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 一際大きな部屋にたどり着いた一行は、奥に進むにつれ既視感があるのに気付いた。


「この部屋は…神の眼があった部屋にそっくりだ!」
「肝心の神の眼はどこだ?」


 そろそろと暗い中を探ってみたが、それらしいものは見つからない。ソーディアンたちも何も言わないのを察するに、気配はないようだ。
 と、いきなり辺りが明るくなった。


「そこで何をしている!」


 慣れない目を瞬かせ、そちらの方を睨むと大勢の神官たちが入り口を塞いでいた。
 その中の偉そうな一人が指を突きつけて唸った。


「ネズミが紛れ込んでいたか。まさか、こんなところまで嗅ぎつけてくるとはな。…だが、残念だったな。お前らが探しているものはもうここにはないのだ」
「じゃあ、やっぱり神の眼はこの神殿にあったんだな」
「その通りだ。だが、グレバム様の手により再び運び出されたのだ」
「やはりグレバムがここにいたのですね!」
「ベラベラと情報を喋るなんて…こいつら、馬鹿だな」


 驚くほど手がかりを落とした神官たちはそんなことは些事だと胸を張る。


「我らはグレバム様の思想に――神の眼が世界を制する、という言葉に恭順を示したまでだ」
「グレバムはそんなことを…?」
「そうだ。そして世界を征服した暁には、カルバレイスの愚民どもは我々が完全に統治する。大いなる神の力の前では人間など無力だということを理解させるためにな!」
「おまえらだって同じ人間じゃないか!」
「我々は愚民どもとは違う。言うなれば、神の寵愛を受けた選ばれし存在なのだ」
「そんなことありません!神の愛はすべての人々に平等に与えられていますわ!」
「否!神の道とはお前の如き小娘に理解できるほど浅きものではないのだ!」
「いいえ、神は…」
「おい――」
「彼らに説得は無駄です」


 いい加減にしろ、と怒鳴ろうとしたリオンの後ろからカリナの声が飛んだ。


「この地の者をよくも侮辱できましたね…神の眼、いえ、レンズはすべからく道具。道具は正しい技術によって役立てられるもの。振り回され、ましてや無知故にその力をいたずらに崇めるなど愚の骨頂だ!」
「くっ…この小娘が!許さん、許さんぞぉ!」
「危ない!」


 激昂し襲いかかってきた神官の攻撃をスタンが咄嗟に受け止めていた。カリナはマリーが後ろに庇っている。
 彼女の言葉に気を取られていたリオンは、一瞬反応が遅れて武器を構えた。


「貴様らザコに用は無いんだ。グレバムはどこに行った!」
「さあ、知らんな。もっとも、知っていたとしても教えるわけにはいかんがな」
「ペラペラ喋っておいてよく言うわねー」


 肩をすくめて言うルーティを、神官は鼻で笑った。


「フン、我々は待つだけでいいのだ。グレバム様のモンスター軍団が世界を席巻してゆくのをな」
「モンスター軍団!?」


 ここに来る途中でカリナが指摘したことが想起される。


「フ モンスターどもの命の源はレンズだ。オベロン社の輸送船を襲ってレンズを奪い、それを材料にモンスターを生産する」
「まさかっ!」
『そんな技術が現代に残っているわけがなかろう!』
「くっくっく……そうなれば後は時間の問題だ。弱体化した国々をグレバム様が神の眼の力で制圧していくのだ」
「…驚きだな。バルックが言っていた、フィッツガルドのレンズ運搬船襲撃がグレバムの仕業だったとはな」
「大国セインガルドへのレンズ供給を妨害し、さらに奪ったレンズはモンスター生産に使われる。一石二鳥とはこのことだ…どうだ、小娘?グレバム様は神の眼に選ばれた方なのだ」


 いやらしく笑う神官は、自らの話に酔っているようだった。
 しかし、カリナはより一層声を鋭くさせるだけだった。その怒りは見えないはずの表情からもありありとわかった。


「選ばれた?…やはり愚かだ。そんな方法でしか神の眼を利用できないなんて!」
「チッ、おしゃべりはここまでだ。グレバム様の邪魔をさせるわけにはいかない。貴様らには消えてもらおう」


 再び攻撃を仕掛けてきた神官は、けれどリオンたちの前には容易い敵だった。早々に片付けその部下たち共々身柄をバルックに引き渡すため拘束する。まとめて途中で通った牢へ入れておいた。
 カリナはその間に、神の眼の座を調べると部屋に残った。一人でいるのもまだ危険だからとマリーを側に待機させ、一旦別行動となった。
 何を調べるというのだろうか?先ほどの態度とともに疑問に思いつつ彼女のもとにもどれば、そんなことは忘れたとでも言いそうな、いつもの様子に戻っていた。


「皆さん、ご苦労様です。こちらも調査は終えました…何も有益な情報はありませんでしたが」
「これからどうするんだ?」
「行き先は決まっているだろう」
「行き先って…ああそっか、バルックさんに報告しに行かなきゃだよな」
「馬鹿か、そのあとの話だ!」
「フィッツガルドに行くんでしょ?また船旅ってわけね」
「今度こそ…グレバムに追いつけると良いのですが」


 うつむいたフィリアをルーティとマリーが宥める。スタンもそこに加わろうとしていたが、それを制して神殿から出るよう急かした。
 グレバムは今のところフィッツガルドに留まっているらしいが、それがいつまでかはわからない。早く出発するに越したことはなかった。


「お疲れでしょうが、早く出発してしまって船の中で休みましょう」
「それもそうね。早く行きましょ」


 いち早く部屋に背を向けたルーティ。その素直な態度に少し疑問を抱く。
 いつもなら、ちょっとした嫌味でも言ってくるというのに。さすがに疲れたというのだろうか?
 誰もかれもがらしくない。
 夜中に動いてハイになっていることも考えられるが、そんな単純なことでもないだろう。
 とにかく今は、神殿から出てしまおうと気を引き締めた。







2016.11.29投稿
2017.11.19改稿


 
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