06
神殿から運び出されたという神の眼の行方を追って、一行はダリルシェイドへの道を戻った。ことの次第を国王に報告しなければならないこともあったが、一番近い町アルメイダで、大勢の神官が王都への街道を行くのを見かけたという証言を手に入れたのだ。彼らは巨大なものを運んでいたという。
「私は総帥にご報告を。リオン様は国王陛下に状況をご説明ください」
「はっ…僕たちも後から邸に伺います」
「それでは皆さん、また後ほど」
ダリルシェイドに着くと、カリナは邸で待つヒューゴのところへと別行動をすることになった。今後について指示を仰ぐのかもしれない。
「僕たちも行くぞ」
「なによ、威張っちゃって。カリナには頭上がらないくせに」
「それぞれに相応の態度をとっているだけだ」
「あら、じゃあ歳上のあたしにもちゃんと敬意を払いなさいよ」
「歳上なら歳上らしい振る舞いをしたらどうだ?それなら考えてやらないこともない」
「なーんですって!?」
この女はすぐこうだ。いつだってリオンに因縁をつけて絡んでくる。
とても煩わしい…はずだったのに、段々となれてきたのかそこまで不快ではなくなってきた。それどころか、こんなつまらない応酬にわずかでも楽しさを感じているなんて、そんなのは気の迷いだと思いたい。
これまで気を張ることなく、立場に縛られることなしに同年代の者とした会話なんてなかったから、少し新鮮なだけなのだ。
『カリナさんに何も訊けませんでしたね』
「そうだな…二人きりになることもなかったし、仕方ない。また機会はあるさ」
こっそりとシャルティエと言葉を交わす。
そう、ヒューゴの目の届かないところでカリナに計画についてどう思っているのか聞きたかったのだ。
しかし、他に同行人もいるし計画のことを聞かれるわけにはいかない。その中でどうにか話をするのは無理があった。
「そういえば…リオンとカリナも長く一緒にいるのか?」
「マリー、あんたどうしてそんなこと訊くの?二人ともよそよそしかったじゃない」
「いや、なんというのだろう。なんだか気心知れたような雰囲気を感じることがあったから」
「へえ?実際のところはどうなの?」
「ふん。誰がお前らに…」
『僕たちほどじゃないですよ!』
「シャル!」
またもやおしゃべりを発揮したシャルティエをにらみつける。
しかしそれも遅く、ルーティは良いことを聞いたと変な笑いをもらしていた。
「そうだったんだ〜あんた、シスコンだったんだ」
「な、なんだと!何でそうなる!」
「だって、長いこと一緒にいたなら姉弟みたいなもんでしょ」
「うるさい、黙れ!だいたいお前らにとやかく言われる筋合いはない!」
「カリナが姉ならいいじゃないか。俺の妹なんて毎朝フライパンとお玉持って叩き起こしにくるんだぞ」
「あんたのは自業自得よ…」
話がスタンに向いて安心する。思わずドキッとした。
実の姉に他人を姉だと言われる、どうにも複雑な状況だ。
これ以上カリナとのことに言及されては身がもたない。城についたからと無理矢理に話を打ち切らせた。
城で王に報告を終えると、巨大な荷物について何か情報を得られないかと港に寄ってみることになった。
巨大な荷物を運ぶには陸路よりも海路の方がやり易い。きっと船を使うだろうと踏んだのだ。
「でかい荷物?そういえばそんなのを運んでた業者がいたけど、すごかったらしいな」
「なんでも搬入をした水夫が荷物の先っちょを落としそうになっただけで即刻クビだ」
「ああ、よっぽど高価なものだったんだな」
まさにそれだ、と一行は沸き立った。
更に手がかりが欲しいと問いただしてみれば、敵は不用心なほどに跡を残していことがわかった。
「行き先?カルバレイスに行くとか言ってたっけかな」
「これでこっちのもんね!追いかけましょう」
「カルバレイスか…バルックの管轄だな」
「バルックって?」
「オベロン社のカルバレイス方面の管理者だ。何度か会ったことがある」
「じゃあ、その人にお願いすれば!」
「だといいがな」
バルックもオベロン社の幹部で、天上世界復活計画に携わっている。
もしかしたら、港で神の眼を足止めできているかもしれない。
「とにかく、船を出すよう申請しよう」
「おい、あんたら。海路は最近怪物が出るって噂があるから気をつけるんだな」
そう言って船へ戻って行った船員の言葉に思い出した。ある海域に怪物が出るとかで、そこ一帯の運航が制限されているのだ。
「…ひとまずヒューゴ様の邸に行くぞ」
呑気に神の眼にすぐ追いつけそうだと笑い合うスタンたちを急がせた。
「リオンか。カリナから報告は受けている。何かわかったか?」
「港で聞いた話では、どうやら神の眼はカルバレイスへ運ばれたようです」
「ほう、カルバレイスか」
「はい。カモフラージュされた巨大な荷物を運んだという業者がいます」
「おそらくそれだろうな。王に頼んで船を出してもらえ。カルバレイスへ行かないことには話にならんだろう」
「それでしたら、私が王にお話を。皆さんはこちらの邸でお休みください」
そう言ってカリナが大広間を出て行った。
彼女を待つ間、応接室にはヒューゴも残っている。ルーティは相変わらず呑気にしているが、リオンはヒューゴが何か言い出すのではないかと気が気でない。
早くこの部屋から出たい、と頭を痛めていた。
「王にカルバレイスへの出港許可を頂きました。オベロン社の者に船を手配させましたので、すぐにでも後を追えます」
「そうか、ご苦労だったなカリナ」
ありがたいことに、カリナは数十分で戻ってきた。船は出航準備の済んでいた船をこちらにまわしたらしい。
その手際をヒューゴに褒められて、わずかに彼女の口元が緩んだ。その様子は純粋に父の言葉を喜んでいるように見える。
――そういえば、とふと思った。彼女が本当の姉ではないのならヒューゴの娘でもないはずだ。それならば、何故ああもあの男に尽くすのか?やはりカリナが姉ではないというのは早とちりだったのか?
そうだ、もしかしたら見つけた日記以外にもそれより前の日記があるのかもしれない。そちらに彼女のことが書いてあるのかも…と思ったが、日付けからしてそれはなさそうだった。
悶々と考えを巡らせながら二人を見ているのに気付いたのか、ヒューゴの視線がこちらに向く。
「いいか、リオン。神の眼を必ず取り戻すのだ…奪還なくしての帰還はかなわぬと思え」
「…はっ」
「マリアンもお前の無事な帰りを待っていることだろう。期待しているぞ」
「っ、お任せください」
全てを飲み込んで返事をしたリオンを、ヒューゴは何の感情もない瞳で見ただけだった。
マリアンは己の手の内にあると、今さら言われなくとも痛いほどわかっているというのに。
「リオン様、すぐにでも出発できます。行きましょう」
「…ええ。お前たち、いつまでも座っているな」
「ああ、早く追いかけなくっちゃな!」
スタンの明るい声がその場の雰囲気をかき散らす。今だけはその能天気さに救われた。
カリナもこちらをじっと見つめている。
これ以上何かを言われる前に大広間から出てしまおう。そうでなければボロがでる。
それでは、とヒューゴに背を向けるその瞬間、確かに嘲りを隠さない笑みがその顔に広がっているのを見て、ぎゅっと拳を握った。
2016.10.25投稿
2017.11.15投稿
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