千尋ちゃんは俺の事なんか覚えてへんやろな…。俺と出会ったのは小さい頃やったから記憶は消さへんくても心のどこかで思い出してくれたらええのにって俺は思っとったんや。
本来吸血鬼は、姿を見られた者の記憶消す事によって長く隠密に暮らしているのだ。
白石は昔の事を懐かしむように思い出していた。瀬谷と初めて会った日の事を…。
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白石は瀬谷の祖母にあたる人物の元へ訪れていた。そこに当時三歳の瀬谷は関西で祖母と過ごしていたのだ。
「くら…くら!」
「わっ…そない走ったら転ぶで!」
「ふふふ、すっかり蔵ノ介は千尋の玩具やなあ」
「この前見た時はまだ床這って歩いてた気がするんやけど…ほら、たかいたかーい」
空高く持ち上げられた瀬谷は喜んでいる。そのまま白石に肩車をしてもらい白石の髪の毛で遊んでいる。
「で、話ってなんや?…ちょ、千尋俺の髪あんまり引っ張らんといな…あたたっ」
「それなんやけどな、千尋の事守って欲しいねん」
「は…なんやて??」
「千尋にはもう家系の事とか、背負わせたくないねん。蔵ノ介は瀬谷家の事情知ってるやろうし、余生の短い婆さんの願い…聞いてくれるやろ?」
「普通それ吸血鬼に頼むか?まあ、瀬谷家には昔から良くしてもらって恩もあるからなあ……ええよ、近くで千尋の事ずっと守ってやるわ、それでええやろ?」
「ああ、頼むで。こないお願い蔵ノ介にしか頼めへんからなあ」
深刻な話をしている事に瀬谷は気づいたのか、白石の顔を一生懸命に覗き込んでくる。
「くら、ずっといっしょ?」
「そうやで、千尋の事は俺が守ったる」
瀬谷家は吸血鬼に近い存在にあり吸血鬼と人間の仲介役として先祖代々続いてきたのだが、瀬谷千尋の母の代でそれが途切れてしまい。吸血鬼は人間と関わる事が徐々に無くなりつつあったのだ。
仲介役が居る事を安心して暮らしていた吸血鬼も多く居るため、その事を知った吸血鬼に恨まれ襲われないよう祖母は白石に頼んだのであった。
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白石は上着に腕を通しながら、建物の上を走り抜ける。
最初見た時はこの辺では見ない顔ぶれだと思ったが、千尋ちゃんが楽しそうに話してる彼は俺と同じ吸血鬼だった。それを知ったのはつい先ほど、この外から来る血の匂いで確信を持った。
近くまで来たのか、木に身体を強く打ちつけた仁王が倒れているのが確認出来る。木の後ろに回り、よく見ると腹部と脚を銀の何かで抉られたのか生傷が数箇所見られる。
「なっ…気絶してるやないか!」
「そこにもう一人吸血鬼が居るな?まとめて捕らえてやろう」
自分の位置が敵に知られているため、白石は堪忍して暗闇の中から倒れている仁王の前に立ち、自らの姿を真田に見せる。
「敵の副将さんやないか、悪いけど俺はまともに殺り合うつもりはないんねん…」
仁王の腕を自分の肩に回し立ち上がらせると、暗闇にゆっくりと下がる。その白石の瞳は血の色に変化していた。
真田が勢いよく剣先を向け、突進してくるが目の前が一気に暗くなった。
「な、なんだこれは…!邪魔だ、どけろ!」
視界を遮っていたのは全て黒いコウモリで、真田が全てを振り払う頃には白石と仁王の姿は消えていた。
