笑みを深めた仁王は、再び瀬谷の首筋へと顔を埋める。
そんな瀬谷は唇を奪われた余韻がまだ消えず浅い呼吸を繰り返している。
「大丈夫じゃ、痛みなんてすぐ慣れる…」
「ん…」
ちりっとした痛みが瞬時に首筋を襲ってくるがそれ以上の痛みは襲ってこない、代わりに雅治の喉に私の血が行き渡っているのか耳元で啜る音と喉を通る音が聞こえてくる。
痛みと初めての感覚にどうしていいか分からない瀬谷は、仁王に腕を回ししがみついている事しか出来なかった。
「千尋、こっち見んしゃい」
「まさ、は…る……。血が…」
顔を上げた仁王の口元には血が少し付いており、言われて気づいたのか舌で舐めとる。
月夜に照らされたその姿は吸血鬼と呼ぶに相応しく、とても美しく綺麗だった。
「すまん。お前さんの血は俺をダメにするぜよ…。服は本当にすまんかった……。その、頼むから仕事戻りんしゃい?」
そう言い仁王は瀬谷の額にキスを落とし、建物を駆け上がり瀬谷の家の方へと駆けて行ってしまった。
「雅治のバカ……」
乱れた服を手でどうにか隠し、急いで路地裏から出ようとすると後ろから誰かに肩を叩かれる。
「なっ―」
後ろを振り向いて肩を叩いた人の顔を確認しようとするが、私の意識はそこで失ってしまった。
―――
――
―
瀬谷から預かった鍵で家の中へと入る。慣れ親しんだ臭いが自分を包み安心に変わる、電気を付けカーテンを閉め用意された布団へ倒れ目を閉じる。
口の中に広がるしつこくない甘さ、喉を通る度に身体中が喜びを感じているのが分かり首筋に牙を突き立て血肉を貪りたくなる。
「怖い思いさせたかも、知れんな…」
ふと我に返ると瀬谷の固定電話が鳴っている事に気づく。瀬谷にはディスプレイに電話をかけてきた相手の名前が知っている所であれば出来れば対応して欲しいとの事だが仁王でも知っている名前だった。
それは瀬谷が勤める仕事先、迷わず仁王は受話器を取り耳に当てる。
「もしも――」
「千尋ちゃんは、家におるか?!」
「居らんぜよ。どうした、何かあったんか?」
「お前の事追いかけて出て行った後、こっちに戻って来てへんから心配して電話かけたんや」
電話は仕事場で閉め作業をしている、白石からだった。瀬谷が携帯を置いたままでさらに着替えをしないで帰る事などなく嫌な予感がしたと言う。
「お前なんで、千尋ちゃん一人にしたんや!!…聞いてるんか!にお―」
受話器を静かに元に戻し、出かける準備をする仁王。
嫌な予感しかしない、薄々気づいていたが瀬谷は吸血鬼の自分と近づき過ぎたために、軍に狙われてしまったのではないだろうか…それ以外考えられるハズがない。
脳裏に実験されていた記憶が蘇り、仁王は頭を押さえ苦渋の表情を浮かべる。
「あの、くそ糸目!!千尋に手ぇ出したら殺すぜよ」
