コスプレ装備の行先
召喚術式から出てくる装備には様々な種類がある。武器、防具、お守りやアクセサリーなど。
だがしかし極稀になんでこんなものが出てきたのか分からないと代物が出てくる。しかも優秀なので始末に負えない。
「というわけで」
「何がというわけなんだ」
「この学生服を誰が装備するかの話なんですが」
愁と航大が目を逸らした。愁は勘弁してくれ、といった様子だが航大の方はなお酷い。不機嫌さが極まっている。雷蔵は凄くげんなりとした表情だ。残りの面々は分かりやすく嫌悪感を示してはいない。
「いや、強いんだよ?これ。凄く希少だし」
見た目はただの学生服でも強度は何故か高い。他のちゃんとした装備よりも高いらしいのだから馬鹿に出来ない。ただ学生服というだけであって。
「でもこれさ、オレ達が着ちゃうとコスプレだよね」
「そうなんだよ」
流石にコスプレをさせながら戦わせるのはどうなんだろう。しかもまだクリスマスの時のようにプレゼントを配ったりするのならまだしもそういったイベントではない。
「断固拒否する」
「俺も遠慮してえな」
「オレもパスだ」
言うとは思っていた。学生服の性能は会心能力強化、らしい。
学生組の三人の戦闘能力を見てみよう。
圭はどちらかというと持久戦をするタイプだ。鎖鎌で相手の攻撃をいなしつつ中距離程度で継戦する。
誉は素早く相手を射撃し、吸血族の力を含めてきつい一撃を相手に見舞う。しかし本人自体の資質は耐久面に優れている。
刹那は攻撃を扇子で受け流しながら、術を打ち込んで相手を葬る戦闘スタイルだ。術を多用する刹那に通常攻撃の会心云々は向かないだろう。
「三人の中でなら誉だけど、うーん」
普通に誉は装備してくれそうではあるけれど。だけど誉はそもそも能力自体は防御寄りだ。もっと長所を伸ばせる相手に装備してもらった方が良いのではないか。
「んでオレを見んだよ。パスだっつってんだろ」
長所を伸ばすなら愁か雷蔵だろう。愁は元より攻撃力が高い。雷蔵は攻撃力が高いうえに一撃が冴え渡っている。嫌がっているところ申し訳ないが……。自分が候補から外れたらしいことに航大は気づいたようだがそれでもこちらと目を合わせようとしない。
「雷蔵」
「パスだ」
「この前割った皿」
「ウッ……」
皿に対しての力加減が掴めていない雷蔵は油断をすると皿を粉砕する。なんというか下手な妖魔より無残な砕け方をしていた時は怒るとか怪我が無いか心配するとか抜きにあまりの粉々っぷりに思わず手を合わせたものだ。
最近では数は減ったもののゼロにはなっていない。そのことを突っつくのは良心が咎めるがいたしかたない。
「わぁったよ……。着りゃいいんだろ」
「ありがとう雷蔵。今晩のおかずはねぎまにしよう」
「人を食いもんで釣ろうとすんじゃねえよ」
雷蔵は受け取ってくれた。一先ずこれで学生服の行き場は決まったので問題ない。
「ここに花魁の着物みたいなものがある」
場の空気が変わった。
「オレはもう抜けるからな。制服着りゃいいんだろ?!」
雷蔵は即壁際へと退避する。脱兎というのはああいうことを言うのだろう。
「こんなん男が着てどうすんだよ。特に俺なんかごついし似合わねえし無理だろ」
「そういうのが好きな女の人もいるらしいよ」
「知るか!」
愁も即座にその場から離れた。愁はいつものメンバーの中でも特に筋肉質だ。無理にこんなものを着せたらおそらく大事故に発展する。
「というわけで」
「何がというわけなんだ」
「航大」
「断固拒否する」
声をかけた時点で舌打ちをされた。嫌な予感はしていたらしい。
「空蘭か加茂にでも着せておけ」
「せっちゃんなら似合うんじゃない?これ」
「似合うだろうけど」
じっと刹那を見つめる。別に着てもいいですよ、という態度が今まで彼の踏んできた場数を物語っている。可愛い見た目と言うのもいろいろ大変だろう。
「この着物、尻尾を出す場所がない。穴をあけるとその、うん」
うっかりビリッといった際は特に悲惨なことになるのでは。いや刹那の外見は中性的で少女のようにも見えるから事故にはならないだろうけれど。
「そうですねー。こういうの舞台で着ることがあるんですけど大体特注なんですよね」
「やっぱり」
「じゃあオレ?」
うーん。譲彦が着ても多分違和感は無いだろう。というか絶対に無い。仮にもモデルだし彼はそのプライドと職業スキルによって着こなして見せるだろう。
「航大」
「断固拒否する」
もう一度声をかけても再び同じ言葉を返される。死んでも女装などしない、と言いたいらしい。
「いや、ほら、あの、足を出せとかいう話じゃないし」
「却下だ」
「黙って下に何か履いてれば大丈夫だよ」
「断る」
「化粧とかも必要無いし」
「断固拒否だ」
とりつく島もない。外見はともかく性能が、という話をしようとしても拒否の二文字が即飛んでくる。
「希少な装備だから航大に渡したかったのに」
「その程度の言葉で俺が騙されると思ったか」
「騙されてほしかった」
駄目か。仕方ない、こいつは押し入れにでも投げておこう。そう諦めかけた時今まで黙っていた惣七が肩を叩いた。諦めるのはまだ早い、とでも言いたいのだろうか。
「マスター、じゃああれ僕にくれない?」
「惣七に……?いや、惣七にはもっと別の装備が」
「だってあれはマスターのお気に入り、って証明だろう?だったら是非欲しいなあ。航大はそんなのお断りみたいだしね?」
「ん、いやなんか話がおかしくなってないか?」
「えっなにそれ。だったらオレも黙ってられないんだけど」
これは収拾がつかなくなりそうだ。どさくさにまぎれてこの着物は封印しておこう、そう手を伸ばしたが誰かに阻まれる。
「……」
「航大、あの」
「どうしてもと言うなら着てやってもいい」
即効掌を返した航大に動揺し思わず思考が停止する。
「いつかおまえをこれと同じ格好にしてやる。覚悟しておけ」
大事故が起こった。