chap.4

「遅いね〜、紅羽ちゃん。」

「近藤さん、女の支度なんざこんなもんですぜ。そんな事言うからあんたはモテねぇんだ。」


chap.4
前門の魔王、後門の鬼


「そ、そんなことないぞ!!俺だって言い寄って来る娘は一杯いるもの!お妙さん一筋だから断ってるだけだもの!」

吐き捨てる様な沖田の言葉に近藤は見栄を張った。

「そうですかィ?俺ァんなトコ見た事ねぇんですがねィ。」

「本当にモテるってのは影でそうなるもんさ。お前らみたいに表立ってないで。」

「へぇー……。所で近藤さん。土方さんが居やせんが?」

一人、腕組み頷く近藤に沖田は辺りを見回す。

「ん?ああ、紅羽ちゃんの隊服の説明に行かせたんだけど、そう言えば遅いな。」

「……そいつァマジですかィ?」

「ああ。」


若干、表情を強張らせた沖田に近藤は首を傾げながら頷く。
先刻、余りにも遅い紅羽に痺れを切らした隊士達にせがまれ、近藤は土方を迎えに遣らせた。

制服が出来てないと知らせる事と土方自身の制服を紅羽に貸してやる事も頼んだが、それにしても遅過ぎる。

「近藤さん、面白そうなんで見てきまさァ。」

そう言うと、沖田は徐に立ち上がろうとした。が、その時だった。ヒュッ、と風を切る音と、黒い影が瞬き、沖田の髪を掠めた。

「!?」

「誰だっ?!」

飛んできた物はカツンと柱に当たり、カランカランと音にを立てて床に落ちる。
発射元と思われる方へ振り返れば、見慣れた影。

「ト、トシッ!?」

「何の真似ですかィ、土方さん。」

見れば、剥き身の刃を携えた黒髪の男が静かに立っていた。
恐らく、先程飛んできたのは鞘なのだろう、鋭い刀身は剥き出しになっている。

彼は返事の代わりと言わんばかりに口角を吊り上げると、間髪入れずに、刀を振り翳し、沖田に切り掛かった。

ガキィィン!!

「ちっ!とうとう本性表しやがったな土方ァァァァァァァァァっ!!!」

咄嗟に刀を抜き、攻撃を受け止めた沖田は男に向かって噛み付く様に声を荒げる。
刀を振り払えば、ひらりと身を翻し、男は中庭に着地した。

「どうしたんですか!!?沖田隊長!!?」

騒ぎを聞き付けた隊士達がわらわらと集まる。そこで今度は沖田が口角を上げた。

「……土方さん、此処でまた俺に手ェ上げたら、完全にアンタが反逆者になりますぜ。」

「……」

「どうしやす?罪の無い俺にいきなり切り掛かってきますかィ?」

にやり、と真っ黒い笑みを浮かべた沖田だが、黒髪の彼は一向に口を閉ざし俯いている。

「……副長、どうしたんだ?」

「反逆者って何の事だよ…?」

ちらほらと広がる隊士達の小声。
しかし、男は動揺するかと思えば、素早く踵を返した。
その刹那、沖田の目に映ったのは、振り向き様に見えた口元。
僅かだが、しっかりと孤を描いていた。

「!!」

「わっ!!ちょっ!?副長ォォォォ!!?」

瞬きするより早く、男は近場にいた山崎に切り掛かっていた。
どよっ、と回りに声が広がる。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!副長御乱心んんんんんんんんんっ!!!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!誰かぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!」

「テメェェェ土方コノヤロォォォォォォォっ!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!沖田隊長ォォォォっ!!!」

「俺達にまでバズーカぶっ放さいでェェェェェェェェェっ!!!」

あわやパニック状態の中庭に沖田が乱入し更に混乱を極めたそれに、縁側の近藤は顔を顰めた。

回りは確かに土方とその男を呼び、男も確実に土方の格好をしているのだが、

「……何か、変だな…」

違和感を覚えた近藤は、顎に手を添え、呟いた。
確かに姿格好は土方十四郎そのものだが、何と無く、一回り縮んだ様に見える。何と無く、何時もより身軽に見える。

そして何より、刀を持つ手が不自然だった。

正しく持った右手が何処かぎこちなく、剣技というよりちゃんばらに近い様な、そんな感じなのである。

その時、

鷹居ーーーーーーーっっっ!!!

「!!?」

ダダダダダッと高速で廊下を蹴る音と聞き慣れた怒声にその場の時間が停まる。

「トシッ!!」

土煙を立てながら走って来るのは、確実に土方だ。

「あれ!!?副長が2人っ!!?」

「え、でも向こうは煙草銜えてる……」

「何か、こっちの副長ちっちゃくね?」

どよどよと再び騒ぎ出した隊士達の中心で黒髪の彼は正に鬼と言った形相の土方に固まっている。

「トシっ!!やっぱり彼の人はお前の偽ものぶながっ!!?

「鷹居テメェッ!!其処に直れ、叩っ斬ってやるっ!!!!」

土方が刀を抜いて投げ捨てた鞘が真偽を問おうとしていた近藤の顔面にめり込んだ。
どうやら怒りの只中にいる土方に近藤の声は届かなかったらしい。

「……鷹居?」

「…って事はこっちの副長は……?」

怒りを露にする土方に隊士達の目は黒髪の彼に集まった。
目こそ隠れて見えないが、引き攣った口元から確実に動揺が伺える。

「……ち、」

小さく舌を打った彼は地を蹴り、中庭から縁側に移動すると、玄関目掛けて走り出した。

「テッメェ!!逃げる気かっ!!?」

「だってあたしまだ死にたくないもんっ!」

素早く踵を返し、黒髪の彼の後を追う土方に男にしては少々高い声が返る。

「あ。鷹居さんだ。」

「何だ、鷹居さんか。」

「鷹居さんだったんだ…」

暫しぽかんとしていた隊士達だったが、その声に納得したようにわらわらと解散しだす。

「何でィ、あいつら。勝負はもう良いのかよ。」

「あの、総悟君?君が座ってるの近藤さんの上なんだけど……」

詰まらなそうに縁側に、伸びた近藤の上に腰掛けた沖田に近藤は呟いた。

*****

「停まれ鷹居っ!!さもなくば切腹だぞっ!!」

「停まったら停まったで叩っ斬るんでしょぉぉぉぉっ!!?」

「当然だ。」

どっちにしたって殺されんじゃん!!!

全力で追って来る土方さんにあたしは必死になって逃げながら叫んだ。
そんなあたしは、真選組の隊長服を身に纏い、黒の短髪を靡かせていますが、正真正銘、鷹居紅羽で御座います。

土方さんから隊服を貸してもらった後、中々、苛々が冷めなかったあたしはもしもの為にと何時ぞや使った黒髪ロングの鬘をバッツリ切って短くしたやつを被ったのだ。
キャリーバックに忍ばせた晒しを巻いて、貸してもらった隊長を着れば宛ら男。
更に、前髪長めに鬘を被れば気持ち、土方さんみたいになった訳だ。

これで、あたしを疑った奴らを纏めてミンチにしてからハンバーグにでもハンバーガーにでもミートローフにでもしてやろうと、土方さんを軟禁して中庭に向かった、と言う訳なのでありました。

因みにどうやって軟禁したかと言いますと───、

「土方さん、土方さん。あたしの部屋にマヨネーズ王国の使者が現れたんですけど。」

「マジでか。ちょ、丁重に持て成せよ。」

「無理ですよ。マヨマヨ言ってて何言ってっか分かんない。」

「仕方ねぇな。俺が代わりに、」


────と、あたしの部屋に入って来た土方さんに防犯用ネットを被せて軟禁しました。
どっから防犯用ネットが出てきたんだ、と言うのは大人の事情です。

「よくも俺を騙したな鷹居ーーーーっ!!」

「うわっ!!回想してる場合じゃねぇやっ!!」

うっかり逃げてる事を忘れそうになってた!!危ない危ない。

「だって、まさか信じるとは思ってませんでしたしっ!!」

「馬鹿野郎っ!!俺はマヨネーズ王国はあるって信じてんだよっ!!」

「嘘ぉっ!?やべぇ、この人脳までマヨネーズだっ!!!」

「んだとコラァァァァァァァァァァァァっ!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁあっ!!御免なさぁぁぁぁぁいっ!!!」

ちょっと本音が出てしまい、それに土方さんは1.5倍速で追い掛けてきた。

うわばばばばばばっ!!!
これガチで殺されるっ!!
捕まったらマジであの世逝きだっ!!
ちょ、まだやりたい事一杯あんだけどっ!!
しなきゃいけない事もあるような気がすんだけどっ!!

てか、まだ新連載始まって間もないんですけど!!

負けじとあたしも1.7倍速で逃げようと突き当たりを曲がった。


どんっ!!!

「ぎゃふっ!!」

その直後、何かデカイ物にぶっかって尻餅を付いた。

「あててて………、何だよ、一体……」

「おや?」

聞き覚えのある声に、鼻っ面を抑えて見上げれば、真選組とは違う黒の制服。

「漸く停まりやがったな鷹居っ!!!」

土方さんが追い付いて退路を塞ぐもあたしはそれ所ではなく、ゆっくりと黒の制服を着る人の顔を確かめる。

「紅羽ではありませんか。」

壁の様にそびえ立つそれは紛れも無く、

「あ……兄者……!!?」

その人だった。


や……、やっべぇぇぇぇぇぇえっ!!!

こんな格好、男装してるなんて知られたら殺されるんですけどっ!!
てか知られたんですけどっ!!
もう終わりなんですけどォォォォっ!!!

今にも逃げ出したいが、土方さんに追い付かれて、退路は塞がれてるし、突き当たりだから逃げ場はないし……。
てか土方さんに追い付かれちゃってんじゃんっ!!!
兄者に殺される前に土方さんに殺されんじゃんっ!!!

てかどっちにしろもう選択肢ねぇじゃんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!

「黒刃…?何やってんだお前…?」

「紅羽、何故に土方さんのコスプレを…?」

ああ、正に、前門の虎、後門の狼、もとい、前門の魔王、後門の鬼!

万事休すとはこの事か……!!


首を傾げる2人など、もう目に入らず、あたしの脳裏には最終回の3文字が浮かんだ。


To be continued……?

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