chap.27

内部反乱を企てた国防省の連中を片付けて、鷹居の言っていた非常口の先へ行けば、手錠足枷で震える首謀者と20人前後の浪人が爆睡しているだけだった。


chap.27
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「……山崎、鷹居は何処行った。」

浪人の回収に走る山崎を捕まえて訊ねると、そう言えば、と辺りを見回す。

「居ませんね。」

「居ませんね、じゃねーよ。んなもん見りゃ分かるっての。何処行ったか聞いてんだよ。」

あほな事を答えた山崎の頭を叩いて、探してこいと背中を蹴飛ばした。全く、ナメてんのか、あいつ。
とは言え問題や山崎のあほさ加減じゃねぇ。鷹居だ。決着が付いたからとさっさと離脱する様な奴じゃねぇし、第一首謀者を捕らえてみすみす置き去りする様な事もしねぇ筈。鷹居の場合、誉めろ讃えろ昇給しろとせっついて来そうだ。
だが実際何も残さず居なくなっている。明らかに変だ。妙な感覚に胸騒ぎを感じる。

「副長ー、」

「あ?」

現場の惨状を見渡していれば、不意に山崎の声に呼ばれ目を遣ると、奴は携帯片手に首謀者の居る辺りで手招いている。上司を呼びつけるとかどういう了見だ、しばくぞ、山崎。
ともあれ、取り敢えず何か分かったのだと判断し、その方へと歩を進める。

「どうした。」

「あ、はい。何度か鷹居さんの携帯に掛けてみたんですが、繋がらなくて、」

「んな事ぁ分かってんだよ。そんなもん始めに確認するに決まってんだろ。馬鹿なのか。お前馬鹿なのか。」

「ちょ、痛っ、まっ、俺のラケット殴るのに使わないでくださっ、最後まで聞い……痛い!!」

「……あ?」

わざわざ呼びつけて携帯繋がんねぇとか分かり切ったこと言い出した山崎を、奴愛用のミントンラケットで殴りつけたが、話には続きがあったらしい。ひとまず手を止めてやる。

「何だ続きって。」

「てて……、あ、えっとですね、現場に何も残ってない以上、一部始終を見ていただろうこの人に聞こうと思ったんですが、」

そう言って山崎は拘束された首謀者の白鷺を指した。
……成る程、何があったか知らねぇが、これは確かに喋りそうにない。テロの首謀者とは言え所詮ただの遊女、惨劇など間近で見た事はないだろう、完全に怯え慄いている。

「安心して話せる誰かが居れば良いんでしょうけど、心の拠り所と言うか、」

「……心の拠り所、か。」

そう言えばこの女、烏羽玉に心酔していたとか何とかって鷹居が言ってたな…となると、

「あれ?副長、何してるんですか?」

「心の拠り所とやらを呼びゃあ良いんだろ。」

携帯を出して心当たりに電話を掛ける。隣の山崎は解せない顔で首を傾げていた。



「来たか。」

電話を切って暫く後。
長身の「美女」と言うべき容姿を携えた人物が現れた。
しばし騒然とする隊士共を目で諫め、頭を下げた人物に一言労うと、奴は整った眉を八の字に寄せる。

「……私も暇じゃないんですが、大至急烏羽玉で来いとは一体何事ですか、土方さん。」

長身の「美女」が発した声は低く、再び隊士共が騒ぎ出す。うるせぇな、一々騒いでんじゃねぇよ。
俺が呼びつけたのは烏羽玉、つまり黒刃。この長身で「美女」になれるんだから、本当に此奴は訳が分からない。
しかし、今はそんな事などどうでもいい。俺は黒刃に事の次第を簡単に伝えた。
鷹居が居ない、と告げた時、黒刃は一瞬より短く表情を強ばらせたのは見間違いじゃねぇだろう。

「……分かりました、聞いてみましょう。」

一部始終を聞き終えて、ゆっくりと頷いた黒刃は一息大きな呼吸をして、纏う空気を変えた。柔らかさと芯の強さを滲ませる慈顔と指先にまで張り巡らされた色艶。
本当にこいつ一体何者なんだ。

ゆるり、ゆるりと近付く黒刃を白鷺は瞬く間に見付けるとぼろぼろと双眸から涙を零す。

「烏羽玉さま…っ!!烏羽玉さまぁ!!!」

一切口を閉ざして震えていた白鷺が縋るように黒刃へ手錠の付いた手を伸ばした。ゆっくりと近付きその手を包んだ黒刃は柔らかい笑みを浮かべて首を傾げる。声ではなく、表情だけで何があったの、と問い掛ける様に。

「烏羽玉さま…っ、か、か、神威様が……神威様が……っ!!」

「!!?……神……威…?!!」

神威、その名を聞いた途端に黒刃の演技が弾け飛んだ。喋れない烏羽玉がその名を復唱している。その時点で常に卒のない黒刃の様子は変だった。混乱しているらしい白鷺は烏羽玉が声を出したこと等気に留めず、話を続ける。

「はい…!!神威様が小烏を“惨禍”がどうのと仰有って、それで」

攫っていかれました、との言葉の後に、黒刃の長身がぐらりと傾いた。近くにいた隊士が慌ててそれを支えたが、今までに見た事のない程の狼狽と動揺が遠目にも判る。
あの黒刃が狼狽えている。
上司が銃を乱射しようが、妹が誘拐されようが飄々と喰えない顔をしていたあの鷹居黒刃が倒れる程に動揺している。

流石に異様さを感じて近付けばその面は蒼白く、脂汗が滲んでいた。

「………約束が違う……、」

譫言の様に呟いて、意識を失った黒刃はの表情は悔しさやら怒りやら悲しさやらが混ざり合って何とも分からない険しいもので、一筋縄とはいかない事だと予想に易い。

「…訳ありか、」

それも相当の。
だが話を聞かない事には始まらねぇ。浪人共の回収も済んだので、気絶した黒刃も引き連れて俺達屯所へ戻った。

*****

土方さんに呼び出され、吉原入口の橋の下で聞いた事実は衝撃的な物で、不覚にも耐えきれず気を失ってしまった私が意識を取り戻したのは真選組の屯所でした。
部屋の空気や匂いからあの娘の部屋だと判って身が慄く。
あの娘の部屋、あの娘の布団、あの娘の枕を使っているのは私。つまりあの娘は居ない。

居ないのだ、此処に。

後悔が胸を穿つ。事実に腸が抉り取られる。辛い、痛い、重い、また息苦しくなる。私は一体今まで何の為に…。
いっそ自暴自棄になってしまえば楽なのだろうが、そう易々と諦められるのならばとっくの昔に手放しているのだ。

「……奪い、返す。」

噛んだ奥歯がぎりっと鳴く。
兎に角話を、真選組に話をしなければ。きっと彼等なら力になってくれる筈。あの娘が信じた人達なのだから。



「御迷惑を御掛けしました。」

近藤さん、土方さん、沖田君を集めて先ずは謝罪に頭を下げる。近藤さんに気にするな、と気を遣われて姿勢を正すと、土方さんが話を切り出した。

「で、神威だの惨禍だの約束だの、分からねぇ事ばかりだが、鷹居は一体何処に行った。」

「……憶測でしかありませんが、恐らく、宇宙海賊春雨の関係者の下に。」

「春雨だと!?」

「厄介だな…。」

「でもよォ、黒刃さん。何だって天下の春雨様なんかが紅羽みてぇな何でもねェ女を浚う必要があるんでィ。」

尤もな疑問を寄越したのは沖田君で、勿論その答えはあるのだが、自分可愛さに躊躇いが拭えずについ黙ってしまう。
……駄目だ、このままでは。何があっても、私はどうなってもあの娘だけは、奪い返さなくては。

「順を追って、御話しましょう。……少し、昔話をさせてください。」

意を決して、私は話を始めた。


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鷹居の家は古くから剣術道場を生業として、数多くの武士を育てた家でして、私達兄妹の母がその息女でした。正義感の塊みたいな女性で、絵に描いたように曲がった事が大嫌い。厳しくも優しい女性でした。
その母が17の頃、遠方に使いへ出た帰り、夜道で行き倒れの男を見つけたそうです。
月明かりに透ける様な白い肌に色素の薄い頭髪、冬でもないのに厚着で外套を纏い、雨も降っていないのに傘を持った男でした。不思議に思ったものの正義感の強い母は迷いもせず男を抱えて家に帰ったそうです。

その男こそが私達の父。
そして夜兎族の名門に生まれながら落ち零れ、最弱とされて地球へ逃げ延びた劣悪種の夜兎でした。

母の献身的な看病で行き倒れていた父は回復し、2人は恋をして結ばれたそうです。夜兎の中では劣悪種であった父も地球ではその負い目を感じず、鷹居の道場を継ぎ、普通の地球人と同じ様に生きていました。
何時しか父は武器であった傘を床の間に飾って使わなくなり、幼い私に「いざと言う時は」とその使い方や仕組みを教え込みむ程度でした。
だから、出掛ける時に父が日傘を持ち歩く以外、何処にでもいる普通の家族と変わりなどありませんでした。

紅羽が生まれたのは私が九つの齢の時。丁度その頃は攘夷戦争も中期で熾烈を極めていたと聞いています。でもそれは何の変哲もない家族にとっては遠い話で、たまの空襲に備えるくらいで別段生活に変わりなんてありませんでした。

抜ける様な青空に太陽が照りつけた、あの日までは。

我が家は突然、後に春雨と呼ばれる天人軍に襲われました。何の前触れもなく。
後に聞けば、戦力として有能な夜兎がいるため、利用する為だったそうです。
抵抗する母も長らく地球人として生きてきた父も為す術がなく私達の目の前で容易く殺されました。

回収するべき貴重な夜兎を殺してしまい、天人達は落胆の後に私達兄妹に手を掛けようとその刃を向けましたが、とある天人が一言言ったのです。

「研究中の遺伝子濃縮の検体にしよう。上手くいけば、この餓鬼共は地球人の姿をした夜兎に、良い駒になる。」

と。

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「いでんしのうしゅく?」

首を傾げた近藤さんに頷く。

「必要な遺伝子を増やして体質を変える方法です。私達兄妹は半分は夜兎の遺伝子を持っていた訳ですから、採取した血液から該当する遺伝子を選別、増幅して、経口や静脈注射や筋肉注射などあらゆる手段を用いて再び体内に戻す方法を施されました。繰り返す事で目的の遺伝子を増やしたり、必要な遺伝子を大量に投与して不要な遺伝子を減らしたりも出来るそうで、この技術は最近じゃ再生医療なんかに使われてますね。」

「成る程な、話題のアレはそう言う仕組みだったか。」

「え、トシ今の分かったの?」

「するってェとアレですかねィ。あんたら兄妹はその遺伝子濃縮とやらで限りなく夜兎に近付けられた地球人って事になりやすぜ。」

「え、総悟も?」

「ええ。ですが、地球人の遺伝子はどうやら強く、普通は淘汰されてしまったり、体質によっては強い拒絶反応が起こって夜兎遺伝子の増幅は困難なんだそうです。」


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検体の歳は幼ければ幼い程、夜兎遺伝子が淘汰されず新鮮で、身体は小さければ小さい程、増幅の手間が省けて効率が良いそうです。

私達兄妹が生き残る為にはその検体になる他術がなく、そのまま天人軍へと連れて行かれました。
私は九歳、紅羽は零歳でしたから、何れも実験には適応していたのですが、私の夜兎遺伝子は既に淘汰が進んでいて、20%くらいしかなかったそうです。そこから増幅を重ねて60%を超えたのですが、その時点で強い拒絶反応に襲われました。
内臓全てが焼ける様に痛み、呼吸も食事もままならないし、身体中の神経が痙攣して動く事も出来ない。それなのに死の実感が湧かない所か生の実感ばかりが強くなり、心と身体がちぐはぐで七日七晩は苦しみました。

後から分かったのですが、夜兎遺伝子と言うのは性染色体においてX染色体に依存するようで、父から男性因子であるY染色体をもらった私の性染色体には夜兎遺伝子が殆ど含まれていなかったので、父親が夜兎の場合、男児は拒絶反応が出る可能性が高いそうです。

まあ、この遺伝の仕組みの詳細は生物の先生に「血友病と凝固因子の遺伝関係」について聞いていただければ何となく仕組みが解る筈です。

兎も角、そうして私の実験は断念されたのですが、それでも60%は夜兎だし、地球人の餓鬼は戦時中の地球でならいくらでもって利用価値があるって事で天人軍に従軍させられて、攘夷軍と戦ったり軍資金稼ぎに使われたり、要は奴隷みたいなやつをしていました。

紅羽の実験は一見恙無くも見えましたが、零歳児は逆に若すぎて遺伝子量の増加が一進一退。日によっては私の拒絶反応を上回る副反応に苦しんで、一日中血涙を流すような日もありました。

なまじ私自身があの拒絶反応を体験していたので、見ているのも辛いし、まだ意志もはっきりしない癖に私に「にぃ、にぃ」と助けを求める様にしがみつく姿が痛々しくて、私の実験を再開して紅羽を解放するよう懇願しました。ですが、

「半分は濃縮に成功してるお前は戦力になるし利用価値が高い。実験を進めて死なすのは効率が悪い。」

と、突っぱねられてしまいました。
諦めの悪い糞餓鬼だった私がそれでも食い下がると天人は、最強クラスの純潔の夜兎を雇える金を用意したらその要求を呑んでやる、と言ったんです。


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「最強クラスの純潔の夜兎を雇う金だと?!」

「幾らすると思ってんでィ。」

「……え?幾らすんの?」

「安く見積もって2億ですかね。」

「に、におくぅ!!?」

「そんなの九つの餓鬼には到底無理な話しだろ。」

「だからだろィ?」

「ええ、そうでしょう。それでもお金があればあの娘が助かると分かれば、私は何でもしました。思えばあの頃からでしょうか、私ががめつくなったのは。」

「……自覚はあるんだな。」

「意外ですぜ。」


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戦場で地球人を斬れば報酬も出ました。戦場に出ない日は一般の子供に混じって靴磨きや新聞配達、公に出来ない様な物の運び屋も少年趣味の大人の相手も、まあ色々やりましたよ。
そうやってちまちまお金を貯めても3年経って漸く200万。
これでは何時まで経っても紅羽は助けられない、とどんなに辛くても早急に金が手に入る仕事を探している頃、紅羽の夜兎遺伝子量が全体の90%を超えました。

その頃には濃縮実験の副反応も落ち着いていたので、平行して私も参加させられていた戦闘訓練もしていましたね。その能力の高さから研究所では、天災並みの惨い力を持つって事で“惨禍”なんて呼ばれて、紅羽は洗脳に近い教育を施されていました。
それでも、普段は本当に普通の女の子で、「あにじゃ、あにじゃ」と私の後ろを付いてきて、良く笑う子だったんです。

そんな笑顔を毎日見ていれば、紅羽の為なら、紅羽の笑顔のためならもう何も惜しくはない、怖くはないと、少年愛者の元への奉公を決めた折りでした。

遺伝子量93%を超えた途端に紅羽が暴走したんです。

爆発音の様な大きな音に驚いて急いで研究所へ走れば、もう施設は跡形もなくなっていて、火災警報が鳴り響く中、所長を目の前に歯を剥き出した紅羽が獣の様に唸り声を上げていました。所長はそんな紅羽に舌を打って、忌々しそうに言ったのです。

「しくじったか。これじゃ兵器にもならん。化け物だ。すぐに殺せ。」

と。
所長はそのまま姿を眩ましましたが、紅羽は何十人もの研究員に取り囲まれてしまいました。私の可愛い妹が、たった1人の家族が殺されてしまう。そう思ったが早いか私は短刀を握って斬り掛かっていました。
しかし、私の救出など意味もなさず、紅羽は自身に襲い掛かってきた研究員を1人残らず返り討ちにしたのです。

残されたのは私だけ。戦闘本能だけで分別もつかなくなる程暴走していた紅羽は私を敵と見なして襲い掛かってきました。咄嗟に刃を交えましたが、三つの女児が振るう太刀とは思えぬ程重く鋭く正確で、圧倒的に不利なのは私でした。
必死に名前を呼びましたが、暖簾に腕押し、糠に釘。攻撃は激しくなるばかりで、流石に私もキレまして。

戦闘訓練中にたまに自我をなくしていた紅羽に教官が怒鳴りつけて、引き戻していた言葉がありまして、襲い掛かってきた紅羽の顔面目掛けて右ストレートをで吹き飛ばして怒鳴りつけました。

「言う事を聞け紅羽!!三回回ってわん!!」


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「………あ?」

「いや、実際は“惨禍、忌まわしき手腕を納めろ”だったかもと今になって思うんですが、私も幼かったので、聞き間違えて覚えてたんでしょうね。」

「……不憫ですねィ、紅羽も。」

「まあ、その甲斐あって紅羽は正気を取り戻し、見事に三回回ってわんがトラウマと言うか都合良く抑止できる言葉になった訳ですから。」

「……どーだか。」

「あ、近藤さん寝てらァ。大事な話ですぜ、起きてくだせェ。」


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その後は2人で宛もなく戦場を彷徨いながら、弱った天人を追い剥ぎしつつその日暮らしをしていました。放浪生活を1年くらいの後、ある戦場で攘夷軍の西郷さんに保護していただき、その傘下に入った訳です。
理由を話して、紅羽は戦場には出さないでもらいましたが、私はそれなりに頑張りましたよ。西郷さんが前線を退いた後に銀時らと肩を並べるくらいでしたから。

まあ、攘夷戦争はこの際重要じゃないので飛ばしますが、何やかんやで私達は敗戦しまして生家に戻り兄妹2人でまた道場を始めました。でもまあ、廃刀令の御時世、経営は傾きっぱなしで、私が紅羽の為に貯めた200万はあっと言う間に無くなってしまいまして。
貯金が10万を切った時、あ、これもう駄目だ、5桁とか耐えられないと思って先祖代々の土地を売り払って今の家をローンで建て、私は就活を始めたんです。
やっぱり就くなら収入が高くて安定したのが良いなと思って職を探していたら、丁度新生幕府が役員を募集してまして、税金泥棒万歳!って事で就職試験を受けたんですよ。自分が攘夷軍に居たとか都合の悪い事は忘れていたんですが、一次試験を通って二次の面接官に居たんですよ、あの所長が。
彼はあの後の私達の軌跡を知っていたようで、もう落ちたと思ったんですが、何故か二次試験も通りまして、しかも私だけ三次試験があるとかで。

煉獄監での殺戮戦です。元攘夷志士を云百人1人で殺し続けたアレです。
所長も所長で私の噂を聞いていたらしく、報復を恐れていたみたいで、幕臣にして目の届く所に置いておきたかったみたいですがね。
私だって、履歴書を出して住所もバレた以上、生き残った紅羽を何時また検体にされるか分かったもんじゃないので、三次試験を受けて幕臣に身を連ねる変わりに契約を取り付けたんです。

「私が幕府に連なれば、春雨は紅羽には決して手を出さないと、契約してください。」

と。


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「まあ、私が幕府を裏切れないのは紅羽の為であるわけですが、今回の件はその契約違反になるわけですよ。」

「……神威って奴か。」

「流石土方さん、察しが良くて助かります。」

「黒刃殿、つまりその、神威って奴が春雨って事なのか?」

「おや近藤さん、起きてらしたんですか。ええ、神威は春雨の第七師団の団長、嘗て吉原を牛耳っていた鳳仙に変わり吉原を管理する立場だそうです。」

「へぇ。それで、約束が違う、っと事ですかィ。」

「はい。……それで、厚かましい御願いなのですが、例の所長には私が直談判してきますので、どうか紅羽を、」

着いた机から少し下がって、三つ指を付く。しかし頭を下げる前に近藤さんがさっきまで寝ていたとは思えないほど凛々しく、力強く頷かれた。

「勿論だ、黒刃殿。俺達は家族も同然、紅羽ちゃんも大事な仲間だ。必ず助け出す!任せてくれ。」

「!!……あ、有り難う御座います…!!」

結局頭は下げるものの、その頼もしさに目頭がじん、と熱くなる。本当になんてあの娘は人に恵まれているんだろう、近藤さん、今まで邪険にしてすみません。

「でもよォ、近藤さん。取り戻しに行くったって、奴さん達ァどこに居るんでィ?」

再び沖田君が投げ掛けた尤もな質問に私は頭を上げた。

「御安心を。こんなこともあろうかと、紅羽には発信機が付いております、ねぇ土方さん。」

「まだ外してやってねぇのか…。」

「念には念、ですよ。」

同情するぜ、と苦い顔をした土方さんはさて置いて、早速発信機の電源を入れる。

「そういや聞きそびれやしたが、黒刃さんが前に言ってた隔世遺伝的な話は何だったんですかィ。」

「ああ、あれは只単に紅羽に自分が夜兎の直系じゃないって覚えさせるためですよ。何かの拍子でバレたり、あの娘が調子に乗ったりすると困まるのでね。さてさて、場所は……おや?此処は……」

川の上か空の上か。
しかし、位置検索を終えた発信機が示すその場所は予想だにしない所だった。



To be continued...

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