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ソーディアンの調整がようやく終盤に差し掛かってきたようだ。
最終段階として実戦で使う様子を調べたいと、比較的手の空いているディムロスとシャルティエが研究所に呼ばれることになった。
「ソーディアンマスターは晶術っていう攻撃術を使うことができるの。どのくらいの威力が必要か見たいから、やってみて」
そう言われて、二人はそれぞれのソーディアンを手に取る。
ハロルドが晶術の使い方をレクチャーすると、ディムロスは少し手こずったがシャルティエはすぐにコツを掴んだようだった。
「ど?そんなに難しくはない感じ?」
「は、はい。でもこの晶術って…ちょっと、疲れますね」
「そこは得手不得手によるって感じね。精神を強く保たないと、すぐに消耗しちゃうわよ」
「ふむ。術の強さもその辺りに左右されるのだろうな」
話す通り、シャルティエの晶術は威力が安定せず、それに振り回されているようだった。
それに対してディムロスは、威力こそそんなには強くないが技の出が早く一定の強さだ。
そんな上司を見て、余計に焦ってしまったのかシャルティエの術コントロールが中々上手くいかない。
ハロルドはやれやれと溜息をつく。
「シャルティエ、別の技を使ってみなさい」
「別の?さっき言ってたあの、よくわからない?」
「いいから!」
シャルティエは小さく息を吐く。
そうしてもう一度、詠唱を始めた。
「――尽く臥せよ!」
すっ、と彼の周りの空気が研ぎ澄まされる。
晶力が色濃く立ち上るのが見えた。
「不殺の鉄槌――ピコハン!」
ピコピコピコッ。
どこか間の抜けたような音ともに現れたのは赤と黄色のどこか軽い作りのハンマー。
「……なんだ、これは」
「………これも晶術、なのですか?」
「…ハロルドさん?」
何が起きたのか理解できない三人を置き去りに、ハロルドはよしよし、と結果に満足しているようだ。
と、いぶかしげな顔が揃っているのに気付いたのか、彼女はシャルティエからソーディアンを奪い取った。
「ふっふーん♪ちょっと貸してみなさい」
「えっ」
「ピコハン!」
ピコピコッ。
またもや独特の音と共に現れたハンマーは、なんとシャルティエの頭上をめがけて落ちてきた。
「ぎゃっ」
「シャルティエ!?」
「シャルティエ殿!まさか…今の一撃で、意識が?」
「といっても、気絶効果は短い時間だけね〜」
ほらっ起きなさい!と剣の腹でペシペシとされたシャルティエは、意識を取り戻すと怒りだす。
「先に言ってくださいよ!」
「言ったら避けちゃうじゃない」
「そりゃ避けます!」
抗議を続ける彼を気にせず、ハロルドはこう説明した。
「今のは相手を傷つける術じゃない、あくまで動きを止めるだけのものよ」
それに、シャルティエがはっと息をのむ音がした。
「どう使うかは、あんたしだいってやつね」
「ハロルド博士…」
何かを考え込む彼と、言うことは言ったとまたディムロスを連れて実戦のデータを採り始めるハロルド。
マナはそんな彼の様子をうかがう。
「シャルティエ殿、」
「あ、ああ…すみません。僕たちも行きましょう」
「――殺傷能力のない術が組み込まれているのが、気になりますか」
「っ!」
ぴくり。
背を向けた彼の肩が揺れる。
「何か使い道があるはずです。ハロルド殿にもきっと考えが」
「アトワイトみたいに、」
ぎりり、剣を握った拳がきつくなる。
「彼女みたいに回復をして役に立てるものでもない…この術が、どんな役に立つって言うんだ」
「それは、」
「でも、何より嫌なのは!」
押し殺した、絞り出すような声。
「そんな術があることに安心している自分なんです!」
「!」
「僕は…戦うのが、怖い…」
ちらりと見えた彼の睫毛は、うっすらと光って見えた。
その真偽を確かめたくて顔を覗き込もうとしたが、肩をつかもうとした手は振り払われてしまう。
「シャルティエ殿」
「ディムロス中将だけでは採れないデータもあるでしょう。僕たちも行かなきゃ」
「あ、……」
マナをかわして、こちらを見もせずに立ち去る彼にかける言葉もわからず。
行き場なくさまよう手を下ろし、見つめることしかできなかった。
2016.05.17投稿
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