02

「連れて参りました」


腕を拘束されたまま地下牢から謁見の間に連れられてきた賊たちは、そこに座るのが王とわかっても(わからない者もいるようだが)その態度を崩さない。しかも、あろうことかそのまま挑戦的な態度で言葉を投げかけるのだ。


「王様直々に何の用かしら?」


 王にたしなめられても反省の色も見せない。
 リオンは頭を抱えてしまいそうになった。これから裁かれるというのに、自分の立場を悪くしてどうするつもりだ?


「お待ち下さい、陛下」


 囚人たちの振る舞いにざわめいていた広間がヒューゴの声で一瞬にして静まる。
 その沈黙から一拍おいて、セインガルド王が彼を睥睨した。


「ヒューゴか、何だ?」
「陛下はソーディアンの存在をご存じですな」
「愚問だヒューゴ。それがどうしたというのだ?」
「この者どもはソーディアンの使い手です」


 はっ、とリオンに緊張が走った。


「貴重な素質な持ち主をみすみす殺してしまうのは惜しい――どうでしょう、この者どもをストレイライズ神殿へ派遣するというのは?」


 提案というよりは決定事項かのように言うオベロン社総帥。しかし王は渋面をますますしかめた。


「いくらそなたが私の信頼厚い側近といえども、それだけは認めるわけにはいかん。こやつらは犯罪者なのだ。それを野放しにするような真似はできんだろう」
「その点はご心配なく。彼らを野放しにするような事はいたしません。
囚人監視用に作らせた装置を取り付けさえすれば逃げる心配はありません。…カリナ」
「はい」


 ヒューゴの影からカリナの声がした。
 ますますリオンの思考は重苦しくなって行く。このまま駆け寄って、真実を聞いてしまいたい。
 拳に食い込んだ爪の痛みでどうにかそれを押し留める。
 相変わらず姿の見えない彼女は、手に持っていた機械を衛兵に渡すと、囚人それぞれの頭に着けさせた。


「こちらの装置は囚人の頭部に固定することで位置の特定や遠隔操作による電流攻撃などができます」
「なんですって!?そんなもんつけられちゃたまんないわ!」
「自分で外そうとすると窒死量の電流が流れます。無理にいじらない方が賢明ですよ」
「く…っ、意地の悪い装置ね」
「なるほど、逃走を試みた時にはその装置で抑止するのだな」


 ふうむ、と王も頷く。


「いや、しかしだな…」
「監視役の一人でも付ければ十分…とは思いますが、何かわけがあるようですな」


 促すヒューゴの笑みは、まるで王の口から何が語られるのか知っているようだった。
 それにも気付かず王は他言無用だ、と前置きして渋々話し始める。


「神の眼の名を聞いたことはあるな。あれが神殿の地下に安置されておる」
「なんと!」


 ああ、ついに神の眼の在り処がわかってしまった。ヒューゴが長年探し求めていた神の眼。ダイクロフトの復活が現実味を増してしまう。
 絶望するリオンと反対に、どこか喜色を滲ませてヒューゴが声をあげる。


 神の眼の言葉を聞いて平静でいられない七将軍も事の重大さに自分がと名乗りを上げるが、国王は民衆の混乱を招くことを恐れ公にしてはならぬと言う。


「では、やはりこの者たちを使うのが最善の策かと。ソーディアンは神の眼と同じ時代に造られたもの。その能力が役に立つのでは?」
「だがこやつらで大丈夫なのか?ヒューゴよ」
「リオンを監視役に。ご心配には及びません」
「ふむ、リオンをな。わかった、そちに任せよう」


 ヒューゴに名を呼ばれ、王の目もこちらに向いたのを感じる。咄嗟に一礼した。
 兵士に縄を解かれた囚人たちがまた騒ぎ出した。


「ちょっと、そこのおっさん。神の眼だか悪の眼だか知らないけど、ちゃんと報酬をくれるんでしょうね?そうでなきゃ、こんなのやってられないわよ!」
「おい、おまえ、罪人の分際で!口をつつしめ!」
「なによ!」


 女――ルーティの言いように思わずぞっとして言葉を遮ろうとする。
 あのヒューゴに、そんな暴言を吐くなどと。…それに、彼女は知らないとはいえ実の父かもしれない人物におっさんなどと言うのはなんだか釈然としなかった。


「元気のいいお嬢さんだな。命だけでは報酬が足りないと言うらしいが…ルーティ君、だったね?」


 にやり、とヒューゴは口を歪めた。


「今は約束できないが…どうかな、成功報酬ということでは?君たちが見事に任務をやり遂げたなら、私の方から報奨金を出すことにしよう」
「へえ、意外と話がわかるじゃない」
「後で私の屋敷まで来なさい。君らに渡しておく物がある。…それと」
「なによ?」
「私はオベロン社の総帥、ヒューゴ=ジルクリストだ。覚えておいてくれたまえ」
「げ、オベロン社総帥って…まさか、あのオベロン社!?」
「そういうことだよ、レンズハンターのお嬢さん。それでは私はこれにて」


 踵を返したヒューゴの背中を睨む。ことさら優しくしてみせたのも、わざわざ彼女に名乗ってみせたのも、リオンに対する当てつけのように思えた。
 カリナもあの男に続いて謁見の間を出て行ったのだろう。後にはリオンと囚人たちが残された。


「で、あたしたちは一体、何をやればいいのよ」
「お前たちには二つの任務を与える。一つは神殿の状況視察だ」
「もう一つは?」
「もし何かが起こっていた場合、全力をもって阻止することだ。手段は問わない」
「何かって、何です?」
「それは現場の任務だ。その辺りはリオンの指示に従ってもらう」


 その言葉を聞いた途端にルーティが嫌そうな顔をした。


「子供にそんな重要な事を任せて大丈夫なの?」
「おい」
「リオンの技量は七将軍にも匹敵するものだ。心配には及ばん」


 王からの言葉を苦く噛みしめる。信頼がこんなにも自分を苦しめるなど、皮肉でたまらない。
 そうして眉をしかめていたのを、自分の言葉への反応だと思ったのかまたルーティがつっかかってきた。
口の減らないことだ…カリナとだってここまで会話(会話と呼べるかどうかは別として)をしたことはない。
 姉かもしれない彼女を意識しないようにしていたというのに、これからの道中でそれは難しそうだ。
 そんな憂鬱な気持ちを込めて、リオンは嫌味を吐き出した。


「おまえらこそ、僕の足を引っ張るなよ」


 いっそ相容れないと関わらなければいいのに。そう思っても彼女の言葉は止まったりしないのだ。







2016.09.20投稿
2016.10.25改稿
2017.11.13改稿


 
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