chap.1
「まぁ、この程度教えればいいでしょう。」
「…な、長かった…」
「必ず遂行するように。か な ら ず。」
「……出来るか、」
「何ですか、紅羽?」
「ナンデモナイデス。」
chap.1
下!下ァァァァァァァァァ!!!
アホみたいに長い14日を過ぎ、晴れて真選組再入隊の日を迎えたあたし。
今日は、軽く死にそうですが、何とか生きてます、鷹居紅羽です。
この2週間、何をして居たかは言わずもがな、花嫁修行ならぬ花も恥じらう乙女修行を強要されていたのだ。
着付け、歩き方、髪の結い方、果ては笑い方やら物の食べ方に至るまで。更には性格まで変えろとか言われた。
が、流石にそれは無理な話な訳で、拒否したものの諦めてなかったっぽいので非常に恐ろしい。
そんな感じで2週間来た訳だが、何か……自信をなくした。
つーか、一応女のつもりで生きてきたあたしより兄者のが女の作法に詳しいのかは甚だ疑問だけど。
そんな訳で、荷物の入ったキャリーを引き摺り、やっと着れるようになった小袖の着物で、只今屯所に向かってる最中。
既に何かもう窮屈で何時もの着流しか袴に着替えたい事山の如しだ。
ギブアップだ。
誰か助けてくれ。
「うぐぐ……皆、こんな窮屈なのよく着てられるな……!」
因みに言うと、晒しも取り上げられ、先日妙ちゃんと買いに行かされた下着も着用中な訳で、晒しと違って何か慣れない窮屈感に苛々する。
「……小遣いで晒し買お…。」
何かもう色々苛々しつつ、ブツブツ文句言いながらも何とか屯所に辿り着き、例の立派な門に拳を叩き付けた。
「すんませーん!こんにちわー!鷹居紅羽、只今到着致しましたー!」
「はぁーい、」
無駄にでっかい声で叫ぶと、貧弱な軟弱な、兎に角ヘタレた声がして、控え目に門に隙間を作る。
「あ、山崎さん。御久っす。」
隙間から見えたのは垂れ目の三白眼とミントンラケットで、声を掛ければ僅かに首を傾げた。
「……え?鷹居さん?」
「鷹居さんです。」
「確かに今日、入隊って連絡来てたけど……え?鷹居さん?」
「鷹居さんですってば。」
「え?ちょ、待って。鷹居さんって2週間ちょっと前まで、うちで男装して副長補佐してた鷹居さん?」
「他にどんな鷹居さんが居んだよ。鷹居さんだったら鷹居さんだっつーの。」
「え?だって鷹居さんってあの鷹居さんでしょ?私服に女物なんて持ってないって言ってたけど、ホントに鷹居さん?」
「ホントに鷹居さんだっつーの。何?山崎さん、疑ってんスか?」
「や、そーゆーんじゃなくて、何か、鷹居さんって、もっと……こう………何て言うか、あの、えーっと……、今の格好だと、その…」
「うるせぇぇぇぇぇ!!余計な御世話だコノヤロォォォ!!似合わねーのは承知の上だってんだよ!此方人等こんなカッコで何時までも外で恥晒してたくねぇんだっつーの!さっさと入れろ、このジミ崎っ!!」
「どんな悪口!?今時小学生でもそんな安易な渾名付けないよ?!!」
「喧しいっ!鷹居ったら鷹居なんだよ!鷹居紅羽!いい加減にしねーとその腰に下げてるラケットへし折るぞっ!!?」
「やめて!それだけは!って、この理不尽さは鷹居さんだっ!完全に鷹居さんだ!!」
全く無駄な問答にあたしがキレると、山崎さんは合点がいったらしく、半泣きになりながら門を開けた。
んだよ、テメーがスカウトしたくせに衣装が変わったら分かんねぇとかどーよ?それで密偵とか勤まってんの?甚だ不安だよ真選組!
つーか理不尽さとかで判断するって失礼だろオイ!!!
それはさておき、開いた門をくぐって閉めれば、山崎さんはすまなそうなのか頼りない笑みを浮かべた。
「ご、ごめんね。あの、前の鷹居さんからじゃ、ちょっと想像できなくて…」
「何スか?嫌味ッスか?山崎さん、そんなにラケットへし折られたいんスか?」
「ち、違うよ!あの、綺麗になったなって…」
「2週間でンなに変わりませんて。山崎さん、土方さんにこき使われて疲れてるんじゃないッスか?」
「副長にこき使われてるのはそうだけど、やっぱり何か変わったよ。雰囲気かな?」
「さぁ?ま、それより。取り敢えずは近藤さんに会いに行かなきゃですかね。」
何とか言い訳したいらしい山崎さんをあしらえば、そうだね、と頷く。
「場所、知ってると思うけど、鷹居さん、まだ一応部外者だから、案内するよ。」
「へーい。」
ぱたぱたとあたしの前に立った山崎さんの後を追う様にあたしは勝手知ったる屯所内に足を踏み入れた。
2週間じゃ然程変わんないけど、妙に懐かしい。
長い廊下の両サイドに襖。
質素な日本家屋。
まぁ、あたしン家だって日本家屋だけどさ。
だだっ広いけど、どっか殺伐として生活感の無さ滲み出てる。
如何にも男所帯って感じだ。
「着いたよ、鷹居さん。」
来る道の所々の襖が若干開いてて、若干感じた視線に違和感を覚えてれば、山崎さんが足を止める。
「あ、はい。」
危うく、その背にぶつかりそうになったが、足を踏ん張った。
危ない危ない。
山崎さんとかあたしがぶつかったりしたら倒れる事請け合いだ。
そんな山崎さんが局長室の襖にノックせんと手を翳した直後、
「死ねェェェェェ!!!土方ァァァァァァァァァァッ!!!」
ドゴォォォォン!!!
室内から声と爆音が聞こえ、局長室の襖が吹っ飛ぶ。
となれば、その真ん前に突っ立ってた山崎さんは、
「う、うわぁぁァアァァァァァァァァァァァ!!?」
ズシャア!!
当然倒れた襖の下敷きになった。襖くらいなら別に重くはないだろうから、山崎さんが起き上がろうとする。
が、
「っち、仕損じた…」
「オイ!仕損じたって何だコラァ!!」
「運が良いですねィ。」
「てめっ……!!逃げんな総悟!」
「嫌でィ。」
グシャア!
「ギャァアァァァァァァァァァァァ!!!」
タイミング悪く(良く?)、中から出てきた沖田さんとおぼしき人に顔面を踏まれたらしく、悲鳴を上げた。
「待ちやがれっ!」
続いて出て行こうとするは、言わずもがな。
が、流石のあたしも襖の下敷きになった上に大人2人に踏みつけられそうな山崎さんが可哀想になって、今にもその上に足を乗せんとする人物を反射的に止める。
「土方さんっ!待ってっ!!」
「!?」
あたしの声に気付いた土方さんだったが時、既に遅く、此方に顔を向けるも、飛び出そうとした身体は止まらない。
グシャアァァ!!
更にあたしが呼び止めた為に土方さんは山崎さんの上で停止した。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァァァァァァ!!?」
「………鷹居、か?!」
「そーッスけど、土方さん!それより、下っ!!下ァァァァァァァァァ!!!」
「……下?」
「山崎さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
To be continued……