三ヶ月遅れのおめでとう

百均より購入した三角帽子とクラッカーを片手に今日の目的を告げる。


「航大の誕生日を祝いたいと思う」



「マスター、あのさ。すっごく言いにくいんだけど、航大さんの誕生日って三カ月前じゃない?」
「誉は良いことに気付いたな。そうなんだ。航大の誕生日は三カ月前、つまり四分の一年前だ」
「四分の一年前ってそれ言いにくくない?」

航大の誕生日は確かに一月二十九日、つまり本日四月二十九日から三カ月前に過ぎ去っている。

「なんで今更また。それに航大さんだって良い大人なんだし今更誕生日を派手に祝われても困るんじゃない?」
「そういう考えがいけない」

誕生日と言うのは本来その人が生まれた素晴らしい日だ。それを祝われても別に恥ずかしいことはない。

「それに航大も『最後にまともに祝われたのはいつだったか』なんて言ってたし!悲しいだろうそんなの!」
「マスターのそういうところ、良いところだと思うけど悪いところでもあるよね」
「そもそもそんな素晴らしい日だったら忘れてやんなよ」
「雷蔵、それを言ったらおしまいだよ」

ひそひそと雷蔵と惣七が言っているが断じて違う。忘れていたわけではない。

「忘れていたんじゃない。忙しかったんだ。そのせいで有耶無耶になって今日まできてしまったんだ」
「へえ。じゃあ何してたんだ?」

呆れた様子で雷蔵が訪ねてくる。店が忙しかったわけではない。


「雷蔵と戦っていた」


「あっ」
「あっ」
「あっ……」

静かに雷蔵が視線を泳がせる。小声ですまねえ、と聞こえたが別に怒ってもいない。あれは各々の事情があっただけだ。今はこうして雷蔵と一緒に戦っているのだし、過ぎたことをとやかく言うつもりは無い。誕生日以外は。

「そうだよ。その頃ご主人様ぼろぼろで凄い痩せちゃっててオレ心配で心配で」
「そうだったか?今では凄い元気だぞ。ハッピーバースデーも熱唱できる」
「そういう元気じゃねえだろ」
「でも騒がしいのは航大の好むところではないと思うのですが」
「圭くん、それを言い出したらお終いですよ」

刹那はそう言いながらテーブルに置いてあったタンバリンを手に取った。

「ご主人様。これ何に使うんですか?」
「鳴らす」
「ならす」
「シャンシャンする」
「しゃんしゃん」

なるほど。刹那はそう言ってそっとタンバリンを元あった場所に戻した。





「これ絶対一色さんに殺されると思うんだけど」
「そりゃあ航大からすれば喧嘩を売られてるとしか思えないだろうからね。絶対にキレる」
「おい、じゃあ主を止めたほうがいいんじゃねえか。これどうにかしないと不味いぞ」
「いや、まぁ、マスターが相手だったら怒らないんじゃない?善意だし」
「善意だけどさ」

譲彦達が何やら声をひそめて会話をしている。三人は何をひそひそ話してるのだろうか。いや、もしかしたらサプライズ的な何かの相談だろうか。確かに愁さんは隠し芸の二つや三つ持っていそうだけれど。

「違うからね」
「残念だけどこの中で航大を祝おうって言うのは僕とマスターくらいじゃないかな」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」

皆が一斉に惣七を見る。惣七と航大は犬猿の仲だ。喧嘩するほど仲が良いと自分は思っているがあの二人は死ぬほど仲が悪いと言ってはばからず。たまに戦闘中に殺し合う間柄だ。そんな惣七が航大を祝うというのは皆にとって到底信じられるものではない。

「いい嫌がらせになるだろう?」

なるほど。忍全員が一斉に納得した。何が嫌がらせなのかはよく分からないけれど手伝ってくれるというのであればありがたい。他の皆が乗り気でなかったら最悪一人で祝うつもりだったし。

「一人で?」
「だって他に駄目ならしょうがないだろう。日向と空の予定は埋まっていたし」
「ひとりでご主人様が一色さんを派手に祝って……ちょっと待って。駄目だよそれ。ゼッタイによくない」
「ひとりで対応は止めておいた方がいいんじゃないかなー。ほら、うん。なんていうか、万が一、ってこともあるし。マスターの身の安全って凄い大事だし」
「キレた野郎に何されるかわかんねーぞ」
「雷蔵だめですよ。言葉がストレートすぎます」

散々な言われ様である。別に航大は激昂して何かするような粗暴な人柄はしていないと思うのだが。そう反論すると全員から「違うそうじゃない」という旨の言葉を貰った。何の話だと言うのだ。

「そういえばどうして主は俺達を呼んだのでしょう。別に一人でも祝うつもりだった、というのであれば俺達がいなくともよかった気がするのですが」
「そうだ。忘れてた。一応これだけは皆の意見を聞いておきたくて」
「俺達に?一体なんだよ」

がさりと百均の袋から6個入りのクラッカーを取り出す。はっきりとしたカラーリングは時々スーパーで売っている毒々しい色をしたキャンディーを思い起こさせる。


「クラッカーは発砲音と火薬の臭いがするだろう。忍的にこれは拳銃と勘違いされないだろうか」
「……」



この後クラッカーと拳銃の違いについて話し合っているうちに航大がやってきた。
誕生日祝いはまた来月へと持ち越しである。

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