16

 制御室を出て、来た道を戻る。
 一刻も早くと急ぐのだが、ラディスロウへの道をまた遡るのだから、当然かなりの数の地上軍と交戦することになった。
 依然として戦況は差し迫っている。先に行かせた天上軍の兵士たちはエレベータ室で地に伏していた。


「…どけっ!」


 晶術を手当たり次第に発動し、撃ち漏らした敵は拾った剣で薙ぐ。もう剣も使いすぎて刃が鈍っている。仕方なく力任せに叩きつけるが、その分時間がとられる。
 焦りで苛つきが積もり、攻撃の精度に表れる。
 あと少し、あと少しと距離は縮まるのに、脚が重くなってゆく。
 ――戦いたくないのか、この期におよんで、彼らと。


「あ、」


 と、駆けていた足が止まった。
 あることに気付いて景色を呆然と眺めた。
 そこは今までに何度も通った、見飽きてうんざりするような通路だった。研究室へ続く道。
 その見慣れたはずの場所は、地上軍との戦闘によってボロボロに崩れていた。青白い壁も、美しいレリーフも。見る影もなく壊れていた。
 寒々しい天上に愛着など抱いていないと思っていたのに、自分がいた日常が破壊されていることに危機感を煽られた。
 失いたくなかった。今になって気付くなんて。


「嫌だ、」


 震える声で、こぼれた言葉。
 何に対してのものかは正確にはわからなかったけれど、ただそう感じた。
 それが何かを考える時間なんてマナにはなかった。
 ソーディアンチームはたどり着いたこの転移装置の向こうにいる。
 ああ、彼らはどんな顔で自分を見るだろう。


「…さようなら」


 転移の瞬間、目を閉じるととけるような感覚がした。








2017.05.07投稿


 
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