「ここ、僕が働いているお店なんです、美味しさは保証しますよ」
「あはは……」
今目の前には確かにポアロ、と書かれた看板がある。
認めたくないけれど!
促されるままに店に入れば、お昼時を少し外していたので客はまばらだった。
後は、食後のコーヒーや早めの3時のおやつを楽しむ客が少しいるぐらい。
「あの、やっぱり、私、大丈夫です、よ?」
「いえいえ、お気になさらず」
さっきもその言葉で上手いこと丸め込まれたんですが……?!
「その辺りに座っていてください、すぐにコーヒーを淹れてきますね」
「ありがとう、ございます」
……どうしよう。絶対錬成したことだと思うんだけど……。
でもバレないようにやったはずだし、大丈夫、だよね。
「お待たせしました」
にっこりと二つのカップを手にして流れるように私の前の席に安室さんが座る。
「さて……、怖い思いをしたところ悪いんですが、少しだけ気になることがありまして」
これは。
「お話、聞かせてもらってもいいですか」
深まる口元の笑みとは反対に、目が全く笑っていない安室さんに、私は改めて自分が『異常』なのだと感じた。
「改めてまして、僕は安室透です、よろしくお願いします」
「笠音日和です、よろ、しくお願いします」
よろしくお願いしたら大変なことになりそうだけども!!
「そういえば、怪我とかはないですか?」
「ナイフが、尖って、なかったので全然大丈夫です」
「そうですか……、それでも心配ですね、あのナイフが投げ捨てられた時、……本当のナイフと遜色のない音が鳴っていたので」
「ナイフの落ちる音とか、わかるんですね」
「ああ、そうだ、僕、探偵なんですよ」
そう言って安室さんは名刺を取り出し、私に差し出す。
受け取ってみてみれば、電話番号と名前が書いてあった。
「は、はぁ……」
「今は上の階の毛利探偵のところに弟子入りしているんです、困ったことがあればいつでも相談してください」
形式的な笑顔。そして、毛利探偵。私が今聞きたくなかったワード5位ぐらいに入ってた言葉だ。
「なのでナイフが落ちる音なんかはよく聞くんですよ」
……嘘だ。とまではいかないけれど、絶対音じゃない。
多分安室さんは、私が捕まった瞬間、突きつけられたナイフを見て本物だと思ったはずだ。
「私もはじめはナイフだと思ってましたし、本物に限りなく近いナイフなんだと思いますよ」
苦笑いを浮かべてみる。
「じゃああのナイフは元々丸まってたんですか?」
「はい」
「……それは良かったです! あれが本物だったら、と思うとゾッとしますよね」
「そう、ですね……」
あっさり引いた、かのように見せかけてまだまだ探る気満々な彼に私の胃が爆発しそうです!!!