暖かい頬
吐く息が白くなる。
雪が降っているわけではないが、街を歩く人はそろって手をポケットに入れたり首をマフラーや襟に竦めたりと、防寒で忙しそうだ。
そんな真冬の街中を歩く第三王権者、赤の王・周防尊は、一棟のマンションが視界の隅を通り過ぎたのに気付き、足を止めた。
見ただけでは何十階建であるのかすら分からない高さのそれを見上げ、また視線を下のエントランスへと移した。
周防はしばらくそうして睨みつけているのかと思うほどにエントランスを見続けた後、普段よりも更にゆっくりとした足取りでとマンションへと入っていくのだった。
カギを開ける金属音と、玄関の扉を開ける音。
そこまで体重を意識させない軽い足音は、若干すり気味だ。
カチャ、とドアノブに手を添えて扉を押す。
途端に広がる光景に宗像は重く息を吐いた。
「家主の許可も得ずに何してるんですか貴方は…」
マンションへと入ったはずの周防は、自宅へと帰ったのかと思いきや、普段は対峙することしかしないはずの、青の王である宗像礼司が住むマンションの部屋に居座っていた。
勝手知ったる人の家というのか、周防は宗像のいない部屋のソファーに横になり安眠を貪っていたらしい。
らしい、というのはさすがに帰って来た宗像に気付いたらしく、だるそうに体を起こしていたからそこから推測しただけだからだ。もっとも、推測するまでもなくそこで呑気に伸びをしている周防の顔を見れば寝起きだと一発で理解できるが。
「ん、ああ…飲もうぜ」
帰ってきてそうそうに、ソファーにふんぞり返る周防の傍若無人さに呆れたのだろう、宗像の視線は冷たい。
外で着ていたコートを脱ぎハンガーにかける。
「はぁ、もう…。手は洗ったんですか」
「フン」
周防はまるでどこぞの母のような小言を言う宗像に思わず嘲笑う。
すると横から出てきた宗像の手に頬をつままれた。
「こら」
むに、と外で冷たくなった手の温度が頬に伝わる。それと共に伝わってくる微かな痛みに、周防は眉を寄せた。
「おい」
「ちゃんと手を洗って下さい。流行りの風邪がうつったらどうするんですか」
「ハッ」
再度注意を促した宗像の声も聞かず、いや聞いていたからか、周防はその心配の滲む顔を鼻で笑った。なにをらしくないことをしてるんだと。
そんな周防の視線に腹を立てることもなく、宗像は頬から手を離し、そのまま周防の腕を掴みソファーから立ち上がらせるように思いきり引っ張った。
「っ何しやがる」
「ほら、行きますよ。歩いて下さい。」
「……、」
無理やりにでも洗面所へと連れていこうとする宗像に、抵抗することを諦めた周防は忌々しそうに舌打ちをする。
しかしそれも宗像を苛立たせる要素にはならずに目線を寄こされるだけで、結局、周防は宗像の監視の下に手を洗わせられたのだった。
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こらって言ってる宗像さんとほっぺたつねられる尊さんかわゆい
130128 千
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