好きなタイプ


「ねぇねぇご主人様。あのさ、オレもご主人様に質問していい?」

別に構わない。頷けば譲彦は「やったあ!」と大げさに喜んだ。

「じゃあねじゃあね、何にしようかなあ。オレご主人様に聞きたいこといっぱいあったんだよね」
「そんなに?」
「うん。だってご主人様はオレに沢山質問してくるけどご主人様に聞いたことは無かったでしょ?オレご主人様のことならなんだって知りたいよ」

そう言えば自分のことについて皆に話した覚えは無い。昔の記憶を失っていることもあるけれど、何よりも浄化の力の使用によって記憶を消費している為か自分のことについて話すのは少し苦手だ。
自分のことをどれだけ覚えているのか、正直自信がない。もしかしたら自分よりも自分と一緒に生活していた銀狼や今どこにいるかは分からないカガリさんの方がよっぽど知っているかもしれない。

「んー、じゃあまずは定番の好きな食べ物から!」

譲彦の質問はありきたりなものが並んだ。好きな食べ物、嫌いな食べ物、誕生日、よく聞く音楽やよく見る雑誌。それに対して譲彦は「なるほどねー」やら「それオレも好きだなー」とか律儀に相槌を打ってくれる。

「じゃあオレからも質問していい?」
「ずるいですよ。僕もご主人様のこともっともっといーっぱい知りたいです!」

圭を除いた学生組がわいわいと集まってくる。残りの面々はとくに何か聞いてくるわけでなく各々の作業をしていた。同時に質問をされても困るので逆にありがたい。





「うーん。じゃあ好きなゲームは?」
「皆でやれるゲームは見ていてもやっていても楽しいから好きだな」
「好きな動物!」
「嫌いな動物がいないから……強いて言うなら、犬?」
「ご主人オイラは犬じゃないぞ!」

答えやすい内容が多いお陰か今まで一度も詰まらずに済んでいる。これなら最後までなんとかなるかもしれない。



「じゃあ、ご主人様の好みのタイプは?」



前言撤回。これは無理だ。どう答えたらいいものかと悩んでいると他の忍達もこちらを見ていることに気付く。圭や愁に頼めばおそらく助け舟を出してくれるだろうが、ここでそれは逆に駄目な気がする。何が駄目かというのは明確にはわからないが駄目だ。何かが危ない。今まで何度も修羅場を潜り抜けた勘がそう告げている。

「他には過去に付き合ったことのある恋人の特徴とか」
「待ってくれ。そんなのいないぞ」
「いないんだ。そっか。良かった」

たぶん。覚えている限りでは。その二言をつけ忘れたが過ぎたことを悔やんでもどうしようもない。譲彦も嬉しそうだしそのままにしておこう。
それより問題は別のことだ。

「で、ご主人様」
「うん」
「どんな男がタイプ?あ、言葉にしにくいんだったらこの中の誰が近いか、でもいいよ?」

普段のにこにことした人好きのする笑顔のまま譲彦は返答を迫ってくる。可愛い笑顔なのに何故か逃げられそうにないのが不思議だ。

「その辺にしておけよ譲彦。主が困ってるじゃねえか」
「そうですよ。そこまでです」

常識人枠の二人がついに助け船を出したが、譲彦は不満げだ。どうやら今までの質問は全て前哨戦だったらしい。

「でも二人とも気にならない?ご主人様の好み」
「いや、別にどんな奴が好みだろうと本人の勝手だろうがよ。こっちがとやかく言うことじゃねえ」
「そうです。興味がないと言えば嘘になりますが、なにより主は困っています。主を困らせてまで聞くべきことであるとは思えません」

圭は硬いなあと譲彦はぶすくれる。このまま有耶無耶になってくれるのが一番ありがたいな、なんて思いながらほっと息をついた。



「なんだ。自信がないのか?」



そうは問屋がおろさない。そう言いたげな航大がついに沈黙を破った。今まで黙って聞いていたのに唐突にそうなるのか。心の中でひたすらに突っ込んだが余計なことを言うと更に場が混乱しかねない。黙っておくことにする。

「主は既に俺に心を奪われている。残念だったな」

なんでそれをここで言ったのか。奪われた覚えは無い。だが航大の『心を奪われている』のワードは譲彦の琴線に触れたらしい。柔らかい微笑みが一瞬でスッと冷ややかなものへと変わった。

「冗談キツいんだけど。一色さん、ちょっと表に出てよ」
「寝言は寝て言った方が良い。マスターが焦がれているのは僕に決まっている。ねぇ、マスター?」

このままではまずい。何か言った方が良い。何か……。

「喧嘩は止めてほしい。好みの男性のタイプだな?わかった」

そう制止をかけると手裏剣やら笛やらに手をかけていた手が止まる。

「……いいのか?主。別に答えなくったって……」

流石に出まかせを言うわけにはいかない。よく考えよう。今まで出会ってきた中で一番好意的に思える異性。異性……?

「ご飯を美味しく食べてくれて、一緒にいてくれて、優しくて、いざという時にアドバイスをくれる」

他の皆が一斉に黙る。何故黙ったのか。すぅと息を吸って、その相手を静かに指差した。



「銀狼」



場の空気が凍った瞬間だった。

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