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宿屋にカリナとマリーを置いて、リオンたちはそれぞれ情報収集のために外へ出た。
街の人々の話によると、やはり黒十字艦隊を襲ったファンダリア籍の船は占領軍のものだったらしい。スノーフリアはその占領軍に早い段階で陥され、今や国の首都たるハイデルベルグもグレバムの手中だと言う。
後手にまわってしまったが、きっとグレバムはハイデルベルクにいる。そこで決着をつけなければ。
セインガルドに攻め込まれれば計画に狂いが出る。そうとなればリオンも、マリアンもただでは済まないだろう。
「ハイデルベルグへはティルソの森という場所を通っていくそうですわ」
「グレバムの手下どもがあちこちにいるって」
よろず屋で買い出しをしてきたフィリアとルーティが、各々にコートを配りながら言った。
いつもならば、このような配慮はカリナがするものだった。必要なものの手配や情報収集は彼女が先に済ませてしまうのだ。
そのカリナが、今は宿屋の部屋の片隅で顔を伏せていた。
マスクと口元まで上げられたコートに遮られて表情は見えない。けれど、深く沈んでいることは歴然だった。
「さっそく出発…って言いたいけど、カリナもマリーさんも大丈夫ですか?」
「私は問題ないぞ。カリナ、気分が悪いなら背負っていってやろう」
「いいえ…その必要はありません」
瞳を合わせることもなく、暗い声が吐き出された。何かを耐えるような声だ。
明らかにおかしなカリナの様子に、パーティメンバーは各々顔を見合わせる。だが何を言ったところで彼女の意見は変わらないだろう。様子を伺いつつも先を急ぐことにした。
「リオン」
宿屋を出ようとして、皆から少し遅れて扉に向かった時。カリナに呼び止められた。
振り返ると、背後で開け放たれていた扉が閉まる音がした。
正面ではマスク越しの瞳が妙な光をはらんでリオンを見つめている。
「リオン、」
「…カリナ、様?」
「あなたが…もし、もしも。全てを忘れて逃げてしまいたいのなら」
「姉さん?何を」
思わず公的な呼び方をしてしまったリオンに構わずカリナは続ける。
尋常ではない言葉に、心臓が掴まれたように緊張した。
「聞いて。あなたが逃げるなら、逃げたいなら…ここしかない」
「待ってくれ、逃げるだなんて」
「ハイデルベルグの側に、天地戦争時代地上軍の拠点だった場所がある」
『拠点が!?』
「そこは今オベロン社が調査管理している。その地下には封印された飛行挺が――」
「リオンさん?カリナさん?」
早口で話すカリナの言葉を遮って、出口からフィリアの呼び声が届いた。急かすルーティの声も聞こえる。
今にも開けられてしまいそうな扉を彼女は忌々しく睨む。そうしてきりりと歯を食いしばってそちらへ向かった。
得体の知れぬ焦燥が、与えられたままリオンの胸を叩いていた。
2017.05.14投稿
2017.12.11改稿
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