Memo
相澤
「お名前言えるかな?」
「ぁーたん!」
小さな子供が舌足らずに答える
かく言う私も彼とはぐれ
携帯は繋がらない
子供を抱き上げセンターへ
呆れながらも来てくれるだろう
アナウンスしたのは
迷子と称した貴方の名前
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瞼に、額に
貴方が優しくキスをする
目に入った時計の針は8時を指して
確か今日はラジオの収録
そろそろ送り出さなくちゃ
「ねぇ、もう時間なんじゃ…」
言いかけた唇を塞がれて
彼の眼差しがその先を拒むから
私は少し緩んでしまった彼の
髪留めのゴムをスルリと外した相澤
なぞる指先に歯を立てて
いつも甘い言葉を貴方に囁く
この唇を固く閉ざす
「……なぁ」
せがむように
焦れたように
囁く声が私を誘う
はぐらかすように抱きしめて
不満げに突き出された唇を食む
欲しがったって今日は言わない
貴方からの言葉を聞くまではマイク
「普通さー逆じゃナイ?」
膝に寝転ぶ彼女の
柔らかい髪を掻き分け
耳掻きを終えたそこに息を吹く
まあいいじゃないと手を伸ばし
転がりながら頬をひと撫でする白い指
目を閉じて腰に抱きつく君のぬくもり
彼女にはいつまでも
勝てそうに無い相澤
眠気覚ましに手を伸ばす珈琲
手に持つマグがふわっと浮いた
目を上げると怒ったような顔の彼女
手には俺から取り上げたマグ
そのまま首に絡みつく細い腕
寝ないと締め落とすという彼女の声が
心配げに揺れている
離してくれそうもない彼女を背負い
パソコンの蓋をパタンと閉じたマイク
眠気覚ましにダブルショットのエスプレッソ
疲れた目元はアイウェアで隠して
頼れる楽しいヒーローの仮面を被る
そんなオレのサングラスを取り上げて
君が髪をかき混ぜて
優しく、おいでと笑うから
上手く仮面が被れない
無理をするのは
得意だったはずなのに相澤
週末になると帰る自宅
今までと変わったのは
帰宅した俺を出迎える良い匂いと
暖かな灯り
「おかえり。お風呂にする?ご飯にする?」
エプロン姿の彼女が駆け寄る
「…もう一声」
「今日はおでんだよ…?」
不思議そうな顔で
献立を教えてくれる君
もどかしい幸せも
そう悪くはないマイク
「Hmm.大丈夫だって、もう治ったデショ」
そんなことを言う彼だけど
私の風邪は治ったばかり
万が一を考えて
顔を背け全力で拒む
両の手のひらを己の口に当て
これでどうだと顔を向けたら
拒む両手の甲にキスひとつ
「コレならいいでしょ」
そう言って笑う彼には勝てそうにない相澤
彼はいつも言葉少なで
褒め言葉等聞いたことがない
けれどそれが「彼」なのだ
今日のデートは珍しく
時間をかけて髪を巻いた
「じゃあまたな」
電車の外で彼が言う
ドア横で手を振る私を
急行通過の強風が襲う
顔にかかる髪を払う優しい手
ドアが閉まる直前
彼は何て言ったのだろうマイク
ホッケに煮豆に温泉卵
一汁三菜純和食
「Yummy!あ、醤油とって」
「イメージと違うって言われない?」
思わず聞いたらウィンクしながら
「毎朝の味噌汁は君に作って欲しいナ*」
なんていうものだから
本気にするよと返したら
本気にしてよと彼が穏やかに笑った
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