09

 カルバレイスの地は、環境も人も外から来た一行には厳しいものだった。街中を歩いていて向けられる視線は穏やかなものではなく、ともすれば殺意も感じるほどだ。
 そんな中をしばらく歩き、人心地がついたのは、オベロン社の支店であるバルック基金のオフィスへ辿り着いてからだった。


「バルック殿は奥の部屋にいらっしゃるはずです」
「お前たち、ついて来い」


 応接室からバルックの執務室へ行こうとすると、スタンが引き留めてきた。



「バルックってどういう人?」
「なにを聞いてたんだ、お前は」
「オベロン社のカルバレイス方面責任者ってのは聞いたけどさ。バルック基金って何なのかなって」
「聞いてどうする」
「別にどうもしないけど。聞いたっていいじゃないか」
「無駄な説明しているほどヒマじゃないんだ」


 意味のない質問に説明を拒めば、彼は初めて見たくらいのむくれ顔でじと、とリオンを睨んだ。さすがに気の毒に思ったのか、ルーティが説明をしてやっている。
 しかしスタンが次々と投げかけられる聞いたことのない単語の羅列に敵うことはなく、結局わからないとしおしおと項垂れた。フィリアが的外れなフォローで追い討ちをかけていた。
 だいたい、スタンもスタンだがルーティの説明も何かの文章を丸暗記したようなものでわかりづらいのだ。そんな二人では時間の無駄以外の何ものにもならないというのに。
 もう付き合ってられるか、とバルックのいる奥へ向かう。


「ああ、リオンじゃないか。カリナもよく来てくれた」
「お元気そうでなによりです、バルック殿」
「カリナは数ヶ月前に会ったが、リオンとは半年ぶりになるか。…それにしても今日はずいぶんと大所帯だな」
「気にするほどの連中じゃない」
「そんな言い方ってあるかよ!」
「ふんっ、お世辞を言ってどうなるものでもない」


 先ほどの無駄話の腹いせとばかりに言えば、めずらしくルーティではなくスタンの方が先に噛み付いてきた。さっきのやり取りを根に持っているのか?
 電流でもお見舞いしてやろうと思ったが、その前にバルックの笑い声に遮られた。


「ははは!…いや、失礼した。なるほど、まだ若いのにいい眼をしている。――荒削りだが今後が楽しみというところだな」


 バルックに目をとめられたスタンは頭を掻いて照れくさそうにしていた。
 この能天気な男が、腕の立つ人物だと?


「バルック、そのくらいにしてくれ。のぼせあがるだけだ」
「のぼせてなんか!」
「はは、中々リオンに認められているようですな」
「えぇ?どういうことですか?」
「実力的に対等と認めればこそ言い方もきつくなる、ということだな。あなた方も、格下の者を相手にライバル意識を燃やしたりはせんだろう?」
「……」


 ちら、と背中に視線を感じた。
 誰のものかはわかる。わかるだけに苛立ちがつのる。
 やっぱりのぼせているじゃないか。バルックも余計なことばかりを言う。


「バカバカしいことを…っ」
「本人は認めたがらんがな、昔からなんだ。まぁ、負けず嫌いというのは結構なことだ」
「バルック殿、リオン様をあまりからかわないでください」
「これは怖い。まあなんだ、リオンの非礼は私が詫びるということで、よしなにしてやってくれ」
「バルック!悪いが今日はこんなくだらない話をしに来たわけでなないんだ!」


 これ以上、カリナまで加わって話を続けられてはたまったものではない。
 声を荒げて制止すれば、バルックはまた笑い声とともに手を振った。


「そこまでです。バルック殿、何か変わったことがあるならご報告をお願いします」
「ああすまん。そうだな…フィッツガルドのイレーヌから報告があった程度だ」


 す、と笑顔を引っ込めて、オベロン社の幹部は机の上に広げられていた書類を手に取った。


「なんでもレンズの運搬船が謎の武装船団に頻繁に襲われているらしい」
「謎の武装船団?」
「ああ、そうだ。正体は全くつかめていないが、明らかに我が社のレンズが狙われているようだ」
「なるほどな。神の眼については何か聞いてないか?」


 その言葉を聞いた瞬間、バルックは目を見開いた。
 先ほどから妙に話を焦らすと思っていたら、まさかヒューゴから何の連絡もないのか?


「おいおい、よしてくれ。悪い冗談だ」
「冗談なんかじゃない。神の眼がグレバムという大司祭の手に渡った。奴はこっちへ向かったんだ」
「そんな話は聞かないが――わかった、こっちでも調べてみよう」


 一瞬バルックとカリナが目配せをする。それで何かを察したのか、納得したように頷いた。
 カルバレイスにいたとは言っていたが、二人の間にはそれ程に信頼関係があるというのか?いつだってそうだ、リオンは何も知らない。








2016.11.15投稿


 
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