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明朝。リオンたちはハイデルベルグ城へ潜入する。
皆が意気込んでいる中、やはりマリーはダリスの傍らに座り込んだままだ。そんな様子を見かねて、ウッドロウが彼女をダーゼンに託そうと言う。
「ちょっと、マリーを置いてく気なの!」
瞳を潤ませて叫んだのはルーティだ。
ファンダリアに来てから様子のおかしいマリーを常に気にかけていたのだから当然だろう。
しかしそんなルーティに、皆は悲しげな表情を浮かべることしかできない。
「ルーティくん、今の彼女に戦いは無理だ」
「…同感だな」
「マリーさんの悲しみ、わかりますわ」
フィリアまでにも諭されるようなことを言われてルーティは気色ばむ。
パクパクと言葉の出ない口を動かす彼女も、きっと自分の言っていることがただのわがままだと理解しているのだろう。
それでも、マリーと離れたくはないのだ。
「…なによ、今まで一緒に戦ってきた仲間じゃない!それを…、マリーをこんなところに置いていくですって!」
なおも食い下がるこの様子では、簡単に頷きそうにはない。
ルーティももう収拾がつかないのだ。自分の言葉と感情にふりまわされて。そんなことが――リオンにも多々あった。
それが気に食わなくて、はあ、とわざとらしくため息を吐く。
「連れて行って、足を引っ張られでもすると迷惑なんでね」
「っ、冗談じゃないわ!マリーがいつ、あんたの足を引っ張ったってのよ!」
興奮してアトワイトに手をかけたルーティが、その剣にたしなめられる。
なによ、とまた言ってうつむいた。
そこへスタンが眉を寄せて語りかける。
「ルーティ。もう、よせよ」
「スタン!あんたまでそんな事を…」
「マリーさんの事を一番知っているのはルーティじゃないか。分かってるんだろ?…いや、分かってないわけがないだろ?」
ルーティの肩に手を置き、瞳をしっかりと合わせて訴える。彼女の喉が空気を呑んだ。
誰よりもスタンの言葉が、彼女に届いている。きっと…少し、腹立たしいけれど。
「俺だって辛いんだぞ!でも、本当の仲間だったらわかってやってくれよ!」
「スタン…」
彼女は先ほどまでの威勢を萎ませて力なく目をこする。
ルーティは納得したのだろうか。
この旅路で、彼と彼女はどれだけの絆を築いたというのだろう。リオンにも少しは生まれたと思ったものは。
ずっと一緒にいても、カリナとの間にそんなものができているのか何度も分かった気になっては見失うのに。
ルーティはスタンの言葉に、涙をにじませながらも小さく頷いてみせた。
「マリー…あたしたちはグレバムを倒しに行ってくるわ」
夫の亡骸だけを見つめるマリーも、ルーティの声には顔を上げた。
相変わらず瞳に力はない。
「あんたは自分の故郷に、サイリルに戻りなさい」
「…そうだな。一緒にサイリルに戻ろうか、ダリス」
「そのうち遊びに行くからね。それまで元気でね」
「ルーティも、元気でな」
「マリー…」
弱った彼女の、側についていてやりたいのだろう。
それでもソーディアンマスターとして、今までグレバムの暴虐の跡を見てきた者として、このまま背を向けることはできない。
葛藤の末、何度もマリーを振り返りながら歩みを進めた。
足を引きずるようにしてついてくるルーティはスタンやフィリアに励まされている。
後に残すものに引力を感じているのだ。
――リオンは、この先に待ち受ける暗いものに引き寄せられるようにしているのに。同じ重い足はこんなにも違う。
いつの間にか居心地の良くなっていた彼らの輪の中から離れるのはもうすぐだ。
寒さに白くなった呼気が視界を覆う。
ハイデルベルク城への扉はとても重かった。
2017.07.16投稿
2017.12.14改稿
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