足を投げ出した状態の土方さんと肩を組む形で腰に腕を回し、上体を固定したら、せーの、で立ち上がらせる。
立ってしまえば1人で勝手に歩けるので、御所望の物、まあ煙草な訳だが、それを1本とライターを手渡してやったが、酷く眉間に皺を寄せられた。

「おい、」

「薬物治療もしてるから1日1本だって薬剤師さんが。」

「…………。」

「あたしは土方さんが早く退院できるように居るんスから、仕方ないッスよね〜。」

「ちっ、」

仕返しを込めて満面の笑みを浮かべれば、至極機嫌悪そうに舌を打っち、それらを引ったくって病室を出た土方さん。行き先は喫煙できる唯一の屋上だろう。

その背を見送ってから、静かになったベッドを横目に、あたしは検印押しを再開したのだが、枚数がある訳でもなくすぐに手持ち無沙汰になり、やる事を求め、出てったばっかの土方さんを追った。


*****


「土方さー………ぎゃあああぁぁぁぁぁ何してんだアンタァァァァァァァァァ!!!?

屋上に顔を出すと、どっから出したのか竹刀片手に土方さんが素振りの型を取っているではないか。

「素振りだが、」

「見りゃ分かるわ!!何で木刀!?何で素振り!?上体安静だって言われてんじゃないッスか!!」

慌てて竹刀を取り上げれば、これまた不服そうな土方さん。
眉間に皺を刻んで頭を斜に構えた。

「やっとかねぇと勘が鈍る。」

「知ってますが、せめて1週間はじっとしてないと傷開きますよ。やるなら握りだけにしとくとか…」

「素振りなんだから、振らなきゃ意味ねぇだろ。」

「そうだけどそうでなくて…」

不機嫌をありありと醸す土方さんにあたしは頭を抱える。
まあ、確かに、1ヶ月はぶっちゃけ長いと思うけども、流石にまだ3日しか経ってないのに素振りとか身体に悪いと思うんだ。
毎日病院に来るとか面倒臭……いやいや、真選組の為にも1日も早く退院すべきだろうし、かといって煙草も刀も取り上げたら、土方さんには何も残らな…いやいや、土方さんだって退屈だろうしなぁ…。

「……取り敢えず、今無理したら治りが遅くなりますから。素振りも煙草も治ってから好きなだけやりゃあ良いじゃないッスか。」

「つっても刀は集中力が関係してくんだろーが。はい、そうですかって止める訳にはいかねぇんだよ。」

「だったらジェ●ガが良いです、ジェ●ガ。ジェ●ガの縦積みとか1人ジェ●ガって割と集中力鍛えられるんスよ。病院では静かにしなきゃいけないから崩すのまずいって縛りで緊張感もUP!」

「ふざけてんのかテメェ!此方人等遊びてぇ訳じゃねぇんだぞ!!」

「えー、結構難しいんすよー。」

明日持ってきますね、と言えば、いらねぇ…と突っぱねられたが、取り敢えず今はこの怪我人に素振りをさせる事を阻止できたから良しとしよう。
既に煙草は吸い終わってるらしいので、輪を掛けた仏頂面を病室に連れて帰る事にした。
重い足取りを促しながら、ふと、取り上げた竹刀を返してなかった事に気付く。そこでついつい悪戯を思い付いてしまった。

背中を向けて屋上を去ろうとする丸腰の土方さんに一発くらわせてやろう。
さっきまで怪我人を労っていた人間とは思えない発想に、我ながら酷い奴だとは思うけども、一度出て来たものを仕舞い込める程、あたしは人間が出来ていない。もういい歳だろ、ってのは言わない方向で。

竹刀を握り直し、忍び足でリーチギリギリまで近付いてから息を殺して振り上げる。

「!!」

しかし振り下ろす直前、怪我人とは思えない程素早く振り向いた土方さんはあたしの攻撃を躱して背後に回られた。

「………鷹居、」

「…………えー…っと……」

背中を完全に取られて、振り向いたら殺されそうな雰囲気にあたしは必死に言い訳を探す。
だって「嫌だなぁ、悪戯ですよ。吃驚しました?」とかしゃあしゃあと答えたら命とか給料とか月給とか収入とか危ないじゃないか!いや、でも正直に……、

「……背中の傷が開くとか言ってたのは何処の何奴だ?」

「!!」

軽く振り返って顔色を伺ったがとてもそんな雰囲気じゃなかった。何かなまはげみたいなのがいた。無いわー、無理だわー。
光の速さで振り向いた頭を元に戻して、どう切り抜けようか思考回路をフル回転させる。

「えっと、あの……ほ、ほら!土方さんの勘、全然鈍ってないじゃないッスか!!暫く休んでたって大丈夫ッスよ!」

旧型の携帯なんかより容量がない思考回路は珍しくショート寸前で切り抜けられそうな答えを弾き出した。
なまはげみたいな土方さんに向き直って、出来るだけ不自然にならないように笑顔を浮かべそう言えば、なまはげの顔は益々険しくなっているではないか。

「………。」

「………。」

「……やる、」

「………は、はい?」

「退院したら、手合わせしてやる。」

「…………へ?」

「随分自信あるみてぇだからな。但し、しょうもなかったら……覚悟しとけ。」

地鳴りの様な低音でそう言って、不気味に笑った土方さんの背中をあたしは凍り付けにされた様に固まって見送るしか出来なかった。

「………なん、だと…?」

鷹居紅羽、19歳。
死亡フラグと言うものを知った昼下がり。



To be continued……

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