07
「なんか、いやな雲行きになってきたわよ」
「シケるのかな?それとも…」
ごくり、とスタンが唾を飲み込む音が聞こえた。その顔は強張っている。
この船の船員が、先ほどした話が原因なのだろう。
カルバレイスへ向かう航路に"魔の暗礁"と呼ばれる海域がある。なんでもそこに巨大な怪物が出て、船を沈めてしまうらしい。
「ふん、くだらんな。化物が出るんだったら倒せばいいだけだ」
「あんたって、見かけによらず臆病なのね」
「だって…」
スタンが反論しようとしたまさにその時、見張りの船員が警告音を鳴らした。
噂をすれば影というが、まさか化物ですらその例に漏れないとは。
急いで甲板にかけつければ、海面から巨大なモンスターが顔を覗かせた。
「なんだ、こいつは!?」
『なぜ海竜がこんなところに!』
ソーディアンがその怪物を知っているような口ぶりだったので、弱点はないのかと問う。
『あなたたちの歯の立つ相手ではないわ』
「んなこと言ったって、こんなところじゃ死ねないわよ!」
「どっどどど、どうするんだよ!」
「戦うっきゃないでしょ!」
ソーディアンを構えるルーティ。それにはっとしてスタンも前に出た。リオンもシャルティエを抜いたが、これまで通り余裕の表情ではいられない。
船の上から攻撃するのでは射程距離に制限がある。海上の敵にいかにしてダメージを与えるのか?晶術で攻撃するにしても、相手の攻撃を阻めなければ詠唱時間は確保できない。
万事休すか、と思ったところで後ろから白い影が飛び出して来た。
「待ってください!」
「フィリア!?危ない、下がってろ!」
「大丈夫ですわ、スタンさん。…私を、呼んでいる」
「ばかなことはやめなさい!」
フィリアは組んだ指を胸の前に掲げ、目を伏せて何かを感じとろうとしている。
抑えなければすぐにでも海竜のもとへ向かってしまいそうな様子に、マリーがすっとフィリアから手を離した。
「フィリアは大丈夫だ。みんな一緒に行くぞ」
「マリー、何言ってんのよ!あ、ちょっと!」
「私に乗れと言っているわ…」
「フィリア、待つんだ!」
ふらふら、と海竜が開けた口の中に飲み込まれていく白い神官衣。
その後にスタンが続いた。
「スタンっ!あんたまで何やってんの!」
「放っておけないだろ!」
「あー!もう、わかったわよ!手がかりを失うわけにはいかないからね!ほら、リオンも来なさい!」
『どうします、坊っちゃん?』
まだ出会って間もないというのに、彼らの行動に頭を痛めるのは何度目だろう。
ため息を吐いて、船長に向き直った。
「おい、船長」
「なんだ」
「一時間で戻らなかったら構わないから先に行け。いいな?」
「…わかった」
「まったく、とんだ疫病神だ!」
『坊っちゃんが同行を許したんじゃないですか』
「うるさい、黙ってろ!」
「リオン様」
シャルティエに怒鳴りつけるリオンの肩に繊手が触れた。
振り返るとカリナが小さなポーチを差し出している。
「気を付けてください」
「…ありがとうございます」
天地戦争時代のものらしき海竜の中ならば彼女もともに来るのかと思えば、ここで待っているらしい。危険な場所なのだからその方が安全なのに、少し残念に思った。
手渡されたポーチを握りしめる。
奥から聞こえる呼び声に向かって、暗い海竜の口に踏み込んだ。
2016.11.01投稿
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