03

 国王に散会を告げられ、囚人たちを邸へ連れてくることになったリオンは苛々していた。
 これもあのルーティとかいう女のせいだ。ことあるごとにリオンにケンカ腰でつっかかってくる。
 苛立ちを振り払うように、いつも邸の客人を出迎えるはずのマリアンを呼んだ。しかし彼女は来ない。
 代わりに姿を現したのはレンブラントだった。


「おや、坊っちゃん。いらっしゃい」
「その呼び方はやめろと言ったはずだぞ」
「アハハハハ!坊っちゃん、だって」
「口の利き方に気をつけろ!」


 口を開けばこれだ。
 衝動のままに、先ほど渡された監視装置のスイッチを押す。


「きゃあああっ!!………こ、このっ!」
「何か言ったか」
「いーえ、なーんにもっ!」
「だったら黙ってろ」


 この家に生まれたかもしれないのに、ヒューゴの呪縛に縛られることなく生きているルーティ。そんな彼女に、"坊っちゃん"とヒューゴの息子であることの象徴であるような呼称を囃されたのに、無性に腹が立った。


「ところで、そちらの方々は?」
「気にしなくていい。なりゆきで同行することになっただけだ」
「随分な言いようだな…」
「それ以外に何かあるのか?」


 それでもなお文句を言うスタン――邸までの道中に囚人と呼んでいたところもう解放されたからと自己紹介された――をあしらっていれば、レンブラントはハハと笑った。
 この老人は幼い頃からリオンを知っているせいで要らぬことを言うのだ。


「つまらないことを言わないでくれ」
「ともかく、リオン様のお連れの方とあらば丁重におもてなしいたしますぞ」
「悪いがそんなことをしているほど暇じゃない」
「それは残念」
「ヒューゴ様は書斎だったな、行くぞ」
「ふん、だ!」
「…つきあいきれんな」


 よくもまああんなに反発できますね、とシャルティエがこぼした。
 それも当然だ。ここまで感情あらわにリオンに反抗的な態度をとる人物など、今までいなかったのだから。
 そんなことを考えながら一行を先導していると、書斎へ行く前に広間でヒューゴに出くわした。


「意外に早かったな」
「…ヒューゴ様」
「まあ、ここではなんだ。大広間の方で話すとしよう」


 ヒューゴの隣にはカリナがいた。彼に二言三言告げられ、こちらへ軽く会釈するとどこかへ姿を消してしまう。
 一瞬その姿を目で追い歩き出すのが遅れるとすかさずルーティが文句を言った。
 スタンになだめられているが、今度は矛先がそちらに向いてしまい慌てている。にぎやかなことだ。
 すれ違うメイドがほほえましげに見ているのも、この邸では見られなかった光景。
 べたべたと塗りこめられそうな今までの空気に窒息しそうだ。喘ぐように首を振って歩を速めた。


 大広間には既に客人を迎える準備が整えられていた。
 机の上の紅茶に手を伸ばせば、いつもの香りが広がる。きっと淹れたのはマリアンだ。少しだけ気分が落ち着いた。


「それで?こんなところに呼んだ理由はなんだっていうのよ?」
「ふふ、まあそう慌てるな。君たちに渡す物があるといっただろう…カリナ、例の物をここへ」
「はい」
「あれ、確かお城にいた…」
「この変な装置着けたやつじゃない!」
「そうだ、紹介しておこう。彼女も今回の任務には同行することになっているからな」
「!」


 カリナが任務に同行する?非戦闘員だと聞いているのに、何故?
 寝耳に水の事実に不審げな目をヒューゴに向けたが、その男はこちらには目もくれない。


「これは私の娘のカリナだ。普段はレンズ技術の開発に携わっていてな。今回のことでも何か役に立つだろう」
「…カリナです。どうぞよろしく」
「彼らにソーディアンを渡してやれ」
「はい。こちらに」


 二振りのソーディアンがルーティとスタンの前に置かれる。


「ディムロス!」
『また暗い倉庫に逆戻りかと思ったぞ』
「アトワイト!」
『本当に、どうなることかと思ったわ』
「リオンのシャルティエと合わせ、ここに3本のソーディアンが集まったことになる。古の天地戦争で世界を救ったのは6本のソーディアンだったというが」
『その通りだ』
「そして、その半数がここに集った。考えてみればすごいことだな」


 なあ?とヒューゴはカリナに振ったが、めずらしく彼女はうつむいたまま反応をみせない。


「さて、諸君に改めて任務を伝えよう」
『任務だと?』
「ああ。それで牢から出してもらえたんだ」
「君たちの今後がかかっていると言っても過言ではない。励んでくれたまえ」
「任務達成の暁には報酬をくれるって話、ちゃんと覚えているわよね?」
「もちろんだとも。そのためにもストレイライズ大神殿へ向かい、何が起こっているのか確認するんだ」
「はい、わかりました。まかせてください!」
「ふ、君らの成功を期待しているよ。」


 その成功の先に何があるのか。
 何も知らない、のんきな金髪頭ははりきっているが、リオンの胸中には暗雲が垂れ込めている。
 カリナが一緒に来るなんて。
 本当の姉かもしれない人と、本当は姉ではないかもしれない人と。これから任務の間ずっと側にいるなんて、どうしても二人について考えざるを得ない状況に置かれて、どうしろというのだろう。


『坊っちゃん…』
「シャル、お互い気が重いな」
『…そう、ですね』


 わずらわしい旅になるだろう。
 心の憂さを晴らすために、マリアンに会いたい。
 自分の決意を確かめるためだと、リオンは我儘とわかりつつも一人マリアンの元へ向かった。








2016.10.04投稿
2017.11.13改稿


 
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