切原に閉め作業は自分がやっとくからと早上がりをさせられてしまった瀬谷は、近くのコンビニに寄って帰宅しようと更衣室で着替えながら考えていた。
着替えが終わりカウンターでレジのお金を数えている切原の後ろを通り、お店のドアを開ける前に瀬谷は切原を見る。
「切原君、お先に…」
「おう、気をつけて帰れよー」
挨拶をする切原の声を確認してから、外に出ると冬でもないのに不思議と肌寒く感じる。
街中は寝静まり静かなのだがどこか胸騒ぎする。風が一つも吹いていない人が全然居ないわけではないのに何か嫌な予感がする。
「コンビニ行くの辞めようかな」
とコンビニを目の前にして帰ろうなんて出来るほど瀬谷のお腹が我慢してくれるわけもなく、財布の中を確認し所持金を手にコンビニの中へと入っていく。
コンビニに入り雑誌コーナーで男性二人がヒソヒソと話しているその後ろを、瀬谷は買い物カゴを持ち歩く。
「なあ、さっき近くの橋の所に吸血鬼みたいなの居たよな」
「かなり弱ってたし…あんなの軍か警察に引き渡されて終わりだろ」
盗み聞くつもりは無かった、けど警察官も話してた通り吸血鬼は危ない存在だし軍の事は余り知らないけど…好奇心というものが瀬谷の心を揺さぶる。
買い物カゴに飲み物と手軽なお弁当を入れ、レジでお会計を済ませお店を出る。
足は自然と近くの橋へと向かっていた、ここで近い橋と言えば誰でも分かる。
一目見たいがために自分でも無謀だと思った、吸血鬼が本当に警察官の言う通り悪い存在なのかそれを確かめるために歩く。
吸血鬼は夜の方が行動しやすいというのは一般常識ではないが、普通の知識として誰もが知っている事だ。
頭の中で思考を働かせている内に橋に着いた、街灯が薄暗く人通りも少なくなってきた時間帯に私は一体何をしているのだろう。
橋の高欄に手を置き川が流れる橋の下を覗く、携帯のライトで照らすが遠くて吸血鬼が居るかどうか判断しかねる。街灯により橋の下は通路になっている事が見える。
瀬谷は近くの梯子を見つけ川脇の通路へと降りる、川はそこまで深くもなく膝下くらいの水深がある。
再び携帯のライトを地面に照らすと地面に赤い液体が落ちているのが分かった、それが直ぐに血だという事も分かり通路の先のその闇深くに吸血鬼が居るということをそれは教えてくれていた。
「そこに…誰か居るの?」
携帯を握りしめ、震える足をまた一歩と踏み出し前へと進む。怖い、帰りたい食べられたらどうしよう…何がここまで私を動かすのだろう。
足元に血の水溜りがあるのだろう足音に水音が入る、橋はそこまで長いわけじゃない。だとすると中間あたりだとすると吸血鬼は一体何処に――。
「血をよこ、せ」
声は瀬谷の真後ろから聞こえ瞬時に携帯のライトを向け、その声の主を確認する。
服が何かで切り裂かれたように至る所が破け、腹部から血を流し手で押さえている。出血が余りにも酷いのか地面を伝い川に流れていっている。
「これが、吸血鬼…?」
思ったより化け物というより殆ど人と変わらない容姿である。吸血鬼は石壁に身体を預け座っている、ライトが眩しいのだろうか空いた手で目を覆う。
「お前から…甘い血の匂いがするのう……吸血鬼を助けると思って、少しでいい…血を寄越すぜよ」
吸血鬼は私が先程自傷した絆創膏の先を指して懇願している。というより脅されていると言っても間違いではない。
吸血鬼を警察官に差し出すと懸賞金が貰える話も聞いた事がある。だがそんな事よりも無謀な私は、この吸血鬼を助けたいと考えていた。
