03

 縦に横にの脱出飛行から解放された一行は、白銀の大地を進んでいた。
 ベルクラント開発チームの面々は、研究室務めの上に久々の雪道での移動ということで、彼らの行軍は遅々としたものにならざるを得ない。それを護衛する地上軍兵士たちも突入作戦からの連戦で疲労は溜まっているようだった。
 ならば、とマナが共闘を申し出ようとしたのだが、彼女を引き止めてラディッツは言った。


「戦ってはならない。君は、戦えないということにしておきなさい」


 理由などわかるはずもなかったが、マナはただ従うだけだった。
 ともあれ、仲間たちと身を寄せ合いながらモンスターたちとの戦闘をかいくぐって行くと、雪の平原にぽつんと建物らしきものがあるのが見えてきた。ごちゃごちゃの寄せ集めたガラクタの山のようにも見えたが、近付くとそこには天上にはなかった熱気があった。


「ここが…地上軍の基地」
「無事に着いて良かった。――君たちを歓迎しよう」


 ラディッツと話し合っていた、救出班のリーダーらしき人物が声をかけてくる。


「君たちはハロルドと共に研究開発にあたってもらうことになるが、ひとまずはリトラー地上軍総司令に報告がしたい。ラディッツ殿は私と来て頂けますか」
「はい、ディムロス殿。マナ、皆に着いて行きなさい」

 ラディッツの言葉に頷き、どうすべきか辺りを見まわす。すると目に映ったのはあの目立つ少女。ダイクロフトでも軍の設備をいじっていたことから、工兵隊に関わりのある人物なのだろう。彼女は、今後関わることになるであろうその少女に向き合った。
 と、そこで重大なことに気付き口を開く。


「私の名前はマナと申します」
「そうみたいね〜」
「!…?」
「で?」
「えっと、その」


 マナの思っていたものと違う答えが返ってきて、思わず戸惑う。
 いつもならば、こう言えば望んだものが得られたのだ。
 何を言ったら良いものかと固まっていると、後ろから女性の声が聞こえてきた。


「ハロルド、意地悪しないであげて。きっとこの子はあなたの名前が聞きたいのよ」
「あら、言っちゃったのね。つまんないの」
「もう、ごめんなさいね。彼女、あなたに興味があるみたいなの」
「いえ、構いません。えっと」
「私はアトワイト、アトワイト=エックスよ。地上軍の衛生兵長です。怪我をしたら私に言ってちょうだい」
「はい、ありがとうございます」


 アトワイトと名乗った女性と会話をしていると、つまらなくなったのか先ほどの少女が割り込んでくる。


「はいはい、その子はウチの管轄よ。色々説明しなきゃいけないし、返してほしいんだけど?」
「わかったわ。あとはよろしく」
「おまかせー♪さっ、あんた…マナだっけ?私が工兵隊隊長のハロルド=ベルセリオスよ。ベルクラント開発チームと一緒に研究に参加してもらうから、私に着いてきなさい」
「はい。あなたに従えば良いのですね」


 良いデータが採れそうだわー♪とご機嫌な声ではなうたを歌い始めた少女――ハロルドに導かれるままに研究所へ案内される。
 そこは地下に穴を掘って造られたスペースで、所狭しと部品や設計図、開発中のマシンが並ぶ雑然とした場所だった。


「このような場所で、地上軍は武器を造っていたのですね」
「びっくりした?天上軍みたいな立派な設備じゃなくて」
「はい。このレベルで我が天上軍に挑もうという意思が理解できません」
「まあそうよね。でも、そうやって何もできないって決めつけて、そこから進もうとしないのは怠慢よ。やろうと思えば何でもできるの、人間って奴はね」
「何でも?」
「そう、圧倒的に不利な状況を覆して天上軍をやっつけちゃうとかね!」


 大きな目を輝かせながら、きっぱりと言う彼女にマナは急な不安に襲われた。
 理解不能なことを並べ立てられ、それらに覆われ、身体を冷やされているような。関わってはいけないと今までのすべてが警告を発していた。
 ここに来たのは間違っていたのかもしれない。彼女は静かに瞳を逸らした。









2016.03.18投稿


 
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