02
足元から突き上げるような振動がリオンを襲った。
轟音が洞窟の中に響いている。
息はあがって、もうシャルティエを握る手の感覚もないほどだが、頭の中は冷静だった。
リオンはやり遂げたのだ。
慌てふためくかつての仲間たちを見やる。
「くっくっく、始まったな。僕の勝ちだ…」
なんのことだと何対もの目がリオンに向けられた。
特に睨みつけるような鋭い眼光だったのはルーティ。実の弟だと告げはしたが、まだ本当かどうか疑っているようだ。彼女はリオンに訊きたいことなど山ほどあるだろう。
けれど答えはしない。口端だけを歪ませる。
「終末の時計は動き出した。もう誰にも止められない」
一定の間隔で大きくなる揺れに、浮遊都市たちが次々と海底から昇って行くさまを思い浮かべた。
この世界は闇に包まれる。永遠に続く闇に。
そこにマリアンがいなくてよかった。
彼女には光溢れる場所で笑っていてほしい。
――リオンという存在から解放されて、自由になってほしい。
「…これで、やっと」
足下の水かさが増してきた。揺れはますます酷くなって、洞窟は崩壊してきている。
ソーディアンたちは逃げるよう促しているが、スタンやルーティは未だに剣をこちらに向けていた。
決着はついていないとでも言うつもりだろうか?リオンを倒して、ここから引きずり出すとでも言うのか?
それは無理だ。
シャルティエを構えなおしてあくまで敵対するという意思を示す。リオンはリオンの意思で自分の結末を選びとるのだ。
ジリジリと睨み合いが数瞬あって、しかしそれは一気に流れ込んだ水によって終わりを告げた。
濁流が身体をバラバラにするような勢いでリオンを押し流す。
息ができなくなって、肺にまで水が流れ込む。
このままどこまでも押し流して、リオンの存在したことまでも浚って沈めてほしい。
そうしてマリアンの記憶からも消えてしまいたい。
彼女には一片の憂いも残したくなかった。
――ふふ…さよなら…マリアン…
どうか、どうか幸せになって。
そんな気持ちで水の中そっと微笑んだ。
――ああ、でもきっと姉さんは忘れてはくれないだろうな。
ずっとリオンを残したことを悔やむのだろうか。それはして欲しくなかったけれど、カリナに後で追いかけると言ったから、せめて希望を持ち続けてくれればいい。
きっとそれがリオンにできる最大限のことだった。
二人にしてあげられたことはとても少なかったけれど、今はただ満足だった。
暗い暗い水底に身体が吸い込まれて行く。
光は見えない。
最後にしあわせだった日々の思い出を抱きしめて、リオンの意識はふつりと消えた。
2018.03.16投稿
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