15
ヒューゴに服従を強いられてからは鬱々とした気持ちで日々を過ごしていた。
何もできない歯がゆさと、不安感。喉の奥から胸を何かが這うような焦燥感。
苛立った様子に他の者たちはリオンを遠巻きにする。それもまた煩わしい。
恐る恐るといった様子で、リオン宛ての手紙を持ってきた兵士見習いの少年が足早に去って行く。
「ヒューゴ邸からの招待状だと?」
封筒の裏を返せば、差出人はカリナ=ジルクリストとある。
複雑な感情で眉根を寄せた。
中を開けてみれば、そこには"晩餐会へのご招待"とある。オベロン社の幹部たちが一堂に会すらしい。
「オベロン社が一丸で神の眼を探しているということか…」
『坊っちゃん!止めてください、神の眼は人が手にしていいものじゃないんです…っ。小さい頃から話していたでしょう、千年前の天地戦争のことを!』
すかさずシャルティエが叫ぶ。
神の眼を擁する天上軍に対抗するため造られたソーディアンに、ダイクロフト復活の一端を多少なりと担わせようというのは、確かに酷なことだった。彼は戦友をその戦で、神の眼の前で亡くしているのだ。そんなシャルティエに地上軍を裏切らせるのはリオンだってしたくはなかった。
「…でも、どうしろって言うんだ?」
『それは…』
「どこにいるかわからないヒューゴの手先の目を掻い潜って、敵か味方かわからない誰かに助けを求めるのか!?いるかもわからない誰かに?」
『そ、そうだ!国王陛下やドライデン将軍はどうです?きっと力に――』
「言ったところで!客員剣士でしかない僕と、側近のヒューゴとどちらの言葉を信じるって言うんだ!?あいつの耳に入った時点で、マリアンや姉さんがどうなるか…っ!!」
考えるだけで背筋が凍る。そんな危険な賭けをできるほどリオンに力はない。
「シャル…シャル、お願いだ。僕に力を貸してくれ、二人を失ったら、僕は…」
『坊っちゃん…』
「……いや…ソーディアンであるシャルに、こんなこと。マスターである資格なんてないな」
『そんな!まさか、僕を使わないなんて言いませんよね?』
「その方が良い」
沈黙がおりた。
シャルティエのコアクリスタルが、何事か考えるように弱く点滅している。言葉を言いよどんでいるようにも見えた。
ややあってまた話し始めた彼の声は、予想に反して先ほどより穏やかなものだった。
『それこそ止めてください。坊っちゃん、らしくないですよ。いつもなら有無を言わさず強引に引っ張りだすじゃないですか』
「今回ばかりはそうもいかないさ」
『やだなあ、僕がいなくて坊っちゃんだけで十分に戦えるっていうんですか?後で泣きついてきたって知りませんよ』
努めて明るい声音にしているのか、それともまた違う理由からなのか、軽口を叩くシャルティエに少し気分が落ち着く。
「言うじゃないか。僕の実力はシャルが一番知っているだろう?」
『そうですね。坊っちゃんと一緒に戦ってきましたから』
「ああ。…これからも一緒に来てくれるか、シャル?」
『どこまでもお供しますよ。――今の僕のマスターは、坊っちゃんなんですから』
しっかりとした口調で告げられたシャルティエの言葉に、まったくらしくもなく視界が滲んだ。
ソーディアンとしての使命よりも、共に過ごしてきたリオンを選んでくれた彼の決断が、何にも変えがたい唯一の心の支えになってくれそうだった。
「ありがとう、シャル」
『今日の坊っちゃんはどうしたんです?明日は雨かな』
「ふっ。言ってろ」
これから待ち受ける重暗い曇天も、二人でならきっと足を止めずに済む。
リオンは瞑目して彼の剣を握りしめた。
2016.09.07投稿
2016.10.25改稿
2017.11.07改稿
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