指に巻いてある絆創膏を取り、近くに両膝を付き手を差し出すと吸血鬼は優しく瀬谷の手を取り口元へと運ぶ。
すると傷口に自らの牙を押し当て治りかけていた傷をさらに開かせる。指を牙に当たらないように口に咥えると舌で転がしたり吸ったりと瀬谷の指で遊んでいる。
傍から見れば異性に自らの指を舐めさせているようにも見える、吸血鬼の傷口はいつの間にか塞がったのか吸血鬼はツラそうな表情から一変し笑みを浮かべている。
指を口元から離されると不思議な事に指先傷口は塞がっていた。
「まだ薬が抜け取らんせいか、まだ足らんけど傷口が塞がったからとりあえず感謝するぜよ」
「薬?大丈夫なの…?」
「大丈夫とは言えんが、人を襲って血肉を食らって腹ん中満たしたいんよ…やからあまり近づきなさんな」
と言い吸血鬼はフラつきながら立ち上がり、何処かへ行こうとする。何を思ったか瀬谷は吸血鬼の服の裾を掴み動きを止める。
「吸血鬼に関わってもロクな事にならんよ」
「わ、分かってる…!」
尚も服の裾を離さなず黙ったままの瀬谷に吸血鬼は観念したのか、行くのを辞め再び向き直す。
「行く場所があるわけじゃないからのう、とりあえずお前の所で厄介になるとするか」
「え?」
「とりあえず服は交換せんとならんから、この時間となると近くのコンビニでシャツとか買ってきて欲しいぜよ。それと歯ブラシセットとかバスタオルとかもあると助かるのう…あとふかふかの寝床があると…」
とりあえず日が昇らない内に吸血鬼が言うものを瀬谷はコンビニで揃えられるものを購入し、自宅へと向かう。異性を自宅へ招き入れるのは何年ぶりだろう、なんて頭の中で浮かべながら玄関を開ける。
とりあえず吸血鬼には汚い身体を流してもらうために、タオルやら買ってきた着替えを渡し部屋を急いで片付ける。
一人暮らしで地元にしか友達が居ない瀬谷に家に招待する友達など居ない、そのためお客を招き入れないため少々家の中にゴミが散乱している。
「そういえば、まだあの人の名前聞いてなかった」
「仁王雅治、お前さんの名前もそういや聞いとらんかったな」
ゴミ袋を縛り玄関の前に置いている瀬戸の真後ろに、仁王は髪をタオルで拭きながら現れた。驚いた瀬谷はまだゴミ袋を結んでいないゴミ袋を再び散乱させる。
「はは、すまんすまん。このゴミさっきの通りにあったゴミステーションに置いてくればええんじゃろ?」
「あ、うん…ありがと」
玄関の鍵を開けてゴミ袋を持ち、タオルを瀬谷に預け外に出る。すると吸血鬼が何かを思い出したかのように振り向く。
「おまんの名前」
「あ…瀬谷千尋で、す」
納得したように仁王は微笑むとゴミ袋を持ち玄関のドアの向こうへと消えていった。
なんだ…吸血鬼ってもっと化け物みたいなものだと思ってた。血を呑む以外は人と変わらないし、普通に顔立ちも良いし吸血鬼ってみんなあんなに美男美女揃いなのだろうか。
しかし瀬谷は知らなかった、玄関のドアの向こうで瞳を血の色ように赤く変え牙を剥き出しにしその姿は、化け物と呼べるに相応しい仁王の姿がそこにあった事を。
「くそっ、あの軍服…!薬に何入れやがったんじゃ…!」
