午前一時の温もり

 季節は冬。深夜の招集はヒーローと言えども堪えるものがある。ヴィランの麻薬密売組織一斉確保の為に急遽集められたヒーロー達は、ヴィランとの戦いを前に、取引現場となる港町の倉庫で、海風に晒されながら寒さと戦う羽目に陥っていた。

「イレイザー。その格好寒くないの」

 捕縛布に顔を埋め、屋根の上で身を屈めながら眼下の倉庫街を眺める相澤に声をかけたのは、特殊部隊員のような装備に身を包んだ長身の女性だった。

 今夜の相棒である彼女は、最近現場でよく顔を合わせる近接戦闘のスペシャリストだ。よろしくね、と片手を上げる彼女の髪は何故だかほんの少しだけ濡れていた。

「もう慣れたよ。お前こそ寒くないのか」

 片手を上げて挨拶を返すと、無茶苦茶寒い、と無邪気に笑いながら、相澤の隣にしゃがみ込む。ふわりと控えめなシャンプーの香りが一瞬相澤の鼻を擽り、そして海風の中に消えていった。

「お風呂上がりに緊急招集かかってさ、半乾きなんだよね」

「…風よけにしてるだろ」

 ゴーグルを上げてチラリと少し低い位置にある顔をジト目で睨めつけると、イタズラがバレた子供のような無邪気な顔で彼女は笑った。

「寒いんだもん、少しだけ暖取らせてよ」

 ちゃんと仕事はするからさ、と、くるりと振り返った彼女は、後方の警戒は任せて。と、薄い肩を抱えて縮こまるようにしながら相澤に背を向けて再びしゃがみこんだ。

 海風はある程度遮れても、やはり寒いものは寒いのだ。縮こまって体から熱が逃げぬようにしていた彼女は、ふと背中に暖かさを感じて、後方を仰ぎ見た。

 視線は警戒を怠らぬまま、背中合わせになった相澤の表情はいつも通り。ただそっと触れ合った背中が、海風に奪われた体温をゆっくりと取り戻させてくれている。

「…ありがとね」

「いいから後方見とけ」

 少し下唇を突き出した相澤がぶっきらぼうに呟いてゴーグルを下ろすと、彼女は体重がかからぬ程度に、少しだけ背を預け、了解。と返事をしながら相澤から視線を外した。

 冷たい夜の空気の中、触れ合った背中だけが暖かかった。