リコーダーくらい誰でも吹ける

※召喚術式というのはガチャです
※グラ○ルのように武器にキャラがついてたりボイスがついていたりするタイプのソシャゲでした


テーブルの上に並んだ装備を確認する。
右からフルート、フルート、フルート・改、華笛ツェツェーリア、フルート、華笛ツェツェーリア、フルート、ツェツェーリアだ。
全て召喚術式で入手したもの、あるいは入手したものを強化した代物だ。色違いの物体が何本もあるのが自分の術式を使う才能の無さを如実に表している。
そして本日の召喚術式で入手した装備をそっとテーブルに置く。
フルート、またお前か。しかも風は既に二本持っている。桜狼亭を楽器店にするつもりか。
溜息をついてからテーブルの上を見返す。戦闘は向いていないようにしか見えない楽器が並べられている。
しかし忍の皆はこういう楽器も平然と使いこなすのだから凄い。忍というのは楽器の演奏も教わるのか。これが吹けたならもしかしたら皆の助けになるかもしれない。そんなことを思いながら今日入手したばかりのフルートを手にとって、口をつけてみる。持ち方は見よう見まねであるが簡単に音を出すくらいなら。


ピヒョォォォォ。


音は見事に掠れていた。











「そうか」

眉間に手を当てながら航大は大層面倒くさそうに言った。意味合い的にはそうかというよりそうだったのか、だろう。
ピヒョォオオオ。どこか気の抜ける掠れた音が再び鳴る。指が悪いのかと持ち方を変えてもう一度息を吹きいれる。ピヒョォ。やっぱりヒョォという気の抜ける音は消えない。しかも若干音が外れている気がする。

「主おまえにそれは無理だ」

苦々しい表情をした航大にそう窘められる。いきなりフルートというのは難易度が高すぎたらしい。フルートから口を離すと航大はほっと安心したように息をついた。

「やはりそうか」
「分かっていたなら早々に止めろ。騒音公害だぞ」
「フルートは初心者には無理だとは思っていた」
「そうだ。諦めろ。そもそもそれは一応忍用の武器であって訓練をしていない者に早々吹けるわけが」
「だからここにリコーダーがある」
「待て」

小学生の時以来か、懐かしい。そんなことを思いながらいそいそと袋から取り出していると航大から制止が入る。

「リコーダーならいける。小学校で習った」
「まずなんでそんなものがそこにあるんだ」
「カガリさんが取ってあった。ほら、裏面に名前だって掘られてるぞ」
「何年前の話だ。衛生面はどうなっている?!」
「さっき消毒したぞ」
「捨てろ。即捨てろ。そもそも桜狼亭が定休日とはいえ何をしているんだ貴様は。もっとすべきことがあるだろう」

ピピョー。一度吹いて見て頷く。フルートの時よりはよほどまともな音がでている。小学校の授業でやったからこのくらい当たり前だ。誇らしげな気持ちでもう一度吹くと航大は呆れたような表情をしていた。

「第一音が汚い。どうして若干掠れるんだ。リコーダーごときで得意気な顔をするな、掠れている。本当に習ったのかお前は」
「いや、フルートのときよりはマシだ」

高い方のド、シ、ラ、ソと順番に音を出していく。なんだ吹けるじゃないか、と一人で頷く。やっぱり横笛なんておしゃれなものは自分には向いていなかったのだろう。

「マシとかそういう話ではない。半音だと掠れ方が更に酷い」
「半音ってなんだったか」
「話にならん……!」

航大は怒っているのか呆れているのか嘆いているのか分からないがとにかく息を荒げていた。

「とにかくその緊張感の無い音を出すのは止めろ」
「リコーダーで緊張感を出すのは無理だろう」
「今はそういう話をしているのでは無い」

航大が盛大に溜息をついた。何故フルートとリコーダーを吹いていただけでここまで言われなければならないのか。流石に心外だ。

「あのフルートが吹ければ戦闘で自分も戦えるのではないかと思った」
「無理だな。あれは忍が使うからこそ効果がある。貴様のように訓練もしていない者が使ったところで無駄だ」
「フルートが武器になるのならリコーダーもいけるのではないかと思った」
「何故そこに飛躍した」
「リコーダーなら吹ける」
「やめろ。戦闘中にあんな騒音を鳴らされてみろ。気が散って戦闘どころではない。耳の良い獣人の空蘭などどんな被害を受けるか分からん」
「そんなに」

確かに緊張感は無い気がする。名案だと思ったんだけどなあ。しかも騒音騒音って、そんなに酷かっただろうか。いや、確かに気の抜ける音はしていた気がする。
でも納得がいかない。確かに航大はフルートに関しては完璧だ。戦闘中でも綺麗な音色を奏でている。だがこのリコーダーはどうなのだろうか。リコーダーに関してもプロならばこちらの気の抜ける音など騒音にしか思えないだろうが、そうでないのであれば不当な言いがかりだ。

「騒音騒音言うけれど航大はリコーダー吹けるのか」
「社会人にもなってリコーダー一つできない奴はいないと思うが。この日本は教育に関して徹底しているからな」
「じゃあお手本を見せて欲しい」

口をつけていた場所をちゃんと吹いてから航大にリコーダーを差し出す。航大は勿論心底嫌そうな顔をしていた。

「断る」
「どうして」
「この俺が何故リコーダーなんてものを演奏しなくてはならん。却下だ」
「出来ないの?」
「貴様……!」

できないのかという言葉に自尊心を刺激された航大は差し出されたリコーダーを手に取り、平然と演奏し始めた。ピヒョオなんて間抜けな音は聞こえない。洗練されている。いい歳をした大人がリコーダーを真顔で吹いているという絵面は非常にシュールであるが演奏は凄い。
題名は分からないが夕方に流れる、子供に帰宅を促すあの曲が目の前で演奏されている。なんでその選曲なのか。そしてなんでリコーダーで吹けるのか。航大って凄いんだなぁ、なんて改めてそう思う。

私はと言うと絵面があまりにも面白かったのでつい端末のシャッターを切っていた。


「誰が出来ないと?」


航大は勝ち誇った表情だ。認めよう、航大が最強だ。


「航大は他にクラリネットとかも吹けたりするの?」
「忍を大道芸人か何かだと思っているのかお前は」




後日航大がカスタネットを買ってきた。曰くこれで我慢しろとのことだった。

解せぬ。その日行った召喚術式で入手できたものはフルートだった。またお前か。

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