01

「ハーメンツに賊が出た。討伐に赴け」
「賊退治、ですか?」
「ああそうだ。だがただの賊ではない――ソーディアンマスターがいるらしい」
「!?」


 緊急の任務だとヒューゴに呼び出され、ついに計画が始まるのかと思い詰めて邸に出向いた。しかし聞かされたのはそんな話。
 不思議なことだが、ソーディアンマスターが自分の他にもいるとは思ってもみなかった。考えればおかしなことではないのに。


「奴らをソーディアンごと回収してこい」


 ダイクロフトを復活させようというのに、ソーディアンを集めてどうしようというのか。
 疑問に思いはしたが、問うたところで答えが返ってくるとは思えない。簡単な挨拶をするとすぐに邸を出た。


『他のソーディアンと顔をあわせることになるなんて…』
「どうした?シャル」
『今目覚めているなんて、誰なんだろうと思って』


 あれは違うこれは違うと、名前を出しては唸るシャルティエ。
 この裏で動く計画のことがなければ何も気にせずかつての戦友と再開できただろう。その後ろめたさを誤魔化すためなのかもしれない。


「ソーディアンを持った賊、か」
『盗掘犯のマスターに従うソーディアンなんて、思い当たらないんですよね。だから誰なのか気になって』


 シャルティエの疑問が、遥か昔の思い出ばなしに変わる頃にようやくハーメンツに着くことができた。そこまで長い距離でもないが、重い気持ちと時代を隔てた話とでずいぶん遠くまで来てしまった気がしたのだ。
 捕物は既に始まっている。それどころか、賊の方がセインガルド軍を圧倒しているらしく、村の入り口には負傷兵が治療を受けているのさえ見受けられた。


「リオン様!お待ちしておりました。敵は奇妙な剣を所持していて…こちらの歯が立たない状況です」
「ふん。セインガルド軍ともあろうものが情けないことだ。逃がしてはいないだろうな」
「…はっ。村の奥で包囲しています」
「僕が止めてやる。行くぞ」


 村の奥に行くにつれ、剣戟の音が激しくなる。
 辺りで倒れている兵士の数からしても賊はかなりの数を相手にしたはずだが、それでも持ちこたえているというのか。


「とんだ体力馬鹿だな…」
『うーん…』
「どうした?シャル」
『坊っちゃん…敵の持つソーディアンがわかったかもしれません…』
「それにしては乗り気じゃないようだな」
『ううん……、人間的に苦手な相手なんです』


 それ以上何も言わないシャルティエに追求するわけにもいかず、その態度に疑問を抱いたまま進む。
 兵士たちが数人の男女を囲んでいるのが見えた。


「ええい、何をやっている!相手はたかが三人だというのに!」


 指揮官らしき兵士が怒鳴るのが聞こえた。賊はそれを警戒するどころか、挑発するような態度の者までいる。


「ずいぶんと余裕なようだな」
『うわあ、やっぱりディムロス…ん?あれ…』


 シャルティエが何かに気付いたようだが、今にも包囲を突破されそうな気配だったために問うことはできなかった。


「どけ!」
「あ、あなたはリオン様!」
「役立たずどもが……おい、周りで寝ている奴らもとっとと起きろ。あいつらは僕が片づける」
「は、はっ!お願い致します…」


 さすがに空気が変わったのを察したのか、相手の顔にも緊張がはしる。赤毛の女性はにやりと好戦的な笑みを浮かべていたが。


「国軍に反抗する馬鹿どもが。大人しくしていれば手荒な真似はしない。さもなくば……どうなるかわかっているだろう?」
「大した自信じゃないか!」
「ガキは引っ込んでなさいよっ」
「二人とも…そんな相手を挑発するようなこと」
「…警告に従わないと言うならそれでもいい。悪人に人権は無い、実力行使だ」
「ちょ、待ってくれよ!」


 金髪の男は積極的に戦いたいというわけではなさそうだったが、それでもリオンが向かっていけば思い直したように剣を構えた。
 かなり荒削りで戦闘慣れしているとは言い難いようなものだったが、その剣は重く、時折こちらの死角から的確に狙ってくるような鋭さも見える。だが、まだ未熟で到底リオンに敵うものではなかった。


「これがソーディアンマスターだと?」
「なんだって?うわっ!!」
「あっ!スタン!?」


 隙だらけの振りの隙間を突き、金髪の男を倒す。
 そのまま回復をしようとする女を攻撃に行くが、その前に斧を持った女性が立ちはだかった。


「ルーティ!早くスタンを回復してやれ!」
「オッケー!ありがと、マリー」


 ソーディアンを持たない者など相手にはならないが、先ほどの男と違いこちらの斧は戦い慣れた者のそれで意外に粘ってみせた。だがそれもリオンとシャルティエの前には容易い敵だ。


「あっ!?あんた、よくもマリーまで!」
「さあ、後はお前だけだ。どうする?」
「うっさいわね、かかってらっしゃい」
「ふん…」


 早い動きで翻弄するように動く、ルーティと呼ばれた女性。
 剣が光を放ったのに気付き見てみれば、その手にはソーディアンが握られていた。


『ソーディアンマスターが二人…?』


 こんな偶然があるとは思えなかったが、偶然で片付けるにはあまりに見過ごせないものだった。
 けれど考えても相手の攻撃が止まるわけではない。素早く背後に回り込んで腕から剣を叩き落とした。


 遠巻きに戦闘を見ているばかりだった兵士に指示を出し三人を捉えさせる。さすがに大人しくなるかと思ったが、縄をかけられてなお抵抗しようとする彼らにはさすがに呆れた。


「くそっ……」
「ふん、驚きだな。ソーディアン所持者が二人もいたとは…だが、まだまだ未熟だな。その程度の腕ではソーディアンが泣くぞ」
「そんなの勝手でしょ!あんたに言われる筋合いないわよ」


 またもやあの女が突っかかってくる。彼女は随分とこちらを警戒しているようだが(賊が軍に捕まったのだから当然といえば当然だ)、それにしてもかしましい。
 カリナとは大違いだ。それはある意味では救いかもしれない。


『ルーティ、ちょっと落ち着きなさい』
「これが落ち着いてられるっての?何されるかわかったもんじゃないわ!」
『まったく、坊ちゃんに逆らうからだよ』
『この声…シャルティエか!』


 先ほどから沈黙していたシャルティエがようやく声をあげる。少し、楽しそうだ。
 新しく聞こえた声は男性。そのマスターである金髪の男は状況が飲み込めないらしく、彼のソーディアンに説明を迫っている。


『シャルティエは古の戦争の時の仲間だ』
「ってことは、向こうも……」
『あぁ、ソーディアン使い、ということのようだな』
「同じソーディアン使いなら見逃してくれたっていいじゃないのよ!」


 一々口の減らないことだ。
 もはや姉かどうかよりも呆れの感情が強くなって、ため息を吐く。
 それにすら文句を言ってくる始末だ。


「何よ!戦友の絆ってやつを配慮してやらないわけ?」
『そんなこと言ったってだーめ。だって、僕は坊っちゃんには逆らえないもん』
『その坊っちゃんっていうのは何者なの?』
『リオン坊っちゃんは僕のマスターだよ。セインガルド王国の客員剣士ですっごく偉いんだ』
『セインガルド王国?』
『第一大陸の北方に戦後に建設された王国よ』
『初耳だな』
『あなたはずっと眠っていたから知らないでしょうけど』
「第一大陸って?」
『ここがそうよ。昔はそう呼んでいたの』
「ふーん」
『それはそうと。シャルティエ、お前、口調が変わったな』
『そう?坊っちゃんの影響かな…まあ、僕もいろいろと苦労してきたからね』
『ソーディアンの言うこととは思えんな…』


 黙って聞いていれば、どんどんと話が脱線してゆく。頭痛がするようだ。
 こんな賑やかで、こんなに疲れるような会話は初めてだったのだ。聞いているだけなのにこちらが疲弊してしまう気がした。




「…シャル!」
『わかってますよ、坊っちゃん。もう黙ってますってば……』
「まったく。お前らもおしゃべりはその位にしてもらおう」


 些か不服そうな声でシャルティエが従うと、ソーディアンと話をしていた二人はまるでリオンの存在を忘れていたかのようにハッとこちらに向き直った。
 まだ抵抗する気だろうか?警戒しつつ武器を渡すよう促す。


「はいはい、わかったわよ!」
「おい、リオンとかいったな。俺たちをどうするつもりだよ」


 意外と素直に従ったが、ふてぶてしい態度は崩れない。
 特に金髪の男などは、賊でありながらあくまで対等に話そうとする。その態度に少し苛ついた。


「罪人の行き着く先は一つだ。せいぜい首でも洗って待っているんだな。――こいつらをダリルシェイドに護送しろ」
「はっ!」
「罪人って…ちょっと待ってくれよ!」
「なーんであんたなんかにつかまんなくちゃいけないのよ!!」
「…さっさと連れていけ!」
「はっ」
「ちょっと、なによっ!放しなさいよ、ばかーっ!!」


 武器は簡単に放したのに、連行されるとなると抵抗する。
 こんなに大事になるとは思っていなかったのか?王国の管理する遺跡に入って、荒らして…それでも?
 立ち止まっているリオンからはもう離れた位置に連れられていったというのに、彼女の声だけは良く聞こえる。


「……うるさい女だ」
『彼女のソーディアン、アトワイトですよ。もしかしたらあの娘』
「言うな!もしそうだとしても、あんなのが姉さんだなんて。そんなの…」
『坊っちゃん…』


 動揺を抑えるように深呼吸をする。
 ソーディアンを持った、"ルーティ"。だとしたらカリナは、姉だと思っていた彼女は一体誰だというのだろう。


「あんな奴に弟だと名乗ってどうなるっていうんだ?鼻で笑われるのが関の山だ」
『そんなこと言って…。でも、このままだとあの娘、処断されてしまいますよ』
「ふん。知ったことか。それにヒューゴが連れて来いと言った以上、簡単に処刑などされないさ」


 もしやヒューゴはここにいるのが自分の娘だと知っていたのではないか?そんな気さえしている。


「シャル…あいつらとはしばらく関わることになるかもしれない。大丈夫か?」
『そうですよね…まあ、なんとかやります』


 かつての仲間たちを欺かせ、裏切らせるようなことになるなんて。口に出せばまたシャルティエに文句を言われてしまうから言葉にはしなかったけれど。
 ――あの能天気なメンバーと関わることに不安も覚えたが、いずれにせよ彼らと深く関わることにはならないだろう。利用される身同士だ。違うのは自覚しているかしていないかだけ。
 少し同情はしたが、何も知らない方がまだしあわせなのではないかと暗い気持ちの方が強かった。
 今のリオンには、大切な存在を守るために正しくないとわかっていることに従うより他に道はないのだ。彼らとその道が交わることはないだろう、きっと。








2016.09.12投稿
2016.10.25改稿
2017.11.13改稿


 
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