りめんばー、あばうと、みー。

ガラの悪いチャラそうな男が新一に声をかけてくる。きゃー不審者よー。
チャラ男は新一に焼きそばにハエをわざと入れたことを暴かれたらしい。随分と器の小さい男だな。

チャラ男が新一の頭を掴んだところで秀一さんからのフィンガージャブがとんだ。

「すっげぇ……」
「截拳道だ、白斗も練習すればできるようになる」
「丁重にお断りします!!」
「そうか……」

なんで秀一さんはちょっと残念そうなんだよ!

そんなやりとりをしていると、不意に海に面している崖、道路のある方向から大きな物音が聞こえた。

その方向を見れば、車がガードレールを突き破って海に落ちていく姿が見えた。

海水浴に来ている客がざわめく中、秀一さんは真っ先に海に飛び込む。少ししてから秀一さんが引き上げてきたのは、もう動くことのない被害者の男と、その男の物と思わしき鞄だった。

血が大量に出ているような死体ではないけれど、たしかにもう亡くなっているとわかる男の姿に目眩が襲う。

秀一さんが新一たちに指示を出す姿が少し遠くに見えた。

しかし、どくり、と自分の胸が1つ鳴った瞬間、その目眩は嘘のように遠のいていく。

すっと消えていくその感覚に、今度は少し恐怖を感じた。
この世界にきたから見ることに対してある程度の耐性があるのか。

それともーー。

(俺自身が1度その深淵を経験したからか)

心臓の音がやけに大きく、聞こえ、聞こえ……、

「白斗! どうしたんだ」

その声が聞こえた途端、我に返る。
少し乱れた息が自分の口から漏れる。

「なぁ、秀一さん、俺、今生きてるよな?」

気づいたらそう声をかけていた。

秀一さんは俺の頭を乱暴に撫でると、いつものようににやりと笑う。

「当たり前じゃないか」
「そう、だよな……、ごめん秀一さん、俺の中の何かが覚醒して白昼夢見てたわ」
「君は中二か」
「いっけね、持病が」
「その病に関しては俺も治し方は知らんな」

やっと通常運転に戻ってきた俺。よし。大丈夫。
秀一さんの方が中二くさいよと言わなかった俺偉い。

と言い合っているうちに警察と有希子さんが死体のところへやって来ていた。

真純ちゃんと新一の姿がないってことは俺が軽く混乱してた時にもう既に秀一さんの指示で動いてたのか。
……俺もなんかやってみたかった、かもしれない。

警察と有希子さんに秀一さんがサラサラと状況とそこからの推理を話していく。
強盗って。よくそこまで推理出来るよなぁ……。

「ピエロのお兄さん!……と白斗!」

新一が元気に駆け寄ってくる。秀一さんピエロのお兄さんって呼ばれてるのか、危うく吹き出しそうになったぞ。

「連れて来たよ! 車が海に落ちた後、買い物したお客さん!」

新一が指さす先には男女。そのそばには秀吉さん。
さすが天才棋士っていうか秀吉さん。

そこから、秀一さんの華麗なる推理が始まる……だろう!