音の中で君を探してる
オフはどちらかの自宅で、というのは付き合い始めて出来た二人のルール。目の前にはカワイイ彼女。長い睫毛が切れ長の瞳にかかって綺麗に影を落としているのを眺めながら、冷めてしまったコーヒーをすする。
本日締切の仕事が終わるまであとちょっとなのだと、彼女はさっきからノートパソコンに夢中で構って貰えない。守秘義務があるからと手伝わせても貰えず、良い子で待っててと言われたら仕方ない。
見るわけでもなく、つけっぱなしで時々チャンネルが変えられるテレビ。
雑音が気にならないもんかと音量を下げると、音がしてたほうが寂しくないからと彼女は言った。
『気になんねぇの?』
「音の中にいる方が集中できるの」
一瞬だけ目を上げて、律儀に返事をしてくれる。微笑みかけられるとそれだけで嬉しくなるから我ながら単純だ。
『アー、ホワイトノイズってやつな』
「うん。心地良い音を探してるんだけれど、ハマると凄く集中できるのよ」
『そんでやたらザッピングしてんの?』
こうやって話す合間にも、CMになった番組がチャンネルを変えられる。
「あ、ごめんなさい。クセでつい…気になるよね。テレビ見てた?」
『No problem!君のこと見てたダケ』
ウィンクしてみせると、はにかんだ彼女がオレの頭を一撫でして、名残惜しそうに毛先をいじって手が離れて行く。その仕草がいじらしくて最高に可愛い。
あと五分で終わらせるから、と真剣な表情に戻ってキーを叩く彼女に、熱いコーヒーでも煎れ直そう。
ミルクたっぷり。砂糖は少量。小鍋で沸騰しないように牛乳を温めていると、ザッピングの手が止まり音量が少し大きくなった。どうやら心地良い音に出会えたらしい。
邪魔をしないようにコーヒーを机の上に置き、テレビに目を向けると衝撃の映像を連発するバラエティ番組。やけに見覚えがあると思ったら、ナレーターは他ならぬ自分だった。
真剣な顔をしてキーを叩く彼女は、気付かぬままCMになるとチャンネルを変える。CMが明けると同じチャンネルに戻ってくる。試しに小さな声で歌を口ずさむと、今度はテレビの音量が落とされた。無意識なのか目はノートパソコンに向かったまま。手だけがオレの声を探してリモコンを操りさまよう。自然と頬が緩むのが止められない。
「…終わった!ごめんね暇させて」
しばらくそうして彼女を眺めていると、満面の笑みを浮かべた彼女が顔を上げて、こちらの顔を見ると珍しく赤くなって目を泳がせている。
「何か私、変なことしてた?」
『んー...ナイショ』
多分緩みきっているだろう笑顔を彼女に向けながら、ノートパソコンに乗ったままの彼女の手を取り、指を絡ませた。