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部屋のベッドの中で耳を塞いで唸っていると、扉の開いた音がした。ノックはあったが返事は待っていない。こんな勝手なことをするのはおよそ二人だけだ。
案の定、予想通りの顔が上からリオンを覗き込んできた。
「リオンっ!どうしたんだ、具合が悪そうだけど大丈夫か!?」
邪気のない、素直な心配の言葉と態度に苛立ちがつのる。
誰にも心配などされたくない。リオンが無力だと言われているみたいだ。
頭痛までしてきて、何もかもが鬱陶しかった。
「うるさい…僕に…、僕に構うな」
壁の方へ身体を向けて、話すことはないという態度を示す。
それでも気付かないのか気にしないのか。構わず話しかけてくるスタンに部屋から出ていってほしくて、酔っただけだ、と嘘をついた。
「え、酔った?飛行竜にか?」
「ああ、そうだよ…僕のことは放っといてくれ!」
言ってから情けないような気分になるけれど、このまま会話を続けて惨めな思いをするよりは良い。だというのに、言葉選びを間違ったのかスタンは益々心配するばかりだ。
「放っておけるわけないだろ!俺たちは仲間じゃないか」
仲間?仲間だって!
スタンのソーディアンは、リオンのせいで話せなくなっているようなものなのに。ヒューゴの指示に従い、カリナの手の上で踊らされ、彼らに害をなすのはリオンだというのに。
それでもリオンを仲間だなんて言うスタンに、胸が引き裂かれ、泣きたくなるような心地だった。
「仲間なんて言葉を使うな!僕には仲間なんかいない!」
自分で叫んで、自嘲の笑みをもらす。
リオンにとって仲間はいなくても、オベロン社からしたらリオンは悪事に加担する仲間なのかもしれない。リオンにとっては仲間などではなくても。
もう旅は終わるのだ。スタンたちはリオンの前からいなくなる。
何も知らないのに、仲間だなどと。何故言うのか。
「いい加減にしろ、このお節介焼きが!」
「リオン…」
「おまえはいつもそうだ!まったく、付き合いきれんな!」
何も知らず、それでも良いと。どこまでも純粋に他人の心配ばかりするこの男は、リオンにとっては自分を苦しめる存在でしかなかった。
信じられる方がつらい時もあるのだ。後ろめたいことがあればなおさら。
「――この際だから言ってやる。人は、信じていたっていつかは裏切られるんだ!」
「それがいったい、何の関係があるんだよ?」
「僕は誰も信じはしない…だから、おまえらも、僕のことは放っておいてくれ!」
「わかったよ。ともかく、今は休んでろよ。じきによくなるさ」
「ふん、だといいがな…」
精一杯の怒鳴り声すら子どもの癇癪かなにかをあしらうようにするスタン。その態度は気にくわないが、部屋から出ていってくれるならもうそれでいい。
リオンの発言にだって気付くことはないのだ。そうしてまた何度でも近寄ってくるのだろう。
けれどリオンにはその手を取ることはできない。
なら、伸ばされる手など近くにない方がいいのだ。
「そうだ、ルーティ見なかったか?ちょっと、その…伝えたいことがあってさ」
「……」
「うわぁーっ!で、電撃は…」
「僕に構うなと言ったはずだ」
「わ、わかったよ」
無神経なこの男が側にいるべきは、もっと遠いところだ。他の皆も。
閉まっていく扉の音に、やっとのことで息を吸い込んだ。
2017.08.20投稿
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