08

 海竜に連れられて着いたのは海底都市のようなところだった。フィリアが声のするという方へ先導したためすぐに目的の場所へはたどり着けた。そこにはソーディアンが待っていた。
 クレメンテ――術攻撃を得意とするソーディアンらしい。これで六振りのうち四振りが揃った。それが神の眼のことと関係しているのか、この世界にとって良い方向に向くのか、リオンにはわからなかった。


「ねえ…さん」
「…リオン」


 海底での探索の疲れを癒すため、カルバレイス到着までは個々の自由時間にした。特に話しておくべきこともなければ、連中と話したいとも思わなかったからというのもある。
 甲板にいると聞いたカリナを訪ねると、彼女は素早く辺りを警戒した。


「誰がいるかわからない。気を付けて」
「はい。これ…ありがとうございました」


 海竜に乗る前にカリナから渡されたポーチには、水属性の敵と多く遭遇するだろうことを見越していたのか、アクアマントなどのアクセサリやいくつかの属性のディスクが入っていた。


「憶測で水属性に対応できそうなものを渡したけれど、大丈夫でしたか」
「ええ。ルーティは特に世話になっていましたよ」
「そう。ならよかった」


 淡白に頷くと彼女は手元に視線を戻す。何かの装置と工具が握られていた。
 たまにソーディアンのメンテナンスもするカリナの技術には、当のソーディアンたちも驚いていた。彼女ほどの技術者はかの天地戦争時代でも少なかったと。


「姉さんにも見せたかった。海底に都市があったんですよ、あの古の戦争の時の技術がたくさん残っていそうな」
「海底、都市?」
「姉さんにもきっと興味深いものがたくさんあって」
「…そう」


 何かを考えるように黙り込んでしまったカリナ。
 リオンを見ることなく思考に没頭してしまった彼女に、少し腹立たしさを感じた。
 確かな言葉がほしい。リオンは弟だと、大切に思っていると。


「姉さんは、父上のことをどう思っているのですか」
「どう?」
「僕は…神の眼を、天上を蘇らせて人々を支配するなんて。そんなの賛成できません」


 言って表情をうかがおうとする。彼女は遠くを見つめていた。
 現実ではない、どこか違う世界を眺めるような瞳。
 背筋がぞっとした。


「そのような言葉だけでは、あの方の崇高なお考えは理解できないかもしれない…けれど大丈夫。あの方のご命令に従っていれば、何も間違いはないのだから」
「――そんな、」


 マスク越しの僅かな隙間からしか見えないが、それでもその目が迷いを孕んでいないことは確かだった。
 カリナにはリオンなど見えていないのかもしれない。


「何故、姉さんはそこまで…」
「――あ、おーい!いたいた!」


 リオンの声を遮ったのは、あの能天気なスタンだった。
 タイミングの悪さに苛立ちが抑えられない。


「何だ、うるさいぞ!」
「あれ、話し中だったか?ごめん、ごめん」
「いいえ。それよりもご用ですか?」
「あ、うん。カルバレイスってどういうところなのかとか聞いておこうと思って」


 そんなことのために邪魔をされたのか、と憤る。
 だいたい、このスタンという男は気にくわないのだ。どんな時もヘラヘラして絶望なんて知らない呑気な顔をしている。その明るさに苛立つばかりだった。


「そんなことも知らないのか?」
「そんな言い方はないだろ」
「そうですよ。知らないことを知ろうとすることは良いことです」
「ほら!」
「…ちっ」


 どんな人物にもすぐに打ち解けてしまう馴れ馴れしさだって鬱陶しかった。カリナが愛想よく話しているのは外向きの態度だからと思うのだが、こうして庇うような言葉を向けられるのが自分でないのが憤ろしい。


「船員さんに聞いたんだけど、カルバレイスってすごく暑いんだってな」
「ええ。砂漠と火山群が大半を占めた、とても厳しい環境です」
「そんなところで住んでいるなんて、すごいなあ」
「彼らとて好きで住んでいるわけではありません。天地戦争の敗者である天上人が流刑され…その子孫たちなのです」
『第二大陸のことか』
『こんなかたちで天地戦争の跡が残っているなんてね』
「彼らは長年迫害を受け、他所から来た者には心を開きません。私たちも歓迎されないでしょう」


 わずかに顔を伏せ、それなのに淡々と状況を語るカリナがそこをどう思っているかはわからなかった。ただ、何かしらの感情はあるようだった。


「…私は以前カルバレイスに滞在していたことがあります。道案内程度ならできますよ」
「そういえば、カルバレイスからセインガルドへ来たと言っていましたね」
「ええ。あなた方にお会いする前でしたね。その後もバルック殿のところには何度かお邪魔しています」
「へえー。だからそんなに詳しいんだな」


 納得した、と頷くスタン。
 そして気付いたように海の方を指さす。


「あっ、本当だ!海岸の砂がずっと続いてる…すごいなあ」
「もう港に着きますね。皆さんに準備をして頂きましょう」
「俺、ルーティとフィリアに伝えてくるよ」


 そう言ってスタンが去るとまた二人きりにはなれたが、もう最初の話を蒸し返す気にはなれなかった。彼女は一心不乱に陸の方を見つめていた。
 彼女は何に想いを馳せてあの景色を見ているのだろう。
 リオンは、彼の知らない出会う前のカリナを探していた。







2016.11.08投稿
2017.11.17改稿


 
back top